師弟任務5


 
「左3歩、壱ノ型!」

『……なぜ、……なぜ、何故だ!』

「右5歩、肆ノ型!」

鬼は焦り逃げる事に精一杯だった。操ることが出来ないなんて今まで無かった。
誰も目を閉じて戦おうとする者はいなかった。
戦えるはずがないから。


「真っ直ぐ跳べ!そこだ!」
柚充にも完全に鬼から滲み出る風が読めた。
「弐ノ型 爪々・科戸風!」


鬼の頸を風の爪が引き裂いた。



ーーーーーー

首の付け根を触ると肉芽はすっかりなくなっていた。ゆっくり目を開けると思ったより月明かりで明るい。


日輪刀を納め、急いで親子の元に駆け寄ると、母親は子どもを守るように柚充から少しでも遠ざけようとする。
息子に刀を振り下ろすような危ない奴は近づけさせるものかという母の愛。首元に包丁突きつけられても、大事な息子に変わりないという姿に安堵を覚えた。
「ごめんなさい。気絶させないと、お母様が危いと思って。
 お母様が息子さんを大切なように、息子さんにも、
 お母様が居なくなってはいけなかったから。」
柚充が微笑むと、母親の目から涙が落ちる。もう危険な事はないと伝わったらしい。

腰のポーチから傷薬を取り出し、母親と少年の怪我の応急処置をし、家へ送り届けた。
「今日のは悪い夢です。もう大丈夫です。……そうだ!
 これ、藤の花の匂い袋。鬼は藤が苦手なんです。
 今晩はこれを枕元において寝てください」
そう言って母親の手に匂い袋を握らせた。
「では、失礼します」
羽織がふわりと広がる。風車が回るように。
柚充は親子の返事を待たず実弥の元に走り出した。


ーーーーーー

「これは……なんとも…酷い」
「後処理班の隠に鴉は飛ばしておいた」
鬼の近くにあった家には数人の遺体が転がっていた。どれも食い散らかしていると言う言葉が適切な姿となっていた。
「でも、すぐ来れますかね…
 ここまでかなり遠かったですよ?」
「俺らが派遣された一足遅くで隠も出発してるだろうし、
 一応訓練は受けてるはずだからな。
 そんなにかからねーんじゃねーの」
「こんど隠の人とかくれんぼしてみようかな。
 後藤さんとかなら
 かくれんぼに付き合ってくれそうじゃないですか。」
「何故そうなる……」




「それ、…….悪かったな」
柚充は自ら怪我の手当をしていた。
「あー日常茶飯事ですから」
「こんなん日常にすんな。」
切られる事を選んだのは自分。
手っ取り早く自分の状態を掴むためにした事。
「実弥様が気にすることではないですよ。
 私がまだまだ未熟なだけです」


「それにしても、貴方の式神はしっかり働けましたか?」

実弥が一つため息をついた。
ーーえっ!!ため息ぃーー!!

「……信じてると言ったくせに、
 いつもより歩幅が小さくなってて、
 間合いが全然違うじゃねーか」
「なっ!!目を閉じて動くって。
 なかなかって怖いんですよ!
 そりゃ信じてはいましたけど、少年の首打つ時
 私がどんだけ怖かった事か!首落ちたら一般人に
 危害を加えたとかで裁判かけられて、伊黒様には
 やつれるほどネチネチ言われ続けるんじゃないかとか
 あの一瞬でぐるんぐるんでしたよ!」

「ふっ…」
「笑いましたね!私の慌て様を!!
 ひどいじゃないですか!もー胡蝶様に言いつけてっ」
「頑張ったな」
頭をぽんぽんと撫でられた。
実弥にあまり褒められた覚えのない柚充はこれ以上文句を言えなくなってしまった。
 




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