宇髄合同遊郭潜入!?
「は?なんで?私が?天元様と任務?
実弥様と合同任務って聞いてたんですけど」
「そっちは一旦、他の隊士を向かわせる事になった。
それで済まなきゃ不死川と柚充がむかう。
って、良いからつべこべ言わずに一緒に来い。
あー。不死川の許可は取ってあるから気にすんな」
ーー実弥様?許可?何のことだろ?
まぁ、後々怒られる心配がないならいいか!
柱合会議の一件が済み、遠方へ実弥と合同で任務に当たるはずが、約束の昼過ぎに不死川邸の前に居たのは
宇髄天元。
なんだか急いでいるようで、宇髄は逃げた猫を捕らえたかのように柚充の首根っこを掴んでいるものだから、柚充の足は地についていない。
ーー私、理由なく逃げ回ったりしませんけど。
話は聞ける子なんですけどねー。
ーーーーーー
「で。何で私は男装するんですか?」
「そりゃ、
客として遊郭に潜入すんのの付き人だからなぁ」
「………はいぃ?何で私?遊郭?
え…だって、優秀な雛鶴さんとか、まきをさんとか、
須、、、磨、、さんとか、いるじゃないですか」
「地味に須磨だけ間が開かなかったか?」
「ナンノコトデショウ」
「アイツらは男装には向ねぇだろ」
・・・・・・・・。
柚充は無言で宇髄に殴りかかる。止められるのは分かっているし、力で敵わないのも承知の上。ただ、宇髄が言わんとしていることが分かってしまえば、抗議の声を上げずには居られない。
「どぉせ!!
お嫁さん達より発達乏しいですよーだぁぁぁああ!!!
だったらちゃんと男性隊士を連れて行けば
良いじゃぁないですか!!」
抗議の拳を軽くあしらわれ続け、体格差のせいでポカポカ効果音が尽きそうな光景は続く。
「適当な奴連れて行っても女の色香に引っ掛かけられて
使いもんにならなきゃ意味ねぇだろ。
その点、柚充にその心配はねぇから持ってきた
話なんだが、、無理なんて言わねぇよなぁ?」
ーーああ。この人はそうやって人を手の上で転がすんだ。
「どうせまた天元様に無茶苦茶なこと言われて
振り回されるのがオチです」
「めんどくせぇなぁ。いいか!
お前は柱連中に鍛錬付けられることになってんの。
だから今回のも鍛錬だ。柚充に拒否権は無ぇつーの。
隊士にはなったが、たまには成長を見てやろっていう
俺様のこの心が分からんかねぇ」
「うっ、、、。
分かりましたよ!行きますよ!
天元様の言葉、都合の良いところだけ真に受けて
乗ってやろうじゃないですか」
結局のところ宇髄の口車には乗せられてしまう。それでも、やはり宇髄のなんだかんだで面倒見の良いところも知っている。だから、少し生意気な言い返しはするものの、宇髄のささやかな期待に応えたいと思ってしまうのだ。
ーーーーーー
「天さん何この子?
可愛いわぁ!でも良いの?こんな所連れてきちゃって」
「こんな所なんて言っちゃぁいけませんよ。
こんな綺麗どころが揃った場所に来れるなんて
コイツは幸せ者っすよ。連れてきた俺より花魁達に
囲まれちゃってホント妬ける、妬ける。」
「嫌だわ天さん、口が上手なんですから」
「天!俺はアンタの見張りとして
一緒に来ることになったんだ!
そこんとこちゃんと覚えておけよ!」
「そんな、両手に華どころか華畑に居るような奴に
言われてもなぁ」
男装柚充は宇髄をキリッと睨む。
小柄なせいで門前払いされると思っていた。しかしなぜかこうして中に通され、花魁に囲まれてチヤホヤされている。
ーーああ。何でこう天元様の良いように事が進むんだよ
それにしても、この白粉(おしろい)の匂い、、
苦手かも、、。
「風継(かぜつぐ)は真面目過ぎんだよ
面白味のねぇやつはモテねぇぞ」
「俺は別にモテたいなんて思った事はないっての」
宇髄は詳しい情報までは柚充に与えていなかった。ただ宇髄の事は"天"、柚充は"風継"と呼ぶ事、深入りはせずに鬼に繋がりそうな情報収集に励む事だけが今回の任務という訳だ。
「風継さん本当は引く手数多(あまた)でしょう?
こんな綺麗な顔、まわりがほっとくなんて
信じられないわ」
「花魁。ここだけの話、風継はな。
年上の綺麗な顔してるんだが、
ちょっと性格キツめの奴に夢中なんすよ」
「まぁぁ!」
「ちょっ!!違っ!何言ってんだっ!!」
「隠そうと必死な姿も応援したくなっちまうだろ?
なぁ花魁」
ふふふと笑う花魁。
ギリギリと音でもなるんじゃないかと言うほど拳を握りしめ、宇髄に一発食らわしてやろうと立ち上がる。
つもりだった。
突然の頭痛、そして何かを踏んで体制を崩し、立て直そうと踏み込んだ足は更に袴の裾を踏み柚充の体は畳へと引っ張られる。
「!!!」
倒れながら視界に掠る宇髄の顔は
どこか悪巧みを進行中のような
意地悪な笑顔を浮かべていた。
ーーやっぱり天元様、、私をハメましたね!!?
鈍い痛みが体を走る。
ーーーーーー
ーーあぁ。不覚。
絶対に笑い話にされる、、
宇髄はそのまま広間で花魁と酒に興じていた。
柚充は少し横になった方が良いという事になったものの、流石に客間に寝かせるのは色々躊躇われ宇髄の相手をしていた花魁の私室で少し横にならせてもらう事になった。
遊郭という檻のようなこの場所で彼女らは一体何を考えて過ごしているのだろうか。
天井を見つめて、花魁達の身の上が自分だったらと想像して背筋に冷たさを感じた。
もしも鬼殺隊が保護してくれなければ、柚充にも花町行きの可能性だってあり得ない話ではなかった。
こんな状況で生きている花魁達が更に鬼に命を狙われている…
そんなの許されて良いはずがない。
「花魁の部屋に誰か寝てるね?」
「誰だろうね?見たことないね?」
「私たちより大きいけど、子供だね」
「うん。そんな気がするよね」
物思いに耽っていた柚充の耳に少女の声が二つ。目を向けると女の子たちは「こっち向いた!」「おきてた!」と襖の影に隠れるような仕草をした。
「こんにちは?…あ、もう、こんばんはかな?」
柚充は体を起こすと、笑っておいでおいでと手招きする。2つの声はかむろの子だった。2人は顔を見合わせ「どうする?」とコソコソ相談を始めた。
「そうだ。これ、一緒にたべない?
広間ですっ転んじゃってさ。
休ませてもらってたんだよ。
でも、連れがまだ帰りそうにないから
俺、少し暇を持て余しててさ」
懐から包みを取り出し開くと、中から星がいくつかこぼれ落ちた。
「うわっ!こんなはずじゃ!!」
金平糖を拾う柚充に、女の子たちは小さく笑い、襖の陰から出てきた。
ーーーーーー
「おーい風継?!まだ寝てんのか?
そろそろ行くぞ」
ほんとすいません花魁。なんて言いながら、宇髄が花魁と共に柚充の休んでいるはずの部屋の襖を開けた。
「おまえ、何してんの?」
「あ、天。暇を持て余してたら、
あの子達が琴を聞かせてくれてさ。
触らして貰ったらなかなか楽しくてさ」
「あらあら、お客様にとんだ失礼を」
青い顔をする花魁に柚充は自分が頼んだから怒らないでやって欲しいと微笑んだ。
「風継さんすごいんだよ。もう弾けるの」
「私たちより上手くなっちゃった」
「先生達の教え方が上手かったんだよ」
かむろのふたりはパッと頬を染めて花魁の陰に隠れてしまった。
「風継の癖にやることやったんじゃねぇの」
「バカか。
花魁、お部屋貸していただきありがとうございました。
胸を張って来れるようになったら、
贔屓にさせて頂きます」
「んまぁ。天さんと一緒で話が上手いこと」
花魁はコロコロと鈴が鳴るような笑い声を立てた。
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