鶴梅5
里の外れ。もしも突然鶴梅が起きてしまっても被害を出すことのないように、その庵は建てられていた。使う本人は眠り続けている為いたって簡素なもの。
母と離れて3年。左目のあたりは記憶通りの母であるが、それ意外はもう人の色とは異なってしまった。
「柚充様、少し休まれてはいかがですか?
何かあった時に動けなくては困ります」
そこには柚充を迎えにきたあの隠の姿。
「………貴方、ずっと私の監視役でしたよね
ちょくちょく実弥様の訓練とか鍛錬をすっぽかして
貴方から逃げたりしてみたけど、なかなか撒けなくて、
すっごく嫌でした。
ずっと気づかないふりはしてきましたけど、
怪我すればそれとなく治療にくるし、蝶屋敷では、
完全に監視だし。それに貴方私の事嫌いでしょう?
ずっと睨まれてる感がすごいんですよ。
だから私もあなたが嫌いです。
わたし、貴方に何かしましたか?」
「嫌いと言われても困ります。これが私の任務ですし。
しかし監視がバレていたのは意外でもありますね」
さらっと嫌う理由を答えるつもりはないと流され柚充はまたイラッとした。
「そうやって楽しんでいるあたりが尚、嫌いです」
柚充は庵の扉を後ろ手に力を入れて閉めた。思ったよりバタン!と大きな音が出て自分でやった事であるにもかかわらず肩をビクッと揺らしてしまった。少し恥ずかしくてあの隠が見てないか周りをキョロキョロ見回した。一息つくと充てがわれた部屋へ向かっていく。
何をもって鶴梅の目覚めを予見したのかは聞いていないが、柚充がいつでも動けるようにしておかなければいけない。それがお館様との約束でもあるから。
あの見た目では、母様として目覚める見込みは低いと思うしかなかった。
「覚悟をしないといけない、な…」
ーーーーーー
夢を見た。母様と過ごした日々
温かい笑顔、抱きしめてくれた事、怒られた事もあったっけ。
何故こんな日にこんな夢を見てしまうんだ。
目覚めたくなくなってしまうじゃないか。
「… 柚充」
名を呼ぶ声に一気に覚醒した。
喉元へ鬼の爪が充てがわれている。
冷たいその感覚にまず「ああ、だめだったか」と母様として目覚めなかった悲しみが込み上げる。でも鬼は声をかけた。柚充を眠りから起こしたのだ。そこに僅かでも鶴梅母様が残っていると柚充は嬉しくなり微笑んだ。
「母様。おはようございます」
鬼の口からは涎が垂れ、唯一母のままの左目からは涙があふれていた。それは悲しみの涙なのか、喜びの涙なのか推し量る事は出来ない。
しかし、危害が加えられようとしている以上、こちらも殺されてしまうわけにはいかない。
母様が人を殺めてしまえば、母様は本当の意味で鬼になってしまう。
それに、行ってきますと言った以上、実弥様にただいまを言うこと。その思いが柚充を動かす。
瞬時に日輪刀を抜き、鬼の手首を切り落としたつもりだった。しかし、手首を払い除ける事は出来たが、柚充の日輪刀でも鬼は切れなかった。瞬時に起き上がり体制を整える。
日輪刀を弾くような感覚。昔、冨岡でも切れなかった光景が思い出される。そんな鬼を柚充が切れるのだろうか……
それでも、迷ってはいられない。切れないではなく、切らなければいけないのだ。
「母様、私が必ずおくりますから
……大好き」
そして笑った。
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