命の使い方


「実弥様の刀を踏むなぁぁああ!!
 爪々・科斗風!!」
柚充は何本も立ち並ぶ柱を踏み台に勢いをつけ斬りかかる。相手が何かでは無い。刀を踏むというその行為自体が気に入らない。柚充の中では刀を踏むなど言語道断なのだ。
瞬時に実弥と交戦していた鬼は後ろへ引き下がるが、その鬼は体制を崩さず刀を振るう。
『月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り』
「参ノ型 晴嵐風樹」

交戦の勢いで、煙が湧き上がる。
実弥の目には二つの影が映った。

「柚充よ。今のは無茶であったと、
 自覚しているのだろうな」
「悲鳴嶼様見えたので頼りにしちゃいました」
柚充の晴嵐風樹で防ぎきれなかった斬撃は悲鳴嶼が、撃ち落としていた。

『次々と…降って湧く……』

「我ら鬼殺隊は百世不磨。
 鬼をこの世から屠り去るまで…」

悲鳴嶼の日輪刀である武器の鉄球がヴォンヴォンと音を立てて回り出す。
「不死川は腹の傷を縫え。柚充は時透達の所へ。
 その間は私が引き受ける」
柚充は悲鳴嶼の言葉に、実弥を向く事なく足を早めた。今は目配せしてる暇などどこにも無い。先程は不意打ちが上手く行っただけであり、簡単に倒せる相手ではないのだから。


ーーーーーー

時透の肩に刺さり、磔にしている刀が柱から抜ける瞬間、柚充は落ちてくる時透を滑り込みで抱き抱えた。受け止めきる事はできず尻もちをつくが、時透が床に激突する事だけは回避した。だが、肩に刺さる日輪刀が抜けた訳でも、痛みが消えた訳でもない。
「柚充、、助かった」
「助かってないですよ。床に転がらずに済んだだけです」
「だいぶ違うよ」
時透は少し困ったような顔をして、一言だけ「頼む」と口にする。ここで頼まれる事は一つだけ。柚充は時透に刺さる柄(つか)を握り息を付いた。
「三、ニ、ッ!!」
「うッ!!!」
日輪刀を抜き去ると間を置かずに布を巻き付け締め上げる。
「普通は、三、ニ、一でやるもんじゃないの?」
「逆に力が入っちゃうじゃないですか。
 少しでも辛くない方法ですよ」
「柚充はたくましくなったね」
「時透様に何度砂を舐めさせられたか分かりませんから」
フッとどちらからともなく笑う。笑い声が続く訳ではない。戦いの最中であり、命の限りが見え出している。

《足を止めて蹲っても時間流れは止まってくれない》

下を向き次に顔を上げた時にはもう、笑い顔は消えていた。


ーーーーーー

「時透さん。柚充。手を貸してもらえるか?」
戦いの場に戻ろうと走り出した時、呼ぶ声に時透と柚充は足を止める。そこには玄弥が倒れていた。

胴二つになっても生きているなんて信じられない状態ではあったが。
「最期まで…戦いたいんだ…
 兄貴を…死なせたくない……」

「わかった。一緒に最後まで戦おう」
柚充が胴を押し付け、時透は玄弥が求めた上弦の髪の毛を取りに向かう。


『風の弟…鬼に食い潰されるとしても戦うつもりか?
 それは風の兄が望まなさいとしても?』

柚充の顔を見て玄弥は驚く。柚充の目が鬼の目をしていたから。しかしそれもすぐに受け入れられる。玄弥は柚充の血に鬼の力がある事は知っており、その血から作られた薬を一時期飲んでいたから。

「引く気はねぇ」
鬼柚充は一つため息をつく。
『それだけの覚悟があるなら
 我も手を貸そう。望めばの話だがな。』
「兄貴を守れるか?」
『それは我が保証するところではない。
 お主は鬼を喰うのであろう?我がしようとしている
 のは簡単に言えば、鬼化の影響を極力食い止める事』
玄弥はその言葉にどこか希望じみたものを感じていた。喰った鬼の影響で自我を失ってしまう事もある。今から喰おうとしているのは上弦の壱であり鬼舞辻の血が最も濃い鬼。どんな影響が出るかなど予想もつかないのである。

『しかし、力を使うのは初めてでな。
 失敗し、お主が鬼となる事もあるやもしれん。

 一か八か。選ぶのはお主じゃ』

玄弥は湧き上がる不安を唾液と一緒にゴクリと飲み込んだ。不安に勝ったのは最期まで戦えるという事と、柚充という存在に対する信頼。玄弥は頼むと小さく口にした。鬼柚充が立ち上がったとき時透が上弦の髪の毛を持って戻る。
玄弥向かって手のひらを向け口を開いた。

『もしもの時は必ず柚充が首を刎ねてやるわ。

 血鬼術 ーーーーーーー』
「!!!柚充?!!」
時透が目を見開くその前で、鬼柚充が自らの手首に爪を立て皮膚を切り裂く。溢れ出す血は生き物のようにうねうねと宙を泳ぎ次第に玄弥を包み込んでいく。
全身を覆った血は玄弥の体に染み込むようにゆっくりと消えた。

両手をまじまじと見つめていた玄弥が鬼柚充を見上げ口を開く。
「……俺、、何か変わった?」
『……。変わらんな』
「………。失敗、、とか?」
『…………。かもな。分からん。』

・・・・・・・・。

「柚充?!何が起きてるの、、」
『霞の、、』
「時透さん!大丈夫です!多分だけど、、
 殺す気なら俺は今生きてないっ!だから!!」
「本当なんだね?」
『信じる、信じないは主の自由に。』

スゥッと柚充の気配が元に戻り、鬼の気配は消え去った。

「あれ?、、、、」
きょとん顔の柚充があたりを見回す。自分を見つめるこの目。玄弥と時透のような反応には覚えがある。
ーーああ、また勝手に、、
それぞれゆるく一本指立てた両手を頭の上に乗せ「出てた?」と問う。鬼でてた?と。

「お前、、緊張感ねぇなー」
「なんかどうでも良くなった。
 どう見ても柚充だもんね。」


「あ、えっと、、なんか……ごめんなさい」
 




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