煉獄6
槇寿郎が柚充を連れて帰ったのを見て、千寿郎は戸惑っていた。しかも帰るなり何も言わずに千寿郎へ柚充を預けると、1人また自室に篭ってしまった。
千寿郎は困った顔をしていたが、意を決した様に立ち上がると、槇寿郎の後を追って行った。
すると。柚充の居る部屋にも槇寿郎の怒鳴り声が聞こえてきた。
瑠火様の言伝、伝えたのに!と柚充は思ったが、千寿郎も今回は食い下がった。
「体を大切にしてほしい。
兄上が父上に遺した言葉はそれだけです」
ーー炭治郎もう伝えに来てたんだ…
そして、襖を閉める音がすると、千寿郎は柚充のところへ戻ってきた。
頑張ったねと小さな声で言うと、千寿郎は柔らかく微笑んだ。
ーーーーーー
「ちょっ、、、柚充さ、ん…
、、まって、、くださいっ」
「やだ。」
「……だから、、まず……話を、、」
「はやく」
人知れず槇寿郎が涙を流し、落ち着きを取り戻した頃、耳を疑うしか無い声が聞こえてしまった。
ーー何事!?
あちらの部屋に居るのは、千寿郎と
先程顔を真っ赤にして言伝を伝えてきた少女の筈。
一体全体この豹変ぶりはなんなのか。
何より兄が亡くなって間もないじゃないか!
と言うかそれ以前に駄目だ!まだそんな事は、、、
なんと声をあげれば良いか分からなかったが、スパーンと襖を開けた。槇寿郎の目には組み伏せられ、顔を赤くした息子の姿、、、一方少女は頬を染めることもなく千寿郎の上にいた。
槇寿郎が柚充の襟首を掴み、千寿郎から引き剥がすと
びろーん、、
柚充の手と千寿郎の手は風ぐるまの羽織を各々掴んでいた。
つまりこうだ。
2人は羽織の取り合いをしていた。
足を痛めていた柚充は勢いあまって押し倒す形になってしまい千寿郎赤面である。
しかし柚充には羽織しか目に入っていない。
千寿郎、いささか不憫である
ーーーーーー
「柚充さんの羽織を洗ったのですが、
兄上の血が落ちなくて……」
止血のためにつかった羽織には赤黒いシミが大きく付いていた。と言うかほぼ全て変色してしまっていた。
槇寿郎も羽織の前で腕を組んで口を開く
「これはもう着れたもんじゃないな」
「………嫌です」
「新しい物を仕立てるしか、、」
「、、これが良いです」
「風柱の隣に血染めの羽織着てる奴がいたら
それこそ洒落にならない絵だろうよ」
千寿郎は少し想像したが首を振ってその想像を打ち消した。柚充の思い詰めたような表情に心苦しくなる。
「私はこの羽織が良いんです。
杏寿郎様の血で染まった羽織を着てるなんて
見るたび苦痛だとおっしゃられるかもしれないですが
でも……何もできなかった不甲斐なさとか、
強くなるって誓った事とか
全てこの羽織と共にあるんです。
私にとって杏寿郎様が生きていた証でもあるんです。
だから、取り上げないで下さい……」
柚充の目が潤んでいく。
柚充にとってはこの羽織は換えのきく物ではなかった。選別を潜り抜け実弥と杏寿郎、千寿郎が贈ってくれた大切な物。柚充の鬼殺隊初めての任務からずっと一緒だったのだ。
柚充は袴をぎゅっと握りしめ、涙を堪えていた。
「私にもっと力があったら、足を痛めずに走れていたら、
せめてあの時、鬼の首を落とせていたら、
もっと治療の事知っていたら……ごめんなさい…」
震える手に千寿郎の手が重なる
「… 柚充さん。兄上は貴方がいたから、
僕、、私や父上、炭治郎さん達に
言葉を残す事ができたんだと思います」
柚充が羽織で止血し続けたから多くの想いを残し、あんなに安らかな顔で眠ることができた。少なくとも千寿郎はそう思った。
「羽織……染め直しましょう。
これだけ濃い血の跡は完全には消えないでしょうから、
元のように淡い色には出来ませんが、
それでもこれを着ることができます」
「だから笑って?」
《だから笑うんだ》
顔を上げた柚充の目には千寿郎とそして杏寿郎の姿がみえたきがした。それは涙のせいなのか、柚充の願望が見えたのか。
「……ありがとう」
柚充は思わず千寿郎を抱きしめた。
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