命の使い方4


「不死川!!終わりだ!!」

「……っ!!実弥様?!」
柚充は悲鳴嶼の声で失いかけた意識を取り戻し体を起こした。目に入ったのは悲鳴嶼に抱きかかえられた実弥の姿。さーっと血が引いて行くような心地がして柚充は2人の元へ駆ける。
「悲鳴嶼様!!実弥様は、、、」

「大丈夫だ。時透と玄弥は、、」
「……時透様は鬼から切り離した時にはもう、、、玄弥は、、」
視線を玄弥向け隊服を握る。

ーー私が守りきれなかったから、、

「悲鳴…嶼…さん。兄貴は、、時透さん…は…」
玄弥の声に実弥を横たえ悲鳴嶼が駆け寄る。左肩から心臓の位置まで切り裂かれた体は本来であれば即死している傷で、それを物語る様に横たわる床には大量の血溜まりができている。
そんな状態でもまだ生きていられるのは鬼を取り込んだ為だろうと悲鳴嶼は理由づけ、黒死牟の影響は血が流れ出た事によって薄まり、稀血である実弥を傍に置いても障りはないと判断した。

実弥を玄弥の元へ運んでいく悲鳴嶼を眺めていると悲鳴嶼が柚充を呼ぶ。

「悪いが柚充。できる範囲でいい。
 不死川の傷の手当てをしてやってくれ」
「悲鳴嶼様は、、、」
「不死川と自身の後で十分だ」


ーーーーーー

「玄弥。ごめんね。私が気を抜いてしまったから、、」
「……柚充の…せえじゃ…ねぇよ。
 俺の…事…守って…怪我した…だろ

 それに

 俺は……兄貴を守ってくれただけで十分だ」
 
玄弥は柚充に微笑んだ。


涙を堪えて実弥の手当てを進める。無くなってしまった2本の指。あちこちの傷、気休め程度にしかならないとしても薬を塗って包帯を巻いていく。

すーっと実弥の意識が戻ってくる。
「うわああああああ!!」

実弥は応急処置中にも関わらず、飛び起きると玄弥に縋りつき、名を呼び、流れる血に、傷に涙を流して叫び続ける。

鬼柚充が柚充に変わるよう口にした。
柚充は内から話を聞く。

『御柱、、、風の弟はな、、
 ギリギリ繋ぎ止めておるだけなのだ。
 鬼を取り込み過ぎた体は本来ならあの鬼が消えた時

 一緒に消えてしまうはずだった、、。

 そして、もう術も解けかかっている……』

鬼柚充の血鬼術がきえてしまえば、たちまち玄弥の体は崩れて消え去ってしまう。

『我にはこれ迄しかしてやれなんだ……』

せめて、消え去る前に言葉を交わす時間を。
せめて、鬼と同じ末路など見せたくはないと。

「何とかならねぇのか!!血鬼術を掛け直すとか、、」

『傷口から血が流れ落ちてしまう、、』

「兄、ちゃん。いいんだ。」
「良いわけあるか、、」
「ごめん。
 あの時……兄ちゃんを…責めて、、
 迷惑ばっかり…かけて…ごめん…」
「迷惑なんかひとつも掛けてねぇ。
 俺より先に死ぬんじゃねぇ!!
 お前も諦めんじゃねぇ!!」
「同じ…気持ち…なんだ…兄弟…だから…
 
 生きて、生きて、

 幸せになって欲しい。

 俺の…兄ちゃん…は…
 この世で…一番…優しい…人だから」

玄弥の呼吸が弱まっていく。
意識がどんどん遠く離れて

逝ってしまう、、、

実弥が、玄弥に縋り涙を流し続ける中、柚充がカチャリと日輪刀を抜く。滑らせた腕からは血液が滴り、それを見た悲鳴嶼が疑問を含んだ声音で小さく柚充と名を呼んだ。

玄弥の体は少しずつ崩れ始めている。

「鬼に体はやらない。骨も残らないなんて私が許さない。
 実弥様の宝物、、奪わせたりなんかしない、、」


悲鳴嶼が実弥の肩を叩く。
「不死川、行かねばならぬ。
 顔を上げろ。無惨を倒すまで終わりではない」

「亡骸は鬼に奪われぬよう。
 柚充が力を尽くす。
 
 無惨を討った後でも別れはできると
 自身の継子を信じてみないか……」



ーーーーーー

ぽたぽたぽたぽた玄弥の傷口へ柚充の血が流れ落ちていく。

自信も確証も何も無い。
でも昔、柚充は隠の里の母を鬼にした。
あの時は鬼にするつもりなんてなかったし、自分の血の危うさなんて知らなかった。

でも、この血を持った事に意味があるなら

鬼の力を再生能力を必要な分だけ有効に使う。
せめて玄弥の肩から心臓にかけて付いた傷も消し去ってやりたいから。その為なら血を惜しんだりしない。

『しかし、風の弟が鬼化してしまえば、
 うぬは斬らねばならなくなるぞ。
 そうなれば体が消えてしまう事に変わりは無い』
「傷が消えた後にこれを使えば良い」

その手に収まるものを見て鬼柚充は言葉が出なかった。
亡骸を奪わせない。体を崩れさせない。それだけの為にしては代償が多過ぎると言ってしまえれば心はいくらか楽だったかもしれない。しかし、口にする事は出来なかった。言ったところで柚充の決意は揺るがないとわかっていたから。

「玄弥は実弥様の宝物だから」

柚充は願う。

どうか私の考えが外れていませんようにと。
 




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