怒り3


「童磨?菩薩様が泣いてるよ」
『柚充!来てくれたんだね。一緒に生きよう。
 君が必要なんだ!もう出来損ないなんて言わない。
 僕に、僕に血を!ちゃんと君を大切にするから!』

刀身が柚充の腕が滑り、腕からは血が溢れ出す。
それはさながら不死川方式といったところ。
ヒタリ、ヒタリと柚充の腕から血が滴り落ちる。

童磨が柚充の腕に縋り付く。舌を這わせ血を舐める。
『ああ、、これでまだやれる』

『それはどうかのぉ?童磨。
 いい事を教えてやろう?
 この体の中にも藤の花は

 咲いておるんだわ

 我は、主を許さんでなぁ』

鬼柚充の目でニヤリと笑うと、童磨が顔だけでなく手の形までグニャリと歪んでいく

『蝶の妹!!躊躇わず斬りに来い!!』

ーー花の呼吸 終ノ型 彼岸朱眼

菩薩の攻撃にも粗が出始めていると見抜いたカナヲが菩薩をも越え向かってくる。狙うは童磨の頸一点。

振りかぶるカナヲの刀が童磨の頸に食い込んでいく。腐りかけの肉塊が刀を掴み斬られまいと足掻く。菩薩の顔が首から上だけぐるりと周りカナヲを向いた。
予想外の動きにカナヲはヒヤリとするが、そんな事を構うつもりも構う余裕も無い。
この頸を落とさなければいけない。
この頸だけは落とさなければいけない。

ーー私の命と引き換えになったとしても。



「陸ノ型 黒風烟嵐!!」

柚充の刀は氷の菩薩の顔に食い込み、カナヲの背に迫っていた氷の息はほぼその小柄な体に吐きかかる。それでも受け止められない氷の息は柚充を超えカナヲを凍らせ、カナヲの腕の稼働を妨げた。

ーーあと少しなのに
  腕が固まって…!!

「獣の呼吸 思いつきの 投げ裂きイイイイ!」

飛んできた伊之助のギザギザした刀がカナヲの刀を引っ掛け先へ導く。勢いを受けて花の日輪刀が振り切られた。

童磨の切断された首からは血が吹き出し、頭は重力に従ってベチャと音を立てて落ち、ボロボロと崩れ始めた。


ーーーーーー

ぷかぷかぷか。

ーーああ、流石に辛い、、
  氷漬けなんて今後一切お断りだなぁ、、、

水にぷかぷか揺られながら天井を眺める。
「ああ、痛いなぁ、、。」
あちこち痛くて仕方がない。
体も、、心も、、、。
ーーできそこないなのにね、、
柚充は静かに目を閉じた。


「柚充!!」
「寝るんじゃねぇ。死にてぇのか」
二人の声に目を開けると差し出されている手。

ーー二人だってあちこち痛いはずなのに。

僅かに躊躇いながらも上がった両腕をカナヲ、伊之助がそれぞれ掴み引っ張り、柚充は床面にひきあげられ、三人は座り込んだ。
顔を見た途端に柚充の目からは涙が込み上げる。

ーー造血剤が効いてきた、、、

柚充の傷口がゆっくりと消えてゆく。人間ではないという何よりの証拠。鬼である事が恨めしい。その時、手の爪が鋭く尖っている事に気がついた。鬼の自分が表に出ているわけではないのに、人の姿を保てていない。涙がポロポロ流れ始める。
「ごめんね……
「謝るんじゃねぇ。
 胡麻子は、、、柚充は俺達の仲間に違いねぇだろ。」
カナヲは柚充の鋭い爪の付いた手を取るともう一方の手を上に乗せ優しく包み込む。
「でも、傷が治るからって自分を犠牲にする戦い方は
 やめてね。不死川さんもわたしも悲しいから」
おかげで助かったけどとカナヲは微笑む。
柚充の目から涙が止まることはない。
「泣くんじゃねぇ!!まだおわっでね"え"ん"だ!!」
「伊之助だって泣いてるじゃん……」
「な"い"でね"え"」
伊之助は柚充の目元を掌で拭い、柚充も伊之助の目元を羽織の袖で拭く。
それを見ていたカナヲが小さく笑った。
顔は涙でぐちゃぐちゃだったが、カナヲの声で伊之助も柚充も口元が緩んだ。

ーー私たちはやったんだ。
  しのぶ様あっての勝ちだけど、、
  辛いけど、、それでも、、

  勝ったんだ。


ーーーーーー

涙は収まりきってはいない。それでも動かなければいけない。
柚充はポーチから傷薬を取り出し、応急処置をしようとしたところで、伊之助が声を掛ける。

「お前は動けるんだから先に行け」
確かに傷が治った柚充は、ここでもたもたしている理由も無ければ、その行動は勿体ないとしか言いようがない。

伊之助は立ち上がると、柚充を立たせ追い立てるように、自分たちに背を向けさせると、その背を叩く。
「俺たちも必ず追いつく!」

肩越しにカナヲに目をやるとカナヲもまた大きく頷いた。
「……分かったよ」
柚充は心を決めて前を向く。


「仲間って言ってくれて、、ありがとう

 凄く嬉しかった。」
 

走り出す柚充の背に声が届く。



「そんな事当たり前だ!!」
「何度でも言うよ!」


涙がまた溢れそうになるのを堪えて柚充は足を早めた。
 




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