煉獄2
戦いの激しさに固まって動けなかった。
だから煉獄になにが起きているかすぐに理解する事が出来なかった。
しかし、猗窩座と揉み合っている様子に柚充はまた走り出す。
ーー僅かでも煉獄様の力に!!
そして、猗窩座の背に向かって刃を振り上げる。ありったけの力を込めて。
「陸ノ型 黒風烟嵐っ!!」
ブチッ…
猗窩座は腕を自切し、飛び上がる。柚充の攻撃は頸からずれ、その背に傷をつける。
「お前っ!!」
肩越しに柚充は睨みつけられた。臆する事なくその目を睨み返す。
「弐ノ型 爪々・科戸風!」
二撃目を繰り出したが、その攻撃が猗窩座に当たる事は無かった。猗窩座に何かが飛んでゆき、更に炭治郎が柚充を追い越していく。
「逃げるな馬鹿野郎!馬鹿野郎!卑怯者!
お前なんかより、煉獄さんの方がずっと凄いんだ!
強いんだ!煉獄さんは負けてない!
誰も死なせなかった!!」
煉獄さんの勝ちだ!!!
炭治郎は叫び続けた。煉獄がふっと笑う。
「もうそんなに叫ぶんじゃない」
優しい声に柚充はハッとして腰のポーチに手を伸ばしつつ煉獄へ視線を向けた。
ーーああ……ああ!!!!
その声は声にならなかった
その時柚充は初めて煉獄の腹に猗窩座の腕が刺さっている事に気がついたから。
柚充の視線に気づいた煉獄は目を伏せると首を横に振った。
「こっちにおいで。さいごに少し話をしよう」
煉獄の正面に座る炭治郎に対して、柚充は煉獄の右側へ座り、傷の状態を確認する。
思わず顔が歪む。柚充の手に負える傷ではない………皮肉な事に猗窩座の腕が煉獄の傷を止血している。ハッとして太陽の位置を見ると光が差し始めていた。太陽が登る事を悔しく思う日が来るなど予想もしていなかった。
柚充は迷う事なく自らの羽織を脱ぎ、猗窩座の腕が消える前に傷に押し当てる。
ーー止まれ!止まれ!とまれ!とまれ…
呼吸で止血を促す炭治郎に煉獄は"もう助からない"とはっきりと告げた。柚充を見て少し困った顔をして微笑む。柚充は首を横に振った。
ーーわたしは諦めたくない。
「千寿郎には自分の心のまま、
正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。
…父には体を大切にしてほしい」
涙が溢れて仕方がなかった。
胸を張って生きろ
己の弱さや不甲斐なさに打ちのめされようと
"心を燃やせ"歯を食いしばって前を向け
君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。
共に寄り添って悲しんではくれない。
俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば、後輩の盾となるのは当然だ。
柱ならば誰であっても同じことをする、
若い芽は摘ませない。
そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ…
「俺は信じる、君たちを信じる」
煉獄が柚充の頭を撫でた。その手は大きくてやっぱりお日様みたいに暖かい……気がした。
『体の負担が軽く済む様に改善するとしよう』
『柚充は面白い子だ!』
『うむ!美味い!』
『手合わせ願おうか』
『努力の賜物だ!』
『ああ、楽しみにしているぞ!』
煉獄と過ごした時間、その顔が心の中から溢れ出す。その顔はいつだって優しく笑っていて、今をどう受け止めれば良いのか理解ができない。そもそも受け入れたくはないのだ。
ーー手合わせ、またしてくれるっていったのに、、
柚充は唇を噛む。決して恨み言を言いたいわけじゃない。でももしそれで煉獄を引き留められるなら、、
そんな事はできないのに、、。
止血の羽織が液体を含んでいる感覚が手に伝わっている。
分かっている。受け止めなければいけない事も、もっと伝えたい事があったのも。
たった一言「ありがとう」ですら喉に詰まって言葉にできないもどかしさ。
唇から鉄の味がした……。
柚充が顔を上げると煉獄の視線は炭治郎のはるか後ろ、、とても柔らかく微笑んでいた。
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