行く先
結構前の話になりますけど、任務で向かった先である小説家さんに会ったんです。
その人は書き途中の物語をみせてくれて、なぜか感想を聞かせてくれっていいました。
その話はお釈迦様が地獄をのぞいていて、地獄では極悪人が苦しんでいるんですって。でも、この極悪人は生きていた時に蜘蛛を助けた事があって、お釈迦様は上から一本の細い蜘蛛の糸をたらして極悪人を助けようとします。極悪人が糸をのぼっていくと、後から救われたい罪人がどんどんのぼってき、このままでは蜘蛛の糸が切れてしまうと思った極悪人は糸は俺だけのモノと叫んでしまうんです。すると途端に糸が切れて極悪人は地獄に戻ってしまった。
こういうお話だったんです。
私は小説家さんに、もしこの極悪人が、蜘蛛ではなくて人を助けていたら、差し出されるのは人の手であったのでしょうか?と聞きました。
小説家さんは少し困った顔で微笑みました。
極悪人と言われるほど踏み外しても手を差し伸べてくれるそんな人がいたら、その人はそもそも極悪人にはならなかったのかもしれないね。と。
ーーーーーー
「鬼舞辻無惨。
あなたは少なくとも1人の女性の願いを叶えて、
1人の赤子を救いました。その赤子が私なんです。
私は日の下で生活ができました。
人の暖かい心に触れる事ができました。
幸せと思う事が出来ました。
苦しい事も辛い事もあったけど、私の体には鬼の血が
通っていたかもしれないけれど、全てはあなたが
血を分けた事で経験できた事です。
だから、それに関しては私はあなたに感謝しています」
『そんな事知ったことではない』
柚充は立ち上がり、手を取ろうとしない無惨の手を掴んだ。
「あと一つ。私ずっと考えていたんです。
確かに貴方は私に興味はなかった。
ならば何故、私の中で私を身を案じ、
守ってくれる鬼が居たのかと。
母様が望んだから。確かにそうなのかもしれない。
でも、思ったんです。
貴方も心の何処かで私の生を
望んでくれたのではないかって。」
『くだらない……』
最初から「そうだ」なんて返事は待っていない。でも、言いたいことはもう言った。柚充にはそれで十分だった。
「さあ、行きますよ。
死ぬことは怖い。それは誰だって同じなんです。
あなたはそれを強いてきた。
だから、地獄に落ちる事は分かっています。
罪は背負わなければいけません。
でも、地獄の偉い人に口添えしてあげます
たった二人でも、この男に感謝してる者がいるって。」
『お前が私を救うとでも言うのか』
「あなたの血が巡っていた体はもう日に焼かれて
消えてしまいましたから、戻る事もできませんしね」
鬼の血を無効化する瓶詰めの薬は玄弥のからだを保つ為、自分の血で玄弥を鬼化させ致命傷が塞がった後、その鬼化を無効化するために全て使った。柚充の体は減った血を補うために造血剤を摂取し続けたこともあり、鬼の血の濃度が上回り、日を浴びた無惨と共に崩れ去ってしまった。
しかし、柚充はとっくの遠に命の使い方を覚悟していた為、消えてしまうことに関しては何の後悔もしていなかった。
心残りが全くなかった訳では無いけれど。
「早くしないと母様が悲しんでしまいますよ」
柚充が指さす先に無惨にも確かに見えた。暗い暗い闇の先、仄かに灯る小さな光。その光は小さいのにどこか暖かい。
無惨は柚充に手を引かれながら立ち上がり、その後ろを歩き出した。それは迷子の自分を光へと導くようであんなに変化を恐れていたというのにこの変化は悪くないとさえ思える。
何千年と生きてきて孤独を忘れたあの一瞬。
理由は分かっている。
気づかないふりをしていた。
彼女が居たから。
彼女が笑顔を向け続けていたから。
未来を語ってくれたから。
あの時涙が流れたのは…
彼女が愛しかったから。
いつの間にか無惨の姿は鬼殺隊と死闘を繰り広げた姿ではなく、髪の色こそ白かったがスラックスと上着という整った姿へと変わっていた。
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