それぞれの決意


ーーだから護衛をつけるべきだと言ったんだ
  お館様。お館様。

  何故。守らせてくださらない……


産屋敷邸が見え、大事に至る前にお館様のところへ辿り着けると実弥だけでなく柚充も胸を撫で下ろした途端……

ドオン!!

爆風が炎の熱と共に訪れ目を見開いた。

ーー信じられない、、信じたくない、、

目的地であるその邸は無常にも目の前で爆音と炎を上げて吹き飛んだ。

実弥の背が震えている。
一言では言い表せない感情が渦巻いている。
「実弥様……参りましょう」
柚充は目の前の震える背を叩くと前だけを見てそのまま走り出す。柚充に現実へ引き戻される日が来るとは実弥は思ってもみなかった。拳を握りしめすぐに柚充を追い越し先へと足を動かしていく。


長い長い夜が幕を開けたのだ
ずっとずっと望んでいたはずなのに、この日が来てしまったという気持ちも決して嘘では無かった。


願わくば一分一秒でも早く夜が明けますように。再び仲間と言葉を交わせますように。


顔を上げて夜を睨み付けた。


ーーーーーー


「テメェかァアア!お館様にィイ
 何しやがったァアーーー!!!」
産屋敷に侵入した何者かの姿を捉えた時、既に悲鳴嶼は交戦していた。
実弥が、蜜璃が、伊黒が、柱が皆集結していく
「無惨だ!鬼舞辻無惨!!
 奴は頸を切っても死なない!!」
悲鳴嶼の言葉に皆の標的が一つに定まる。

柱達、そして柚充と炭治郎が各々刀を振るい鬼舞辻へと向かっていく。

しかし鬼舞辻の口が三日月型に歪む。


ーー!!?地面が消えた

足元が襖に変わる。そして口を開けた。
柱であっても反応する事は難しく、足場を無くした体は一様に体制を崩してしまう。
そんな中、実弥は柚充を咄嗟に蹴り飛ばした。
蹴られた柚充はしのぶの方へ。
本来であれば実弥は柚充をそばに置いておきたかった。しかし鬼化が進めばそれを止められる可能性が有るのはしのぶであり自分では無い。
戦闘能力の面で他の柱に劣るしのぶの傍に柚充を置いておけば、しのぶが柚充を生かし、柚充もまたしのぶの生存率も上げると咄嗟の判断だった。

『貴様らがこれから行くのは地獄だ!!
 目障りな鬼狩り共!
 今宵皆殺しにしてやろう』

ーー生きて戻れ!!
心の中で実弥は柚充に向かって叫んでいた。

「地獄に行くのはお前だ無惨!
 絶対に逃がさない必ず倒す!!」

鬼舞辻の声と同時に柚充の目から実弥の姿は消えしのぶの姿しか見えなくなる。聞こえる炭治郎の言葉は皆の決意を代弁していた。


落ちる、落ちる、無限の城へ


ーーーーーー

落下し続ける中、着地を見定めようと下へ目を向けると鬼たちが鋭い爪の手を伸ばし、口からは涎を垂らして待ち構えている

「風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪」

ーー丁度いい型があったものだわ

柚充が起こした風は鬼を滅すると共に床面で跳ね返り、下から吹き上げる風となった。
おかげでしのぶと柚充の落下速度は落ち、2人は障害なく床へと降り立った。
「柚充ちゃん。ありがとうございます」
「まさか上手く行くとは思いませんでしたけど、
 万々歳です!!」
「でも、不死川さん…
 自分の戦闘力を削る必要はなかったのに…」
目を伏せるしのぶに柚充は違和感を感じた。

「しのぶ様。帰りますよ必ず。」
「柚充ちゃん……」

『蟲の御柱。ここで当たりぞ』
「…………!?!」
『此処は覚えがあるわ。奴がおるぞ』
「……鬼の、、」


「でえぇぇい!!!

 勝手に出るな!!私だって怒っているんだ!
 人の鍛錬無駄にさせんな!!
 もう少し考えて!隠れていて!」

「・・・・・・っふふ」
しのぶの笑い声に柚充は我に返った。
「あ、あの、しのぶ様。
 これは、あの、説明するのは時間が惜し、、」
「大丈夫。もう鬼柚充(かのじょ)と話して
 知っていますよ。もし、記憶の共有が出来るなら、
 中の子に私との会話を繋げてもらってください。

 ……あの鬼が居るなら、今から臨むのは仇打ちです」

しのぶは仰々しい引き戸に手を掛ける。


柚充に流れ込む蝶屋敷での会話。頭の中でしのぶの口が動く
《私は鬼にーーーーー》


「嘘。。しのぶさま、、、」

引き戸に手を掛けたまましのぶが振り向く。
その顔は決意で色濃く染められていた。

そんな顔が一度だけ柔らかく微笑む
「いつのまにか
 こんなに慕ってくれる人が増えて、私は幸せね」

ーー『御柱の決意は堅いぞ。
   守りたくば、うぬが守るしかない』

柚充は口を一文字に結び日輪刀に手を掛けた。
 




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