辿り着きその先へ
ーーやっと分かった。
確かに誰も生徒とは会っていない。
2階に上がった時、しのぶとカナヲが階段を降りてきた。
「胡蝶!!栗花落!!ーーーはどこだ?!」
しのぶはにっこり笑って指を上に向けた。
三階の廊下を走っていく音がする。
ーーこれは、アイツお得意の鬼ごっこだったんだ。
アイツは鬼滅学園(ココ)の生徒では無いから、生徒を知らないかと問うても、その答えは知らないとなってしまう。
しかし、その名を出して行方を聞けば、、
竈門も我妻も嘴平もみんなあいつの行方を示す。
ーーーーーー
「やっと気づいたよ。思ったより時間かかったね」
「そもそも俺はそいつの事知らない」
「とっても笑顔の似合う、ちょっと悪戯好きな子だよ
今度兄さんも一緒に会いに行こう
きっと気に入るよ。」
自分の教室、席に座り無一郎は目の前の廊下を時間を置いて走り去っていく2つの姿を眺めて笑う。無一郎があまりに嬉しそうな顔をして笑っていたため、いつもしかめっ面の有一郎の顔も僅かに綻んだ。
ーーーーーー
「えー!!間に合わなかったの私!!
だって!だって!約束の時間は、、
………うそ!時計止まってるわ!!
どうしましょう!!伊黒さん!!」
蜜璃に困り顔を向けられても、伊黒にはどうすることもできない。今から二人を追いかけてはかえって邪魔をしてしまう事になるだろう。
蜜璃は手の上に乗る小さな小箱見てシュンと肩を落とす。
「仕方ない。遅れたとしても分かってくれるだろう」
二人揃って屋上を見上げる。
ふと、蜜璃が伊黒の服をちょんちょんと引っ張る。
「ねぇ、ねぇ、伊黒さん、見て。
あれって、、、」
ーーーーーー
本日2度目辿り着いた屋上では、走って火照った体温に丁度いい位の風が吹いていた。
実弥は、屋上に人影を探す。
今回は確実に追い詰めた。
また、飛び降りたりしない限りその人は此処にいる。流石に向こうも走り疲れているだろうから、もう一度、飛び降りて逃げることはないだろうと踏んでいる。
居るはず。此処に居るはずなんだ。
やっと、やっと。……やっと。
「実弥さま」
風が吹く。
自分がたった今、ドアを開けて出てきた上。振り返らずとも誰が居るのかすぐに分かる。
振り返ったら消えてしまうような気がして実弥は動く事が出来なかった。
「先に死んだくせに、よくも待たせてくれたなァ。
桃栗三年柿八年、柚の大馬鹿十八年とは
よく言ったもんだ」
「確かに柚の木に縁は有りましたけど…
大馬鹿って酷くないですか?
そりゃ罪深いお父様のお目付役をしてましたから
年月だってかかりますよ。地獄の偉い人に頭下げて、
鬼になって地獄に落ちて彷徨う人に手を貸して、
行先見つけてあれこれと……」
実弥は光景が目に浮かぶようでフッと笑った。
「やっとまともな状態で生まれ変わったと思って、
物心ついたら、お父様の会社はブラック企業だし、
今度はその会社をホワイトにしてたらあっという間に
16歳。実弥様を探す時間も取れませんでした。」
ーーブラック企業が改善?!それってたしか…
「お前もしかして、、、、」
実弥は声のする方へ視線を向けた。
そこにはあの日分かれた時と瓜二つの柚充の姿。いや、少し大きくなっているかもしれない。隊服に羽織ではなく、白い詰襟シャツに常盤色のカーディガン。白い幅広パンツの裾には瑠璃紺の風ぐるまがあしらわれていた。
「会社社長の娘ってやつ?
鬼が落ちたので、舞辻(まいつじ)。
舞辻柚充です。」
「…似合わなっ!」
「失礼な!!あの会社ホワイトに保ってるのは
私のおかげなんですからね!!」
両手を腰に"えっへん"とでも言いたげな姿に、実弥は少し悲しげな顔をした。
「でかい会社の娘とか、
そんな手の届かないところに生まれなくても…」
「何言ってるんですか!手なんて届くじゃないですか」
ほら!と柚充は飛び降りる。ふわりと着地も決まりそのまま実弥のところに走り寄ると手を握る。見上げる柚充の顔に実弥は言葉を飲み込んだ。
「ずっと会いたかったです。実弥様が覚えてなかったら
どうしようかとも思いました」
「………覚えてた、、ずっと探してた。煉獄も宇髄も
みんな居るから、学園に引き寄せられて来るものだと
思ってた。でも我妻、栗花落が入っても、竈門兄弟、
嘴平が入っても柚充は現れなくて…」
柚充は実弥を抱き締める
「実弥様。今度は一緒に生きていきたい」
「令嬢様じゃ、釣り合わねーだろ……」
「なんでそんなこというんですか?」
「それが世間ってもんだ…」
「変な所で真面目なんですから
って………あれ?、、、鴉?」
突然飛んできた鴉に腕を差し出すと、その子は当たり前のように腕に留まる。
足に何かを結んでいる。それは小さな小箱。足から外してやり、中を見て柚充が走る。また飛び降りそうな勢いに思わず実弥は柚充を捕獲した。
実弥に捕まり足をばたつかせたまま、屋上から校庭を見下ろすと、蜜璃と伊黒が並んで立っていた。こちらに気付いた蜜璃が大きく手を振り、柚充も手をふり返した。
「知らなかったのは俺だけか…」
「1週間前は誰も知りませんでしたよ」
捕獲から解放され、自らの足で立つと柚充は実弥のシャツの衿を握り引き寄せ、その顔を正面から見つめた。
「私、結婚の事だけは口出したら
お父様の会社潰すって言ってありますの」
「……はぁ??!」
「お父様は基本的に家族の人以外、人の扱いが最悪だから
普通に会社運営したつもりでもブラックに
なっちゃうんですよ。私が会社運営から手を引いた
時点で古参はどうか知りませんけど、大半の社員が
辞めて会社として成り立たなくなります。
なので、会社と社員を人質にとりました。
ですから、実弥様。
結婚してください!!」
年が変われば女子の結婚年齢も16歳から18歳に引き上げられてしまうらしい。早めに籍を入れなければまた先延ばしになってしまう。
でも、そんな事じゃない。
ずっと、ずっと、待っていた。探していた。
求めていた。
「柚充は振り回しすぎだァ。
ただ、そういう事は言わせるもんだろが」
「あはは。なに言ってるんですか。
言ったもん勝ちですよ。」
先程鴉が届けた小箱を実弥に向かって開く。中には大きさの違う指輪が2つ並んでいた。
「流石、美大生。」
ほのかに緑色をした、蜜璃作にしてはとてもシンプルなもの。
「此処まで用意周到とは、、、」
実弥の手が柚充の頬に触れ自然と二人の距離は近づいていく。
額を合わせて笑い合う。
会えなかった時間を埋めるようにどちらからともなく抱きしめた。
「まず何から話してやるか、、
聞かせてやりてェ事は山のようにあるんだ。
鬼舞辻を倒したあの時代のことだけじゃない。
今この時代に移ってからの事だって色々あったんだ。
1人居なくなる事を選んだ事だけは
文句を言わせてもらうからなァ。
これだけは覚悟しておけ。」
ふふふと柚充は小さく笑う。
「あの、実弥様?
言っておかないといけない事があって、、、
今世で私、料理できません、、」
目を逸らすその顔がなんだか面白くて
やっぱり柚充だ。なんて思う。
「……隣に居るなら問題はねェ」
暖かい風が吹く。
鬼が居ないこの世界で、あの時送れなかった幸せな日々を、一緒に分かち合いたかった人達と共に送っていく。
今度は悲しい別れの涙など縁のないそんな世の中である事を切に願って一羽の鴉が空へと飛び立った。
どこまでも広い青空に。
fin
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