望み3
柚充の目の前にはすやすや寝息をたてて炭治郎が眠り続けていた。害がある様には全く見えない。しかし、確実に鬼の気配がする。
ーー泣いてばかりでは居られない。
炭治郎の頸を落とさなきゃ、、、
柚充は腰の日輪刀を抜く。手は震え、涙で視界は歪み、炭治郎の、、禰󠄀豆子の、、仲間達の顔が浮かんでしまう。
ーーどうしてここに居るのが私なんだ、、
どうして鬼化するのが私じゃ無いんだ、、
《自分に日輪刀の才より、銃が扱える理由を、
意味をよく考えるんだ》
それは時透が玄弥へと言った言葉。
ーーもしもここにいる理由が私の中にあるならば、、
それはきっとあれしかない。
鬼柚充の返事がない。
そして彼女の言葉を借りるなら『この血にも藤の花は咲いている』
今まで気付かなかったが鋭い爪と牙が元通り人の物に戻っていた。
ーーははっ。
実弥様に不死川方式は禁止ですって言ってから、
私は何回これをするんだろう。
何回、でこぴんされなきゃいけないかな。
仕方ないよね。
弟子は師に似るものですよ。
これで最後にしますから。
許してくださいね。
刀身が柚充の腕の上を滑っていった。
ーーーーーー
現実では、カナヲが炭治郎の元へとフラフラになりながら辿り着こうとしていた。
しのぶから預かっていた人間に戻す薬を手にしながら涙を流す。
《藤の花から作った鬼を人間に戻す薬、柚充ちゃんに
使ってあげられれば良かったんだけど、
あの子にはこの薬は使えなかったの。だから、
これをカナヲに預けておきます》
「私の目を片方残してくれたのはこの為だったんだね。
姉さん。」
ーー花の呼吸 終ノ型 彼岸朱眼
「炭治郎。禰󠄀豆子ちゃんを泣かせたらだめだよ…」
ーーーーーー
ーー帰りたい
俺も家に帰りたいよ禰󠄀豆子。
本当にもう疲れたんだ
お願いします 神様
家に帰してください
肉に埋まった状態で炭治郎は天に手を伸ばす。
「良かった、、炭治郎だ」
ーー柚充。顔色悪いぞ。……血?
炭治郎の視線に柚充はこんなの大したことないと笑った。
炭治郎の手を握っても彼に掴み返す力はない。咄嗟にそう判断をし柚充は彼の腕を掴み、肉に埋まるその体を引き上げる。
「帰ろう。みんなが待ってるよ」
『帰ってどうなる。家族は皆死んだ。
死骸が埋まっているだけの家に帰ってどうなる』
「無惨、死骸が埋まってるだけじゃないよ
家には思い出が、幸せが詰まってる。
皆が、禰󠄀豆子ちゃんが待ってる」
柚充が引っ張る炭治郎の腕に無惨の肉がしがみついていた。斬れば良いだけの事なのは分かっている。しかし柚充はそれをしない。
上半身が上がると、引っ張り上げていた腕を離し足側に回り、炭治郎にくっついている肉を引き剥がしにかかる。柚充が腕から離れた事をこれ良しと思ったのか、無惨が体の形を取り戻し炭治郎に縋り付いていた。
「無惨。もうダメだよ。炭治郎を皆んなに返して」
『何故お前にそんな事を言われる筋合いがある。
お前とて同じだ。
大勢の者が死んで炭治郎やお前達だけが何も失わず
のうのうと生き残るのか?』
炭治郎の目から涙が溢れ出す。
優しい彼は自分だけ生き残るというその言葉に耐えられなかった。心が揺らぎ天へと伸びていた腕が僅かに下がり躊躇いの色が見て取れた。
《 生きろ 》
何処からともなく確かに聞こえた。
そして、炭治郎は背に暖かいものを感じる。
諦めるなと、手を伸ばせと、その暖かい手は炭治郎の背を上へ上へと押し上げる
体が完全に肉から浮き上がった時、柚充は炭治郎の背で彼を助け出そうとしていた彼らと目が合う。
ーー炭治郎をお願いします
もう大丈夫と柚充はそう思った。
炭治郎から距離を取る。
「それは違うよ。
炭治郎はもう数え切れないほどのものを失った。
家族も仲間もかけがえのない時間を鬼と戦う為に
失ってきたんだ。もうこれ以上彼から、
そして炭治郎を仲間から奪うのはやめて」
頭上に藤の花が見えた。
そして花の中から手が伸び炭治郎の手を取る
ーー禰󠄀豆子ちゃん。
そうだよ。炭治郎はここに居る。
つれていってあげて、、
『炭治郎待て!!待ってくれ頼む!!
私の意思を思いを継いでくれお前が!!
お前にしかできない。
お前ならなれる!!完璧な…
究極の生物に!!』
まるで無惨は駄々を捏ね続ける子供のようだった。とてもとても可哀想な…….
藤の間から更に手が炭治郎の腕を掴む。
冨岡が、善逸が、伊之助が。
カナヲが、仲間が……
「皆んな。炭治郎をお願いね」
「……柚充………」
皆に手を引かれながら、炭治郎の目が柚充を見る。仲間が掴んでいる手と反対の手が僅かに柚充に向けられた。
しかし、その手を取る事なく柚充は首を振り微笑んだ。そして炭治郎が引き上げられて行くのを嘆き続ける無惨の後ろで見送った。
帰ろう 家に帰ろう
『私を置いて行くなアアアア!!』
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