初任務2


「たしかにいい目印」
柚充は時計台を見つけ、お茶屋の位置も確認した。

日も傾き嫌な感じが集まり始めていた。
最近子どもの誘拐が増えてるから早く帰る様にと何人かの人に声をかけられた。
この町の人は優しい。


柚充は屋根の上に飛び上がった。
風が吹く。鬼の気配を乗せて。
「こっちだっ!」

気配を頼りに足を早める。屋根から飛び上がると、とある屋敷から黒い何かが出ていた。そして屋敷と反対側には子どもの影。

ーー引き込まれてる
空中で刀を抜きそのまま着地と共に影を切り裂く。
子どもは少年だった尻もちをつき恐怖でガタガタ震えている。
「何これ?うわっ、………髪の毛。気持ち悪っ!」

『ワタシのコドモをかえせ』
屋敷の入り口に髪を振り乱した女性の姿。
後ろで震える少年に「アレお母さん?」と聞くと首を左右に振る。
「だよねー。
 関係ないって言ってますよ。人違いです」

『返せえぇぇー』
再び髪の毛が伸びて少年へ向かってくる。

「話が通じるなら苦労しないよね。
 風の呼吸 弐ノ型爪々・科戸風っ!」

風の爪によって髪の毛がバラバラと落ちていく。切り落とした髪の毛は霧散していく。それほど強い鬼というわけでは無いらしい。

『邪魔をするな!ワタシはコドモを取り返すだけ。
 ヤクソクをマモルカワイイコ……』
うっとりとした目をしたかと思うと女の鬼は睨み付けてきた
『悪イコは食ってヤルノ。
 お前も大人にタテツク悪イコ!』

切っても切っても伸びてくる髪の毛にうんざりする。少年も逃げる気力はどうも無いらしい。目の前で繰り広げられる髪の毛との戦いに今も震えている。
体の小さい自分には少年を抱えて逃げ回る事は出来ない。

「っ!」
少年に気を取られて足に髪の毛が絡みつく。

「参ノ型 晴嵐風樹」

自身を取り巻く風を起こし、その勢いで取られた足の束縛を断ち切る。

しかしこのままではキリがない。

ーー仕方ない

伸びてくる髪の毛を刀で巻き集め腕に巻き付け走る。日輪刀を投げ反対の手で掴んだ。

きっと後ろの屋敷に攫われた子どもがいる。だから屋敷の外へ引きずり出すのだ。鬼の女は髪が切り裂かれると踏んでいたのか体制を崩し屋敷の表に倒れるように出てきていた。

木を踏み台に空へ飛ぶ。
「弐ノ型 爪々・科戸風!」
風の爪が鬼へと向かう。髪の毛を絡め取っているから逃がさない!
地面に着く頃には鬼の頸を落としていた。

『ワタシの可愛い子はどこ……』



ーーーーーー

◇鬼の回想◇

私は時計屋の娘だった。
小さい頃から時計に囲まれていたから時間を守る事は息をするのと同じ位当たり前のことで、生まれた息子には、時間や約束を守る事だけは厳しく教えていた。


とても大切な私の子。
「母さまの髪、艶々で綺麗!」
あの子が言ってくれるから切らなかった髪。

あの日、外で待ち合わせして一緒に買い物に行くはずだった。
あの子がくれた髪紐が切れて他の髪紐を探すのに手間取ってしまったから。

約束を破ってしまったからーーー。

約束の場所に息子は居なかった。


翌日近くの水路で見つかったあの子はすっかり変わり果ててしまっていた。
 




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