柱の柱稽古2
「あの鴉、寛三郎?」
不死川邸に珍しいお客がやってきた。
柚充は留まらせようと腕を出したが、寛三郎の降りた先は、柚充の頭。
ーー……うん。おしいよ。おじいちゃん。
ーーーーーー
「とまぁそういう事で、
冨岡様が柱稽古に参加されたそうです」
「あのやろォ、、
オレはお前らとは違うとかなんとか
言ってやがったのを俺は忘れてねェぞォ」
柚充の報告早々に実弥の額には血管が浮き上がっていく。
ーーおはぎは潰さないでくださいよ、、
「オイ!これ食ったらすぐ出かけんぞ!」
「はい!」
ーーーーーー
「実弥様、顔怖い」
「うるせぇ。」
「冨岡様、準備良いですか?」
「ああ。」
「では、はじめっ!」
実弥と冨岡の柱稽古が始まる。
ーー空気が重い、、
「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ」
実弥が動き出す。やはりその動きは早い。
しかし、その時柚充は別な影に気付いてしまった。よたよたと現れきょろきょろ。再びよたよたとしている。
もう、目に入ってしまえば実弥と冨岡の柱稽古を集中して見てなどいられない。
ーーだめだよ!!寛三郎!!今は出てきちゃ!!
柚充は冨岡の鎹鴉、寛三郎を追って走り出す。
柱稽古に巻き込まれればタダでは済まない。
「ひかたっ!おじいちゃんを止めてっ!」
回り込まなければいけない自分よりとりあえずひかたを飛ばした方が早い。
ひかたが寛三郎のところへ辿り着いたものの、二羽はその場に留まってしまう。
ーーそこも危ないっての!!
尚も走り手を伸ばす。
「風の呼吸 伍ノ型」
「水の呼吸 漆ノ型」
その手はひかたと寛三郎を抱き上げた。
「木枯らし颪」
「雫波紋突き」
柚充は背中でバキバキという音、そしてヴォンという謎の音を耳にしたかと思うと、後頭部に激痛が走る。
「風ノ子大丈夫カノウ?」
「爺チャンがウロウロスルカラダロ。」
「義勇ガ何処カニ行ッテシマッテノォ。」
「ソコデ手合ワセヤッテル。」
「オオ!ナント!!」
鴉の呑気な話の側で柚充が頭を押さえて蹲っている。
なんの偶然か折れた木刀が飛んできた。頭に。
ーーなんか恨みでもあるのかなぁ、、
「寛三郎爺ちゃん…
冨岡様大好きなのは分かるけど気をつけてよ、、」
「ズット道場ニイタ筈ノ義勇ガオランクテ」
「だからって、周りちゃんと見ないと」
「次カラハ気ヲ付ケル。霞ノ子」
「風だよ」
ーー本当に大丈夫かなぁ?
「柚充!!!行くぞォ!!!」
「えっ?!!終わったんですか?!
私まだ冨岡様に稽古…」
「良いから早く来い!!!」
ーーえー。二人の手合わせすら見ていないし。
柚充は寛三郎を掴み上げて、冨岡の元へ運び頭を下げて実弥を追いかける。
「柚充。寛三郎のこと感謝する」
冨岡の声に柚充は足を止めずに振り返って手を振った。
因みに炭治郎が殴り飛ばされている事には全く気付いて居ないのであった。
ーーーーーー
「実弥様、顔怖いですよ」
「元々こんな顔だァ」
「そんな事ないですよ。
ちゃーんと優しい顔もしますよ」
歩いていると、突然ガクリと柚充が膝をつく
「何も無いところでこけてんじゃねェよ」
ため息をついて実弥は手を差し出した。
柚充の手が重なった途端に実弥はその手を振り払う。
「お前。柚充じゃないな」
実弥は躊躇わず日輪刀を抜き、柚充の姿の首にあてがった。
ーー目が違げェ。
「鬼になったら俺が斬るって言ってあるが…お前は誰だ」
『おーまてまて。
話しておかねばなるまいと出てきたまでよ。
敵意は持ちわあせておらん』
柚充の姿は両手を上げて敵意はないと示す。
「どう言う事だァ?」
『どう言う事も何も、そもそもこの娘は
鬼になったのではなく、生まれながらの鬼の子ぞ?』
ーーどう言う事だ…?
『それを話すために出て来たんじゃ。
まもなく鬼舞辻も動き出す頃合いなのであろう。
師である風の御柱(みはしら)もまた
知っておかねばならぬ。我を生かすも殺すも
その後に決めても問題はなかろうて』
実弥は柚充の首から刀を外したものの、鞘には納めず警戒を続けている。
柚充の姿はそんなこと構いもせず、近くにあった段差へ腰掛けた。
ーーーーーー
実弥と鬼が話す同刻。柚充の意識の中。
柚充の目の前、黒髪の女の子が現れた。
歳の頃は4、5歳と言ったところだろうか、、
下を向く少女に近づき前で膝をついた。
「あなたは誰?」
ーーなんだか違和感がある、、血の匂い?
「ちょっとごめんね!!」
柚充は少女の手を取ると袖を捲り上げた。
その腕には沢山の引き裂かれたような爪痕が残されていた。まだ瘡蓋(かさぶた)が出来ておらず血が滲(にじ)んでいる傷さえある。
柚充の手が震えた。何故こんな幼い子がこんな傷を負っているのか。心が締め付けられ涙が込み上げそうな感覚に、目をギュッと閉じ、目の前の少女を抱きしめた。
しかし直ぐに柚充はハッとする。
傷をこのままにしてはいけないと、少女から体を離し、ポーチから傷薬を取り出し塗ってはガーゼをあててテープでとめ包帯を巻いていく。嫌な予感がして反対腕をまくって見た時、柚充の悲しみは怒りへと変わっていく。少女に刻まれた傷は片腕だけでも、両腕だけでもなかった。腹にも背中にも、服で隠れていた場所は傷が隠されていた。
ーー信じられない。
涙が一筋線を引く。
『なぜうぬが泣く?』
「痛い事は悲しい事だよ」
手当が終わる頃には少女の体は包帯だらけになっていた。
『うぬはいつまで経っても泣き虫じゃ
なれどもう刻限が迫って来よる。
うぬも知って、選ばねばならぬ時ぞ』
柚充は小さくため息をついた。
それは納得をしたような、諦めるような。柚充らしからぬものであった。
「やっぱりあなたは、私なんだね」
瞬きをする間に目の前の少女が柚充自身と瓜二つの姿へと成長した。しかし彼女の髪は黒い。そして爪は鋭く瞳孔は猫のように細い、つまり鬼。
『それを話すためにうぬを呼んだ
聞く勇気は持ち合わせておるか?』
「ないと言っても、選ばせてはくれないのでしょう?」
『知らずに、知らせずに居りたかったわ。
鬼殺道を選んだが故、尚更な。
鬼殺でありながら、生まれながらの鬼であるなど……
だから、己で見極めてくれ』
いつのまにか現れた椅子へと鬼柚充は腰を下ろした。
現(うつつ)と夢とで姿が重なる。
鬼柚充の前に立つのは、それぞれ実弥と柚充。
鬼柚充の口が動き出す。
『さて。始めようかの。
生まれながらの鬼の子
柚充の母御(ははご)の話を』
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