宇髄合同遊郭潜入!? 3


「何で言いつけたことができてないんだい!!」

柚充は琴の練習に夢中になり時間を忘れていた。現実に引き戻されたのは何やら怒鳴り声。
廊下へとひょこっと顔を出せば、華やかな着物を纏った花魁がかむろを怒鳴りつけていた。

ーーなんだろ?
  あの花魁嫌な事でもあったのかなぁ?

「綺麗な人なのに勿体ない」

「誰よアンタ!!」
ーーやばっ!声出てた?!!

思った以上に廊下は音がなく、柚充の声は真っ直ぐに花魁へと届いてしまった。
ともすれば、立場は怒りの対象へご案内というわけで…

もうこうなれば柚充も腹を括るしかない。
廊下へと出ると、花魁に向かって進む。
しかし、なぜか皆、口をつぐみ腫れ物に触るかのような目を向ける。

「こんばんは、お初にお目にかかります
 えっと、、椿、、、ん?、あれ?
 ……そうだ。夏椿。夏椿と言います。

 花魁は、すごく凛とした声に、美しい佇まいで素敵です。


 ただ、、

 せっかくお綺麗なのに勿体ないです!!」
「はぁ?!!
 喧嘩売ってんの?!この小娘が!」

花魁の右手が振り上げられ、怒鳴り声を聞きつけて集まった誰もが柚充が張り倒されると目をきつく閉じる。

ぱしっ!


「それです!!美しいのにイライラしてちゃ、
 その美しさが陰ってしまいますよ!」
花魁の手は柚充が真剣白刃取りのように掴み、「笑ってください」とがっちりと握りしめていた。
「……なっ!!」
「うわぁ!お手も綺麗ですね
 私は家の手伝いとかでボロボロなので羨ましいです。」
「もう!放しなさいっ!
 小娘に用はないわ!!」
柚充が満面の笑顔でひたすら花魁を褒めちぎるものだから、花魁は調子を崩され、相手にするのが面倒になったのか手を振り払って踵を返していった。

「………仲良くなりたかったのに」
その背中を眺めながら口からこぼれたのはそんな言葉。頭に浮かんだのは風継として出会った花魁とかむろだったのだ。しかし、懐に飛び込む作戦は見事に失敗に終わった。

その時はこの花魁が鬼である事に気づける程、柚充は実践経験を積めてはいない。
 


ーーーーーー

翌夜

広間に琴の音と夏椿こと、柚充のうた声が響き渡っていた。音に乗せる歌に、長唄、詰め込み練習は実を結んでいた。
広間であるから、話し声もある中での披露となるはずが、うたい始めた途端に居合わせた人々は手を止め、口を閉ざし柚充に視線が集中した。

ーーなんか、、一つだけずっと睨んだ視線がある…
  鬼殺隊だって、バレたとかはないと思うけど、、
  鬼が紛れてる?人が多くて気配が読みにくい……
  でも、客の中だとしたら、
  天元様が見落とすわけないし。


頭の中では鬼殺隊としての思考回路がフル稼働し、睨みつける人物を見つけ出していた。その視線を送り続けていたのは"黒髪の青年"だった。

ーーとりあえず、この人には注意が必要。


そんなこんなで広間での出番は問題なく過ぎていった、広間から下がると遊女たちの待機部屋へと向かう。
「夏椿!!ちょっとお待ち!
 アンタに指名だよ!」

「………は?」

「は?じゃないよ!!
 お客様がお呼びだって言ってんのよ」
「女将さん、、私、言いましたよね?
 憑き物付きで、酷い目に遭うらしいですよって」
「店の評判落とされちゃたまらないから、
 私だって言ったさ。あの人もウチの太客だし、
 それでも大丈夫って言われちゃ、店(こっち)
 としては断りようがないんだよ働いている以上、
 客の前には出てもらうよ」

「分かりました」
「そんな嫌な顔するもんじゃないよ!」
あからさまに顔を歪ませた柚充の背を女将はパシっと叩いた。


ーーーーーー

柚充は三つ指付きお客の前で頭を下げていた。

「旦那様は鬼というものに
 出会った事はお有りでしょうか?」
「ははっ!そんな物は自信の持てぬ輩の世迷言。
 この世に妖怪も百鬼夜行も有りはせん」
「……ならばこれは、
 私の心の弱さなのかもしれませんね。
 ですが、私は旦那様が心配なのです!
 私に触れた方は皆揃って鬼を見たと言うのです……
 白髪で、目はつりあがり、
 顔にも身体中にもたくさんの傷をたたえた鬼の姿を。
 時には刀を振り回し追いかけてくるとも聞きました。
 わたしは、、
 旦那様にそのようなモノを見せたくはございません。」
柚充は手巾で目元の涙を吸い取る。

「ならばその様なもの、
 ありはしないと私が証明すればいいこと。
 安心するといい。鬼などいないのだ」

客は柚充の手を取り、その手を撫でる。
「そのように言われれば、心強い事この上ありません
 今宵は血濡れた鬼など現れやしませんね」
客の目を見て微笑み、客の頬を柚充の手が撫でる。柚充の手は甘い香りを放っていた。

客はうっとりと目を閉じ、そしてゆっくり目を開く。



「……………お、、に、、」
「旦那様?」

お客の顔からみるみる血の気が引き、額に汗が浮かび上がる。柚充は手巾を持つ手を客は伸ばすがその手はバチッと音を立てて叩き払われた。
「さ、触るなっ!!寄るなっ!!
 嫌だっ!!来るな、、来るなぁぁあああー!!」


ーーーーーー

客の叫び声を聞きつけた女将が、襖を開けた途端に客は逃げ出すように部屋を飛び出し、そのまま店を出ていった。
「大丈夫かい?夏椿?」
「…ええ」
「聞いてはいたけど、本当にこんな事になるとはね、、」
すいませんと謝る柚充に、気にするんじゃ無いよと女将は肩を叩いた。

「女将。ちょっと良いか?」
そこへ声をかけてきたのは、広間で柚充を睨みつけ続けていたあの黒髪青年。
「その子を指名する事は可能だろうか?」

・・・・・・・。

「ちょっ!!この騒ぎを見ておいて、この子を指名?!
 お客様、正気ですか?
 この夏椿は憑き物付きですよ?
 今だって……」
「構わない。
 ただ少し話をしてみたいだけだからな
 手を出す気はない。
 なんなら布団も下げて、、そうだ。琴を運んでくれ」

その子が良いのであれば


最後に柚充への配慮の言葉を口にした。


「夏椿。こちらの旦那がアンタを指名だよ。
 どうする?
 さっきの今だ、アタシは断ったって叱りはしないさ」

女将とのやりとりを聞いていた限り、この客はさっきの客とはそもそもの目的が違う。
鬼の気配はしない。ならば、広間で睨みつけていた理由が分かるかもしれない。

鬼が出るか、蛇が出るか。
はたまた かむろ達が言ったお化けへの手がかりが。

遊郭の夜はまだまだ長い。
 




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