それぞれの決意2


ボリ、ボリッ、ボリ、ボリ、、、
『ん?あれぇ来たの?わぁ、女の子だね!』
人間の手を持ち、口元に血を纏わりつけた鬼は振り向き屈託のない顔で笑う。

ーー姉さんの仇、、

さも当たり前のように挨拶をし名を名乗る。
童磨と名乗った鬼を「気持ち悪い」と柚充は結論づけた。
嫌悪を浮かべる柚充。一方で鬼の顔には笑顔が増していく。

『やぁ!柚充じゃないか!!
 君が連れてきてくれたの!
 いやーありがとう!嬉しいな。
 大きくなったね。戻ってきてくれると思っていたよ!
 ……ん?髪の色変わった?
 でも、似合ってるよ!

 大きくなったから前より
 いっぱい血を飲んでも安心だね!!』
柚充の背にぞわぞわと不快感が走り抜ける。

「た……すけ、、助けて……、、助けて……!」
童磨の前に転がる女性が目から涙を流し必死に此方へ手を伸ばしていた。
『しーー!今、話をしているだろうに…』
童磨が手を伸ばすと共に氷が舞う。
隣にいたはずのしのぶが童磨を挟んで反対側に立っていた。その腕の中には先程助けを求めていた女性。
「大丈夫ですか?」
『わぁ!速いねぇ柱なのかな?』


目を向けた童磨からは嫌な感じが伝わってくる。
ーーあ、だめだ、、
柚充がそう感じた途端に女性の体はしのぶの腕の中で血を吹き出し崩れ落ちた。

『その子はもう苦しくないし、つらくないし、
 怯えることもない。あとは俺が食べてあげるから
 その子は救われたんだよ』
「貴方、頭大丈夫ですか?本当に吐き気がする」
しのぶは立ち上がり童磨を睨みつけた。
『随分と刺々しい言いようだね。
 何か辛いことでもあったんじゃないの?
 君は柚充を連れてきてくれた女の子だし、
 僕が救ってあげるよ。
 だから話してごらん!』
両手に対の扇を持ったまま、しのぶに向かって手を広げる。
ーー弍ノ型
「爪々・科斗風!」
風の爪が童磨の背に迫る。しかしそれは扇で軽くあしらわれると違う軌道をたどり水飛沫を上げた。
『柚充?おいたはいけないよ。
 今、話してるでしょ』

童磨は何も無かったかのようにしのぶへ視線を戻した。
「つらいも何もあるものか
 私の姉を殺したのはお前だな?
 この羽織に見覚えはないか」

『ん?』

僅かに考える素振りで童磨の顔には花が咲く
『ああ!花の呼吸を使ってた女の子かな?
 朝日が昇って食べ損ねた子だよ。
 ちゃんと食べてあげたかっ…』
返答が終わる直前にしのぶの刀は童磨の眼を突き刺していた。
童磨は凄いと口にしながらも扇を振る
『血鬼術 蓮葉氷』
童磨から距離を取るしのぶ。柚充は飛び上がりその隣へと並びつつ童磨の放った氷を打ち砕く
「陸ノ型 黒風烟嵐」

『蝶の子は速いねぇ。
 でも、不憫だなぁ突き技じゃあ鬼は殺せない。
 柚充に同じ位の速さが有れば
 良かったんだろうけど残念だね』

その時、童磨の体が苦しげな声と共にガクンと崩れる。
「突きでは殺せませんが毒ならどうですか?」

童磨の口からビシャァと音がする程血が吐き出される。柚充は蹲る姿目掛けて飛ぶ

「参ノ型 晴嵐風樹」
童磨の体を風が包み斬りつけてゆく
その風が収まる前に風の中から声がする、、
『累君の山で使った毒より強力だよね。調合を…
 鬼ごとに変えてるとあの方も仰ってたなあ…』

ーー嘘、、稽古と鍛錬で威力は上がったのに、、

「黒風烟嵐!!」
決して諦めても怯んでもいけない。その時点で劣勢へ転じてしまう。

晴嵐風樹の風がおさまり童磨の姿が露わになる。その体には抉るような傷を残していた。しかしその傷は数秒で回復してしまった。
ーー甘く見ていた気は全くないのに。まだ足りない。
唇を噛んだ。

『柚充。おいたはいけないって言ったでしょ』
一瞬で目の前に現れた童磨の爪が柚充の額に突き刺さった。紅くどろどろとしたモノが意識を掴む。指が引き抜かれた額にその傷はない。だが、頭の中ではぬるりとした感触が蠢めく。
「……あ、、ああ嫌ぁぁぁああ!!」


赤い、赫い、頭の中に血色が広がる、、

《柚充の血を飲んでるとか
 余計なこと言ったら分かるよね?
 殺しはしないけど、苦しむことになるよ》
《あーあ。柚充のせいでこの人死んじゃったよ》
《ほら、柚充だって鬼の子なんだから食べな》

ーー知らない、知らない、知らない
  私の記憶じゃない、、
激しい頭痛がおき、頭を抱えて蹲る。
血の鉄臭い匂いすら感じキツく目を閉じた。


「柚充ちゃん!!」
『人の事気にしてる暇ないよ
 それに毒、分解できちゃったみたいだよ
 どお?次の調合なら効くと思う?
 やってみようよ。柚充も動かなくなったしさ!!』

二人で楽しもうよ
 




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