柚の木3


『……それより我は殺したい鬼がおってな』

一言で表情は一変する。

継子として共に過ごして来たはずの顔なのに、実弥には全く別人にうつっていた。
『この体の血を飲み続けて力を蓄えた鬼が居る』


ーーーーーー

柚充が産み落とされた後、役目を終えた女の器はは完全に息絶えた。鬼舞辻は女への興味はあったが、柚充への興味は全く無かった。むしろ彼女が柚充を選ばなければ彼女を鬼として生かしていた。その考えから柚充を近くに置いておく事はせず、目の前から消すよう命じた。



『じゃあ、僕のところに置いておくよ
 何も知らない綺麗なモノを近くに置いておいたら
 気持ちがいいだろう?』
興味を示したのは童磨。
よく分からない自論で柚充を極楽教の屋敷へ連れて帰り、自分の信者に預け鬼を育てるという観察を始める。
月日は流れ、行動も活発になった柚充がひょんな事で怪我をした。童磨はその血の匂いに惹かれ思わず傷へ口を寄せ気づく。鬼舞辻ほどの効果ではないが鬼舞辻の血をもらった時と同じような高揚感と力を手に入れる感覚を。
それから柚充の血を童磨は飲むようになっていった。傷の治りは人間よりわずかに早いだけで次第に柚充の傷は増えていく。傷は服で隠れた場所ばかりで、まもなく4歳ほど。手をかけ続けなければ生きられない赤子ではなくなっていた為、信者は童磨の行動に気づくことはなかった。一方で、柚充の前で信者を食べ『余計なことを喋ったらお前を食べるからね』と脅して口を割らせなかった。近くに柚充を置き続ける姿は信者には子供に優しく見え、神々しさが増した様に映っていた。

そんな生活にも終わりはやって来る。


ある日童磨は上弦の鬼が招集され極楽教の屋敷を空けた。その際、偶然服が汚れてしまい着替えさせようとした信者が柚充の傷に気づいてしまう。青くなった信者は柚充の手を引いて屋敷から外へ飛び出した。
信者は柚充の血がどれほど鬼にとって魅力的なものか知る由もなく、あっという間に嗅ぎつけた鬼にその身を引き裂かれてしまった。
鬼に殺されそうになった時、まだ戦う術を持たない鬼柚充は柚充に成り代わると、鬼へと交渉を持ちかける。

『わたしの血は鬼舞辻の血と同じ効果がある
 殺してしまうのは勿体無いぞ?』

殺される事は回避できたものの鬼は柚充を物のように扱い傷付け、鬼柚充は悔しさを噛み締めていた。
しかし、なんの偶然かその鬼は鬼殺隊によって発見され柚充を手にして2日と経たずに討たれることとなった。

そして柚充は鶴梅の元へ。
生まれてからの記憶は鬼柚充が全て内へ抱え込み身を潜め、柚充に記憶は残さなかった。

ーーーーーー

「あなたの傷はほぼ童磨という鬼がつけたものなのね」
『我であり、うぬの体であるがの。』
鬼柚充は是と返す。

「私は無惨がどうとかそんな事は置いといて、
 あんな傷を負わせた鬼が許せない。
 それに、この血が力を付けさせてしまったなら私が
 討たなければいけないんだと思う。」
柚充は鬼柚充を抱きしめた。
「ごめんね。辛い事全部あなたに押し付けてた。
 知らない事を知ろうとせずに、傷だらけのまま放置した」
『うぬとて鬼殺となり戦っておったであろう?
 我とて手を貸さずにおった。
 覚えておるか?鬼の毒を喰らった時の事。』
柚充はがばっと鬼柚充から離れる。
「アレはなんだったの!?人の戦意喪失させて!」
『あの時は流石にと思ってな、うぬが、
 折れれば我が表へ出て戦えた
 その方が怪我の影響は出ておらなんだ』

ーー・・・・。
  じゃあ何?
  あの時鬼の私も戦うつもりでいたって事?

「分かりにくいんじゃ!!
 アレは完全に心折って乗っ取る悪役でしょ!」
『それに関しては炎の御柱にド叱られておる故
 もう勘弁じゃ!!!』
「仰々しい喋り方する癖に中身は大して
 変わらないじゃん」


『共に生きてきたからの』


ーーそっか、、生きてるのは人だけじゃない
  悲しいものは悲しい。
  苦しい事は苦しい。
  嬉しいや楽しいだって、、、

「あの唄、、あなたが唄ってたのね」
遊郭で柚充が唄えた唄。
少し話は変わっていたけれど内容は母様の事。
『、、子守唄なぞ知らんからな……』
視線を逸らしモゴモゴ答える姿はなんとなく愛らしい。きっと素直に耳を傾ける事が出来たのはたまに垣間見える人間らしさなのだろう。


「最後まで一緒に生きてくれる?」
『約束は出来んがな。
 うぬらが鬼舞辻を討てば鬼は消える。
 この血がどうなるのかは知らなんだ。
 もしもの時は、蟲の御柱の薬を飲め』

『我を消してうぬは生きてくれ』


ーーーーーー

実弥もまた鬼柚充との話が続いていた。

「童磨という鬼が恨みの対象である事は理解した。
 ならば鬼舞辻はお前にとって何だ?」
『その辺りは難しい所だな。確かに鬼舞辻の血で
 生きながらえた。しかしそれだけの事』
鬼舞辻に育てられたわけでなければ、抱き上げられた事すらない。鬼舞辻という者にとっては生まれた所で喜びの対象にはなり得なかった。
それやよりも、鶴梅が、実弥が、他の柱の面々が愛し、慈しんで、抱きしめてくれた。
それがここにある事実。
『鬼殺隊としてのこの娘を見ておれば感情も娘側に傾く
 というものよ。やはり鬼舞辻に対して明確な答え
 というものは見つからんがな。
 風の御柱よ。我をどうする?』

鬼柚充は実弥をまっすぐに見つめる。
その姿は凛として鬼である事を忘れてしまいそうになる。

「ーーーーーー」
実弥の紡いだ言葉に、鬼柚充は満足気な顔をしていた。
 




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