柱稽古3
目の前に居たはずの時透が突然消えた。
気配を察知し木刀を捉えたものの、打ち返すでも受けるでも無く、引く。
1日目のうちに時透の稽古に入れたとはいえ、思っていたより宇髄の稽古で体力を消耗していたらしい。時透の肩から先の動きをなかなか捉えることができない。
「遅いよ。基本ですら崩れてる。集中。」
自分でも体勢が崩れて格好悪いのが解る。
ーーせめて立て直す時間さえ確保できれば、、
《生かす方法で戦うしかないでしょ》
柚充は足に力を入れ一歩踏み込む。
その体は飛び上がり時透の上を飛び越える
引いてばかりの柚充が踏み込んだ事で時透の打ち込みは空を切る。しかしそれも時透の中では想定内。振り向きざまに振る時透の木刀を柚充は受け止めたものの、足がまだ床についていなかったため踏ん張る事が出来ず、そのまま木刀と一緒に道場の壁際まで吹き飛んでいった。
状況が掴めずに目をまん丸にして驚いていた柚充の所に時透が来る
「そうだなぁ、、
柚充はあそこの2人、、いや3人かな。
彼ら相手に打ち込み稽古しておいて。
打ち負かしていいから。」
指名された3人は自分たちより厳しい稽古を受ける柚充の相手をしなければならないと一瞬青ざめたが、3人で顔を合わせ3対1ならば何とかなると頷き合った。
「少し休憩したら始めてね。言っとくけど、
早く始めた方が柚充は疲れてるから」
ーー休む時間あげない方が良いって
言わないでくださいよ!!
「じゃ、また順番になったら呼ぶから」
そう言い残して時透は別な隊士の稽古へと去って行った。
ーーああ。視線が痛い。
ーーーーーー
柱稽古の事で柚充が実弥を怒らせる少し前に遡る。
不死川実弥は柱稽古を行なう宇髄、時透、伊黒に継子の柚充の稽古は他の隊士達より厳しくする様に頼んでいた。
「でも不死川さん。
厳しくするのは良いけど、それで柚充に痣が出たら?
さっきの話聞いてたでしょ」
時透の言葉で柱合会議でのあまねの言葉が再び実弥の頭に響く。
《痣が発現した方はどなたも例外なくーーー
齢25歳で命を落としています》
「んなこたぁ解ってる。それでも、、
それを知っても柚充は強くなる事を諦めねぇ。
だったら、俺は望むよう鍛えてやるしかねぇんだ」
きっと本当は割り切れてなど居ないのだろう。
誰しも自身の事であるならまだしも、自分の継子を死なせてしまうなど考えたくもない。しかも鬼にやられて死んでしまうのではなく、鬼を討つために死ぬ事を覚悟しろと言うのだ。たとえ勝利しても生きられないというのだ。そこに救いなどない。
「……辛いな、、」
その言葉は誰が発したのかその場に溶けて消えて行った…
ーーーーーー
柚充は木刀を振り続けている。3人相手では休む暇などない。しかし時透との稽古とは全く違う。太刀筋は見えるし、打ち返す事も難しい事ではない。
ーーだったらなんで3人と打ち込み稽古を?
《体への負担が軽く済む様に改善するとしよう》
《何より基本が大切だ》
人は慣れれば慣れるほど基本が薄れてしまう。
刀の振り方、足の運び、何にしても基本の土台がしっかりしていなければどれだけ素晴らしいものを上に作り上げたところで何かの拍子にボロボロと崩れ去ってしまう。
高速移動の稽古であるからこそ、敢えて一度速度を落として自らの動きを振り返らせる。
柚充なら気づく事も、無駄を削ぎ落として高速移動へ切り替える事も可能と時透は判断した結果だった。
柚充の動きは次第に整っていく。
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