鶴梅6


外は陽が暮れたばかりだった。まだ空がほのかに赤い。
鬼の動きは俊敏だった。きっと鶴梅だった時の訓練の賜物だろう。だから多少里を荒らしてしまっていることには目を瞑っていただこう。
なるべく庵の近くにとどめさせようと思っていたが、隠すためには良い場所でも戦うのに適した場所ではない。
ひかたに開けた場所まで案内させ、そちらに鬼を引き寄せる。
何度か鬼を切りつけているものの、刃が通った感覚がない。

ーー型を使えば討つ事はできるだろうか…


《隠は親殺しをさせるつもりか!》


実弥の言葉が頭の中で響く。柚充は型を使う事を躊躇っていた。親を殺す為に型を教えたわけじゃないと軽蔑されるかと思うと恐ろしくなる。
こんな思いをするなら最初から母様を討たなければいけないと実弥に話しておけばよかったと後悔の念さえ湧いてくる。

ーーでも、本当にそうだろうか。実弥様は軽蔑して
  私を突き放してしまうだろうか、、、

答えはすぐに出る。

ーー実弥様は分かってくれる

柚充は母を旅立たせなければいけない。ならば安心して逝ってほしい。
自分の覚悟で刀を取り、鬼殺隊として、風柱の継子として鍛錬を積み努力を重ねてきた。

ーー恥じる事は何もない。

柚充の心は決まった。

人払いがして有るとはいえ、人がいない訳では無い。鶴梅が他の人を襲ってしまわないようにと腕の包帯を取る。そこにはまだ新しい刀傷。
それは先日の任務で自ら実弥に切られる事を選んだ時の傷。柚充は同じ場所に刀を滑らせる。若竹色の刀身にも血がついたのか僅かに赤みを帯びていた。
滴り落ちる程ではないが、腕に己の血が線を描く。
血の匂いに惹かれるように鬼が向かってくる。
なんだかんだでこれが一番有効というわけだ。

「弐ノ型 爪々・科戸風」
鬼が飛び上がり弐の型を避けるとそのまま上から迫ってくる。
「肆ノ型 昇上砂塵嵐」
柚充はその場から動かなかった。血が引き寄せてくれるから。動く必要がなかった。
しかしそもそも、柚充の血が鶴梅を苦しめてしまったのだろうか……ふと浮かんだ疑問を振り払うように首を振る。それを今考えてもなんの解決も導く事はできない。

鬼を視界に捉えると、肆ノ型を受けあちこち傷だらけになった鬼がいた。

ーー刃が通っている!鬼を討てる。

鬼は立ち上がるところだった。もう左目も濁り始めていた。あと僅かで完全に母ではなくなってしまうのだろう。

ーー母様。もう終わりにしようか。

    いままで、ありがとう


「捌ノ型 初烈風斬り」



ーーーーーー

鶴梅の身体が崩れて行く、、
ーー刀を納める時間も惜しい。母様が消えてしまう……
柚充はその身体を抱き寄せた。

『柚充。上弦の鬼が来る。山を降って……
 線路、、列車、すぐに行きなさい』
腕の中から聞こえた母の声。涙が頬を伝う。
「…母様、、」
『すぐに行きなさい!』
「いや…」
腕の中の母だったの身体はじわじわと終わりへ向かう

『貴方は鬼殺の剣士

 走りなさい!』

「母様のそばに居たい!!」

『仲間の為に走りなさい!』

「……っ!」

柚充は消えゆく母を地面に横たえ、背を向ける。
唇を噛み両の手を強く握り走り出す。
涙が溢れて仕方なかった。



『……立派になりましたね。私の愛し子』
 




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