蝶屋敷2


大きなお屋敷だと思っていたが、道場があるとは柚充には予想外だった。
アオイに連れて行かれた先には、しのぶともう一人女の子が待っていた。

「こんにちは。昨日はよく眠れましたか?」
「はい。ありがとうございます。」
しかし、柚充は後ろの子が気になって仕方がない。
「あ、この子は栗花落カナヲ。
 柚充ちゃんに会わせたかった子よ」

ーーー昨日の蝶の子だ!

カナヲは柚充に興味ないのかどうも視線が合わない。
「私、柚充です。カナヲちゃんよろしく」
覗き込むように視線を合わせて挨拶をするとカナヲは少し驚いた顔をして、その後笑った。
しかしどこか貼り付けた様な笑顔にモヤモヤを残したが「じゃあはじめましょうか」と言うしのぶの言葉に従った。


「これは機能回復訓練と言って、本来は怪我で
 安静だった隊士の機能回復の為に行っているんですが、
 今回はこれをやってみましょうか」

アオイとカナヲは怪我から回復したひとたちの相手をするためにも、よくこの訓練をしているのだと言う。
目の前には薬湯の入った湯呑みが並んでいる
これを先に取って相手にかけた方が勝ちだそうだ。目の前にはアオイが座る。
ーーでも、本当にかけていいのかな、、、
  なんか変な匂いもしてるし。

「ーーはじめっ!」
ビシャ!!「ふぇ?」
何が起きたか分からない。
完全に遅れをとった。

柚充は黙って立ち上がると軽く柔軟をして、心を落ち着けてアオイの前に座った。
ーーこれは訓練だ。遊びじゃない。集中だ。

「ーーはじめっ!」
今度はアオイの掴む湯呑みを3つ4つと防いでいく。柚充は正直「いける」と思った。
バシャ!

世の中そんなに甘くはなく、薬湯をかけられたのはやはり柚充の方だった。
「くやしいー!もう一本!お願いします!」

ビシャ!バシャ!ビシャ!
防ぐ事は出来ても掴めない。
焦ったらだめだ。深く息をつく。
その瞬間柚充をまとう空気が変わった。

次はアオイが負ける…しのぶは柚充の様子を見ながらそう感じた。

「ーーはじめ!」




「やったー!」
「おめでとうございます。
 でも一度勝っただけですから、まだまだですよ」
しのぶの言葉に柚充は恥ずかしくなって背中を丸めた。もう一本お願いしますと座り直した。

その後勝ったり負けたりを繰り返しながら8割勝てる様になった頃、今日はここまでと声をかけられる
「お疲れ様。みんな、薬湯まみれだから
 湯浴びでもしてらっしゃい」
その時気づいたのだがカナヲもしのぶと訓練をしていた様で薬湯まみれになっていた。しのぶはもちろん服も笑顔も綺麗なまま。
「ありがとうございました。」
頭を下げてから立ち上がるとその背にしのぶが声をかけた
「柚充ちゃん。
 明日はカナヲとやってみましょうね」
しのぶはニコニコ3人を見送った。

湯浴びを終えてからもアオイは療養中の人たちの世話をテキパキとしていた。
その姿に尊敬の念を抱きつつも柚充はあてがわれた部屋へ戻る。なんだかとても疲れていた。


訓練を振り返ると訓練中、体が軽くなったような不思議な感覚を思い出す。

ーー何が違ったんだろう。
  集中した感覚が違う?あれは何、、?

「もしもーし?柚充ちゃーん。」
「はっ、、はいっ!!」
目の前にしのぶがいた。
もしかして疲れちゃいましたか?と言われたが首を振って返事をした。
「あの、考え事してて。
 うまく言えないんですけど、…しのぶ様は訓練中に
 体が軽くなった理由が分かりますか?」
「……不死川さんはだめですねー。
 見習いってことはのちの鬼殺隊士ですよ。
 そんな柚充ちゃんにまだ何も教えてないんですか」
後で言ってやらないと。と言うしのぶに柚充はポカンとしていた。
「柚充ちゃんがやったのは全集中の呼吸。
 呼吸でより効率的に酸素を取り込む事で体の動きを
 倍増させたと言うわけです。ほら、よくいうでしょう?
 火事場の馬鹿力って。そのような感じです。
 その呼吸をずっと続けられる様にする事ができれば
 貴方はずっと強くなれますよ」
「全集中…呼吸……ずっとって、、」
「起きてる間も、寝てる間もずっとです」
「カナヲちゃんもやってるの?」
その言葉にしのぶは寂しいような苦しいような笑顔で言う
「私たちは…」
ーー私"たち"?、、

「カナヲを鬼殺隊士にしようとは思っていないの。
 でも、あの子はきっとたどり着いてしまう」
呼吸も型も常中も…。

その姿にこれ以上しのぶからはきいてはいけないようなきがした。



「私からも聞いていいかしら?」
なんでしょう?と首を傾げるとしのぶが続ける
「不死川さんを選んだのはどうしてですか?」
それはあの場にいた誰もが持った疑問だった。見た目で不死川が子どもに好かれる要素はほぼない。傷だらけでむしろ避けられる方が順当。
「えっと……
 お館様が、実弥様は、実は優しいって言ってました…
 …それに…」
「……それに?」
「いなくなってしまわない気がしたから」
はっとしてしのぶはどこか寂しげな笑みをうかべた。

「じゃあ、柚充ちゃんも不死川さんを
 守れる様にならなければいけませんね」
「……はいっ」
「薬学の事も知りたいときは尋ねてくれるといいわ。
 不死川さんでは教えられないでしょうから」

それからニ、三話をするとしのぶは部屋を後にした。


明日はカナヲちゃんと訓練だ。
全集中の呼吸…
私もできるようになりたい、、
 




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