呼び出し


「柚充ちゃんが居てくれないと
 風のおっさん見ただけで死ぬー」
「実弥様にそんな呪いはないよ。
 大丈夫!死ぬなら
 そのまま食らいつき続ければ良いだけだから!」
「嫌だ!柚充ちゃん居てくれおょー!」
「なんと言われようよ用事があるの!!」
「いぃーやあぁぁぁああーー!!」
「うっさいわ!!」

善逸が柱稽古に参加し始めた翌日、しのぶから呼び出され、柚充は縋り付く黄色い頭を引き剥がして蝶屋敷へと向かうこととなった。


そこで出会ったのは鬼であり医者。品がよく立居振る舞いも美しく、言われなければ鬼だと信じる事がなかったとさえ思う。
そう。上弦の陸を倒した後の手紙の送り主である珠世である。

『随分上手く化けた鬼がいたもんだ』
「しのぶ様、あれ何ですか。あの吊り目
 斬っていいですか?」
「柚充ちゃんダメです」
『愈史郎も謝りなさい』

連れの彼との相性はなぜか抜群に悪いらしい。

ーーーーーー

『柚充さん、先日は血を調べさせていただいて
 ありがとうございます』
「いえ。お役に立てたならそれで十分ですよ。
 何かおかしな事あったら後で教えていただけますか?」
ニコッと笑うと珠世は頷いた。
「あの、しのぶ様、
 それで今回は何故ここに呼ばれたのでしょうか?」

手を止めず黙々と作業を続けながら会話は進む。こんなに忙しそうなのに呼ばれた事が不思議で仕方ない。
「柚充ちゃんに渡したい物が一つあって、
 あとは申し訳ないのだけれど、
 また採血をさせてもらっても良いかしら」
「構いませんけど、私の血に何かあったのですか?」
「柚充ちゃん自身の問題ではなくて、
 もしかしたらその血が鬼舞辻を討つための薬の一つに
 なりそうなんです。協力して貰えますか?」
お力になれるなら喜んでと柚充は笑った。
それは紛う事ない本心であった。


ーーーーーー

「あの、柚充さんの体のことで気になる事を
 言っても良いでしょうか?」
恐る恐る言葉を選びながら珠世が口を開く。
その様子から柚充は何故か体の奥がざわざわする。嫌な感じがしつつも頷いた。

「確信は無いんですが、柚充さんは多分、、」

『申し訳ないのだが、それは我が機を見て
 言うつもりであった故、娘にはまだ伏せてもらおうか』


その声は柚充の声をしていたーーー。



ーーーーーー


『蟲の御柱(みはしら)。刀は納めてもらえないか?』
「害が無いと分からない限りできません」
柚充の首元に突き付けられている刀が鈍く光る。

『害が無いと示せと…難しい事を言いよる』

少し考える仕草をした後、しのぶをまっすぐ見据えて口を開いた。

『まわりくどいのは好きでは無い。
 しかし、無いものは無いとしか言いようが無い』

しのぶの瞳が揺れる。
「柚充ちゃんに隠す理由も合わせて
 あなたが何なのかを説明いただけるんでしょうね?」
『話せる範囲でなら。
 それが交渉というものだと心得ておる。なれど、
 くれぐれも娘には内密に。よろしいか?』

一筋汗がしのぶの額を流れ落ちた。今自分は鬼に囲まれている。まさか柚充がこの時点で鬼化するなど予想もしていなかった。
しかし、幸いに敵意も無ければ、話も通じる。
ーー大丈夫。大丈夫。

「……分かりました」



ーーーーーー



「あれ、、私寝てた?」
気がつくと、後にソファと名の定着する長椅子に横になっていた。
「あら、柚充ちゃん。おはようございます。
 柱稽古で無理してたんじゃないですか?
 突然寝てしまったんですよー」

「……寝て?、、」
柚充はあたりを見回すと、愈史郎と呼ばれた少年と目が合う。あからさまにフンッ!と顔を背けられ、なんだか癪に触る。
ーー会うなり人間に化けた鬼呼ばわりして今もこの態度!
  歩み寄ろうって気は無いわけ!
  そもそも私は人間だっての!
  今は確かに微妙かもしれないけどっ!

「じゃあ採血良いかしら?」
しのぶの言葉に柚充は我を取り戻し愈史郎の事はとりあえずどうでも良くなった。
 




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