蝶屋敷4
道場の隅で目が覚めた。
「……実弥様?」
気配がする。でもなんだかいつもと違う。
嫌な感じが拭えず起き上がって走り出した。
実弥は怪我をしていた。それ程酷いわけではないが、現地で隠に処置された包帯は赤くにじんでいた。実弥にとってはいつもの傷。自分は良いからと他の隊士を優先させたせいもある。
スパーン!!
キレのいい音を立てて戸が開け放たれた。
怪我人がいるんだから静かに!とアオイ怒鳴り声も聞こえてきた。
「実弥様ぁーーっ!」
ーーああ、そうか。柚充は蝶屋敷に預けていたか。
おうと小さく返事を返すと、柚充は近くに寄ってきた。
ぱちんっ!
「……は?」
腕を上げて防いだものの実弥は柚充に叩かれた。決して痛いわけでもない。しかし意味不明だ。叩いた本人は下を向いたまま動かない。柚充を追って部屋へ来たと思われる隠が顔を真っ青にして立っていた。
「この餓鬼!」
声を上げられ顔を上げた柚充の目からどんどん涙が溢れていく。
鬼殺隊がどんな事を仕事としているかは柚充にも分かっている。ここへ来て怪我人の手当も学んだ。それでも身近な人が傷つくのは心が締め付けられるように悲しくなる。
怪我してきたのになんでもないように返事をする実弥にすごく腹が立った。
「……悪かった。大声出して」
ポロポロあふれる涙を見てバツが悪くなり実弥は、思わず謝罪の言葉を口にした。すると柚充は頷き涙を拭って踵を返す。すぐ戻ったその腕には包帯や軟膏など怪我の治療道具一式が抱えられていた。
血濡れた包帯を解き、自分が痛いように顔をしかめたりしつつも手際よくすすめる処置に内心実弥は驚いていた。
「……怪我はだめです」
「……悪かった」
実弥は柚充のあたまをポンポンと撫でた。
包帯を巻き終えるとまた一式を持って柚充は部屋を出て行った。
まだ怒っているのだろうか…
今柚充が巻いた包帯を実弥はじっと見つめていた。
「恋でもしちゃいましたか?」
「馬鹿言ってんじゃねェー」
そこに現れたのはこの蝶屋敷を取り仕切る胡蝶しのぶ。
「柚充ちゃん。
なんでもそれなりにそつなくこなして、教えれば
吸収力がものすごく高い。
なのに不死川さんは全集中の呼吸も、型の事も、
肝心なことだけ何故教えていないんでしょうか?
"任務がある"はただの言い訳です。」
返事がなくともしのぶは続ける。
「お館様から預かった子だから、
彼女がまだ小さい女の子だから、
刀を握らせるのが怖いから。
鬼に殺された身内に重ねているから」
「ーー違っ!」
「何が違うんです?
自分たちが鬼舞辻を倒すから柚充ちゃんに
刀を握らせる必要は無いとでも言うんですか?
鬼舞辻の尻尾も掴めていないと言うのに。
私たちが鬼舞辻を倒せなかったらこの意思は誰が
継いでいくと言うのですか?
この意思を継ぐ人を育てていくのも柱として
やらなければいけない事のはずです!
あの子はお館様から見習いと言われているんです。
鬼殺隊に入る事は決まっている子なんです。
戦い方も教えずに戦場に送るんですか?
………あの子を殺すのは鬼じゃない。
戦い方を教えない貴方です。」
たとえそれが辛い選択であったとしても。
「不死川さん。貴方は優しすぎるんですよ」
実弥に返す言葉は思いつかなかった。
そしてまた、言葉にしたしのぶ自身にも辛い言葉だった。
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