風の子
桜の花が舞う中、最後の柱合会議が開かれた。
会議といっても残った柱は実弥と冨岡の二人だけ。鬼舞辻を討ち鬼が滅んだいま、鬼殺隊の必要は無くなり解散の道へとすすむ。
お館様である輝利哉は姉二人と共に実弥と冨岡に深々と頭を下げた。
「顔を上げてくださいませ!!」
「礼など必要御座いません。
鬼殺隊が鬼殺隊であれたのは産屋敷家の尽力が第一」
「輝利哉様が立派に務めを果たされた事、
御父上含め産屋敷家ご先祖の皆様も
誇りに思っておられることでしょう」
実弥と冨岡の言葉に初めて、輝利哉は年相応な顔でありがとうございますと涙を流した。
実弥と冨岡は顔を見合わせて微笑んだ。
「実弥。これを渡したかったんです」
輝利哉の声に後ろで控えていたヒナタが実弥の前に座り、一通の手紙を差し出した。
「これは、、」
「柚充が実弥に書いた手紙です。
父上が遺書として預かっていたようです」
ーー遺書、、。
表書きには、不死川実弥様と見知った字が並んでいた。きっとこれを読んでしまえば本当に柚充が消えてしまった事を受け入れなければいけないのだろう。それでも受け取らないわけにはいかない。
師として最後の仕事なのかもしれなかった。
「ありがとうございます」
ーーーーーー
屋敷に戻ると柚充が使っていた部屋を静かに開けた。しかしその姿は無い。
「必ず帰りましょうって言ったくせに、
お前が居ねぇじゃねーか…」
実弥呟きは誰にも届く事なく消えていく。
実弥は自室にむかい手紙を開く。
【拝啓、、、前略、、?
まぁ良いや。不死川実弥様へ。】
ーーちょっと待て。
残した手紙の書き出しがコレか?
愕然とする実弥であったが少しだけ心が暖かくなるのを感じた。
【絶対泣いたりしないでくださいね。
泣いたら大声で指差して実弥様の事、
笑ってやりますから。
さて。私、とても幸せでした。
実弥様は見た目怖いし、怒ると鬼より鬼だし、鍛錬は容赦ないし、厳しいし本当に大変だったけど、悲しい時、心が折れそうな時。私がそっぽ向いてもそばに居て、そして沈んだ心を引き上げてくれました。お館様が実弥は優しいよって言ってたのは本当でした。
いつか実弥様の所を選んだ事を後悔してないかって聞かれたけど、今では胸を張って言えます。
選んだ道が、私の運命になった。
私は掴み取った運命を後悔していません。
カブトムシ事件の時、玄弥が一緒にカブトムシ探してくれたんです。その時探しながらすっごい笑顔で実弥様のことを話していたんですよ。今でも印象に残ってます。玄弥は実弥様のこと大好きだし、実弥様も玄弥の事大切に思ってるはずです。だから、鬼が居なくなったら仲良くしてください。私、玄弥の事を死ぬ気で守りますから!!
頑張る私へのご褒美の約束ですからね。
そして私は、やっぱり実弥様が好きでした。
子供じみた、ままごとみたいなもんだって笑われるかもしれないけど、それでも私は実弥様が大好きでずっと一緒に居たかったです。
どうか鬼のことなんて考えなくて良くなったら、いっぱい苦労した分、悲しい思いをした分、沢山の幸せ見つけて、笑って過ごしてください。
その時はもう"鬼ほど恐ろしい"実弥様じゃなくて良いんですからね。
最後に沢山振り回してごめんなさい。
もしもまた隣に置いてくれるのならば
私は実弥様の所に帰りたいです】
最後の一文が涙で滲んでいた。
ーー泣いたら笑ってやるって言った本人がコレかよ
ぼやけた文字を手で撫でる。
そこに、手紙の先に柚充はちゃんと存在していた。
ーー仕方ねぇから置いてやる
だから、
早く戻ってこい。
待ってる…、、いつまでも
不死川邸縁側にも、はらはらと桜の花びらが迷い込んでいる。
実弥は縁側にでると、腰掛け庭を眺めていた。
鬼舞辻が消え、平和が訪れたというのに鬼舞辻と共に柚充が消えてしまった。目覚めた時に枕元に置いてあった髪紐一本、時透にかけてあった羽織以外は死体も刀もなにも見つからなかった。だから屋根の上からでもひょこっと現れそうな気すらする。
「兄貴、、」
縁側で外を眺めている実弥の元に玄弥がお茶を持って現れる。お茶を置くなり玄弥は口を開いた。
「柚充は嘘をついたんだ。
《もしもの時は頸を刎ねてやる》って言ったのに
自分の鬼化を消す薬を俺に使ってさ、、それに柚充は、
《兄貴との仲直りには手を貸さない》
《自分でなんとかしろ》って言ったんだぜ。
なのに……これじゃ言ってる事めちゃめちゃだ。」
庭の木の葉が音を立てる。
桜が咲き春めいても、吹く風は少しだけ冷んやりする。
まるでどこかの風の子が「ここにいるよ」って自己主張でもしているかのようで口元が緩んでしまう。
「なぁ、玄弥。おれは25歳までしか生きられねぇからよ。
だから、今更子ども作って相手に押しつけて
死んでいくなんて無責任な事する気はねぇ。
でも、お前はちゃんと生かしてもらった分、
嫁さんもらって、子供育てて皺々の爺さんなってから
あの世に行け。いいな。
じゃねぇと柚充にも引っ叩かれっからな。」
実弥も玄弥も顔を見合わせて笑った。
もう夜を怖がる必要なんて無いんだ。
春には夜桜を見上げて
夏には蛍を探しに行こう
花火にはしゃいだっていい。
秋には月見酒なんて風流だろ
空気の澄んだ冬には星を眺める
鬼が居ないそれだけでどれだけいい世になったのか見て、戻ってきたときに語り切れないほどの話を聞かせてやる。
楽しみにしておけよ。
柚充。
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