再会
実弥の前に鬼の目をした柚充が現れた。鬼柚充は実弥に背を向けどこかへ行ってしまおうとする。追いかけようにも足に何かが絡みつき先へは進めない。
「おい!!柚充を連れて行くな!!」
鬼柚充は振り向くと、盛大なため息をついた。
『言っておいたであろう?
我は娘のためにしか動く気はないと。
これもまた娘が望んだことぞ。
主らの元へ再び鬼が現れることのないようにと、
誰でもなく、この娘が選んだのだ。』
「そんなこたぁ関係ねぇ!!駄目だ!!」
鬼柚充は実弥の目の前に戻ると、その胸ぐらを掴む。その力の強さに思わず目を丸くした。
『主だけが辛いと思うな!
……我とて知っておる、娘が主を好いている事も。
本心では離れる事など望んでいないという事も!
なれど!!
もう主らの世に鬼が姿を現すことのないように、
この先は皆が幸せと思える世にする為に。
そして自らに主と会う機会を与えた母君と鬼舞辻をも
救う為に身を斬る覚悟をしたのだ!!主が師だと
いうならば理解してやれと言ってるのだ!!』
実弥の両手が鬼柚充の肩に乗せられた。
力などなくむしろ震えていたかもしれない。
「鬼が出るなら俺がまた斬ってやるから
皆が幸せと思える世の中にしてやるから、、
だから、、連れていくな、、」
『すまんの。………戻る事は、できんのだ。
娘の体は日に焼かれてもう残ってはおらん』
実弥の口から声は出なかった。
悔しくて、悔しくて唇を噛む。
『やはり主は優しいのだな。
娘と、柚充と共に生きてくれた事、感謝する』
髪紐を解き実弥の手に握らせると鬼柚充は実弥を突き飛ばす。
『御柱、安心して目覚めるといい
お主はーーーーー』
ーーまたこれだ。現実に戻ってしまう
実弥は柚充へ手をのばした。しかし手は届かない。
最後に見えた柚充の顔は鬼の姿では無い。
実弥が守り続けたいと思っていた笑顔で口元がうごく
ありがとう さねみさま
どいつもこいつも勝手が過ぎる。
何で俺を置いていくんだ。守ってやりてぇ。
兄貴だから、師匠だから、仲間だから、そう思っていたのに、、、
なんで皆んな手から零れ落ちていくんだ。
なんで居なくなるんだ、、
涙が溢れて仕方ない。ぬぐっても、ぬぐっても、、
いくら泣いても戻ってこない。分かっているのに。
「…クソが……」
ーーーーーー
どこまでが夢で、どこからが現実だったのだろうか。ぼんやり薄闇に包まれた蝶屋敷、病室のベッドの中、自分ではない誰かがいて手を握っている。
もう。誰でも良い。何でもいい。どうでもいい。
大切なものは全て無くしてしまった、、
もう何も戻って来ない。帰って来ない。
俺にはもう守ることなんて出来やしない。
だから、もう離してくれ。
特別なものなんて作るもんじゃない。
また、こぼれ落ちてしまう。
もう無くしてしまうのは嫌なんだ。
だから、、
離してくれ……。
虚な目が誰かを向く。
・・・・・・・。
言葉にはならなかった。
《安心して目覚めるといい
御柱は独りになってはおらんよ》
鬼なんて関係ないところで幸せに生きて欲しくて酷いやり方で遠ざけようとしたたった一人の弟。
上弦の壱との戦いの果てにもう助からない。そう涙した玄弥が実弥の手を取って眠っていた。
「う、そ、、だろ、、」
やっと絞り出した言葉はありきたり。
でも、それが精一杯だった。
涙が溢れる。涙で見えなくなったら玄弥が消えてしまうんじゃないかと思えて涙を拭いながら手も目も離さないと必死になった。
「ん、、、兄貴?
兄貴!!目、覚めたのか!!
お、俺、アオイさん達呼んでくるっ!!」
玄弥は目を覚まし、手を握っていた事が恥ずかしかったのか振り解くと病室から出て行こうと体の向きをかえかけた。
そんな玄弥の服の端をかろうじて掴む。
「……兄貴?」
「生きてらァ。玄弥が…」
玄弥はハッとした。
拒絶され続け、やっと和解が叶ったというのに、死に別れを覚悟した兄が目の前で自分の無事を喜んでいる。
なんて嬉しい事なんだろう。
「……うん。俺、、生きてる。
生きてるよ。兄ちゃん。」
玄弥、今まで実弥様を独り占めしてごめんね。
頑張った人は報われなければいけないのです。
だから……
これからは実弥様と仲良くしてね。
玄弥の耳に届いたかは分からない。
それでもいい。あの姿を見ればもう心配はない。
私はもう行くよ。
またね。
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