走る


何度生まれて、どんなふうに生きて何度死んだのかそんな事までは覚えていない。
そんな記憶は残っていない。
ただずっと足りないものを探し続けているんだ。
でも、今回はきっと何かが違う。

いつかどこかの時間軸で共に戦った仲間たちと再会する事が出来たのだから。

きっとーー。




「まいつじに就職希望!?」
「やめておけ、やめておけ。結構続いてる企業だけど、
 超が付くほどのブラックって有名だろ」
「それがここ10年で社風も変わって
 評判も業績も良くなったらしいぞ」
「や、でも、またすぐブラックになるかもしれないぞ。
 大事な生徒をそんなところに就職させられない」
「もう一度よく考える様に説得するか、、」
放課後の職員室では進路相談のモブ先生らが何やら話をする横で、数学の教師である実弥は授業に使うプリントの準備をしていた。
頭の中では今晩の夕飯は何にしようかなどと考えていたかもしれない。

突然ガラガラと慌てた音を立てて職員室の扉が開かれた。
そこには息を切らした不死川玄弥の姿。
「兄貴っ!!」
「兄貴じゃねーだろ!先・生・だ!!」
「それどころじゃないっての!
 ………不死川先生!!今すぐ屋上に急いで!!」
言うなり走り去る玄弥。走り込み、走り去る位なのだから、何かとんでもないことが起きているのかもしれない。実弥は職員室を飛び出し屋上への階段へと急いで走り、駆け上がっていく。

職員室から出てきた宇髄が廊下の隅に隠れている玄弥を見つけてニィッと笑った。
「やっとだな。兄ちゃん取られて泣くなよ」
「泣かないっすよ。俺だって嬉しいんすから」


「じゃあ俺らも位置につきますか。」

ーーーーーー

屋上へ出る扉を勢いよく開けた。
広がる青空。
急げと急かされた割には、長閑な様子にイライラが募って血管が浮き出ていく。
「玄弥のやつ!騙しやがったな!!
 職員室に駆け込むなんざ良い度胸してやがる!!」

職員室に戻ろうと来たばかりの扉のドアノブに手をかけた。

タタタタッーー

ーー足音?

振り返ると人影が1人、屋上の柵をひょいと飛び越える
「お前っ!!何やってんだ!!
 危ないから戻れっ!!」

逆光の中、その人の顔は見えない。
口元だけが笑っているような気がした。
実弥は走って追い、手を伸ばす。

しかし人影は躊躇う素振りもなく飛び降りる。
「馬鹿っ!!やめろー!!」
血の気が引く中、自分も柵を越え下を見下ろす。
しかし、生徒が地面に落ちた形跡は幸いにもなかった。

ーー 一体どこに行った……。

   下だ!!この下は美術室!!

美術室の壁は宇髄がダイナマイトで吹き飛ばしたせいで壁に大きな穴が空いている。
あの軽い身のこなしなら美術室に転がり込む事も可能だろう。

ーーにしてもあんな危ない奴……
  タダじゃおかねェかんなァァ!!

鬼の形相で美術室に向かって階段を駆け降りる


ーーーーーー

「オイ宇髄!!ドアホ生徒落ちて来ただろ!!
 どこ行きやがったァァ!!!」

「まてまて不死川、生徒が落ちてきたってどういう事だ?」
「屋上から飛び降りたドアホな生徒が居んだよ!!」
「とびおりたぁ?」
「テメェもグルじゃねぇだろうな!!」
実弥が宇髄の胸ぐらを掴み上げた時

タタタタタッーー

足音が聞こえ、入ってきたドアに目を向けると先程の人影が通り過ぎていく。

「あの野郎ォォ!!」

実弥は宇髄を掴んだ手を振り払うと、人影を追い走り出す。

ーー階段で追いつく

角を曲がり追いつくかと思いきや、手摺りに一手ついて踊り場まで足をつかずに階段を飛び降り、折り返して消えていった。
「危ねぇ事しやがる、、、」

もし誰かにぶつかりでもしたら大怪我になるで間違い無いだろう。というかそもそも放課後で生徒がほぼ居ないと言っても、校舎内を走り回るなど許される事ではない。

階段を駆け下り廊下を見渡す。しかし追っている人影は見当たらない。近くの教室から煉獄が授業の資料が入ったと思われる段ボールを抱えて現れた。
「不死川?どうしたんだ?」
「校舎内を走り回ってるドアホ生徒が居んだよ!
 どこ行ったかしらねェか!!」
「……生徒、、うむ。知らんな!!」
「何なんだァ!!全く!!」

ふと視線を向けた窓の外、渡り廊下に先程の姿。
「今度はあんな所に居やがる!!」
実弥は煉獄に目を向ける事なくまた走り出す。
1人残され、渡り廊下、そして実弥の後ろ姿を見て煉獄は思わず微笑んだ。

「頑張れ。不死川。」


ーーーーーー

渡り廊下の先は体育館。
中では冨岡が、赤茶色の髪の少年と竹刀を振っていた。実弥はその近くに居た小柄な少女に近づいていく。
「オイ!お前か!?校内走り回ってた問題児は!!!」
「…え?私は、、」
「まて、不死川。何の話だ?
 真菰はずっと体育館に居たぞ」
あ"あ"?と声を上げながらも、真菰と呼ばれた生徒に目を向けると、息も上がっておらず背格好も違っている。

ーー何なんだ?!俺は何を追っている?

「どうせ冨岡に聞いても何も知らねェだろうし!!」

ーーしっ!心外!!!

何も知らないと聞きもしない実弥に、胸に手を当てて明らかにガッガリした顔を向ける冨岡。仕方なしに校内を走り回る生徒を知っているかと問うが、、
「そんな者は知らん。」


体育館から実弥が出てきた時には冨岡の持っていた竹刀が真っ二つに折られ、ショックに打ちひしがれる姿があった。
 




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