煉獄5


目が覚めた。
ーーここは何処で、私はどうしたのだろうか。

血も泥も落ち、足には包帯が巻かれ、枕元に馴染みの白いシャツと白袴が綺麗に置かれていた。
自室であることをすぐに理解し、足の痛みを堪えて出かける準備をする。

「おい……起きたのか?入るぞ」
物音に気づいたのか実弥が襖を開ける。

部屋に差し込む光で気づく。思いのほか日は高くなっているらしい。
返事をしてから開けてくださいよと頭の片隅に浮かんだが、ただおはようございますと挨拶をした。

「そんな足で何処へ行くつもりだ?
 蝶屋敷なら何も言う気はねぇが。」
そんな様子はねぇなぁと軽く柚充を実弥は睨む
「言伝を伝えに。たいせっ、、」
足の痛みに体制崩しよろけた所を実弥が咄嗟に手を出し支えた。

「大切な言伝なんです」
実弥は服をぎゅっと握って懇願されて、断る事ができなかった。

柚充はひかたを目的の人を探すよう空へ飛ばした。


ーーーーーーー

「歩きにくい、、」
足を痛め靴が履けず、そもそも枝が刺さり靴に穴が空いてしまった為、草履で出かけるしかなかった。しかし怪我が理由だけでなく、ここ数年ずっと靴ばかりを履く生活。草履ではいつもの様に走ることができなかった。


「煉獄様の屋敷はこっちじゃないのに、、」
街中へ出ていると言うことだろうか。柚充の鎹鴉ひかたは街の方へ導いていく。


居た。見つけた。
見間違う事のない炎の様な髪色。気怠そうに背中を丸めて歩く姿は杏寿郎とは違っているけれど、間違いなく目的の人はそこに居た。
「槇寿郎様!待って!槇寿郎さっ、、っっ!」
前方不注意なのは柚充も同じであって、ぶつかってきた人に文句を言う筋合いはない。しかし、痛めた足では体勢を保つ事はできず尻もちをついてしまった。

唇を噛んで立ちあがり、再び槇寿郎を追う。


ーーーーーー


手が届くところに槇寿郎を捉えたのは河川敷だった。このままでは埒があかない、槇寿郎の着物にしがみついた。
「!?!」
「……やっと捕まえました」

姿を見るなり柚充は振り払われ、また地面に転がった。槇寿郎がそのまま去っていこうとする

「瑠火様に!!言伝を託されました!!」

肩を震わすと、槇寿郎は大股で戻って地面に転がる柚充の胸ぐらを掴んだ
「瑠火はもう居ない!
 馬鹿げた事を口にするならお前を殺すぞ」
一瞬怯んだが、睨み返す様に柚充が真っ直ぐに見つめると、槇寿郎の目はわずかに揺れた。

柚充の瞳に瑠火の姿が見えた気がした。
掴んだ手が離れる。

「夢に瑠火様がいらっしゃったんです。
 《槇寿郎さん、、杏寿郎の父に
  あの子は立派でしたよと伝えてください。
  残された千寿郎をよろしくお願いします》そして…」




《貴方のことを今でもお慕いしています》
 


「….瑠火、、」


言うや否や"ボッ"と効果音がつきそうなほど柚充の顔は真っ赤に染まった。
「いや、これは、私じゃなくて、瑠火様からの言伝で、
 あの、なんて言うか……
 とにかく、お、お伝えしましたからね。。」
語尾が小さくしながら、手で真っ赤な顔を隠しつつその隙間から見上げてくる柚充に、槇寿郎は正直"なんだこの愛らしい生き物は"と思ってしまった。


空気を元に戻す為に、一息ついて槇寿郎は口を開く。

「………風ぐるまの羽織は君の物か?」
「?、、、あ!わ!私の物です!!」
「じゃあ来なさい……」

槇寿郎の背を追い煉獄家へと歩き出した。
 




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