羽織の話


「ごめんください」
「いらっしゃい。千寿郎くん」
染め直した羽織を抱えて柚充さんの所へやってきました。兄上の鎹鴉だった要を飛ばしてあらかじめ伝えていたので、柚充さんは直ぐに出て来てくれました。
松葉杖はもう使っていないようでしたが、足の包帯が目に入ると、あの日真っ赤に染まった包帯を思い出してしまって、、、でも、そんな僕に気付いたのか、柚充さんは「大丈夫だよ」と笑いました。



ーーーーーー


言葉をなくして目を輝かせる柚充の目の前にある風呂敷の上には、常盤色地に瑠璃紺色の風ぐるまの羽織。
「やっぱり血の跡は完全には消えなくて、
 思ってたより濃い色になってしまいました」
「羽織って良い?」
「もちろん。柚充さんの羽織ですから」

羽織を手に立ち上がり、太陽に翳すと落ちきらならなかったという血の跡がうっすらみえた。

ーー約束通り私の羽織だ。……おかえり

思わず胸にぎゅと抱きしめた、それから袖を通す。今日はまだ療養期間の内だった為、いつもの白シャツ白袴だったがそれにも良く合っていた

クルクル回りながら、羽織の染め上がりを見ていた柚充は千寿郎に向き直り満面の笑み。その顔に千寿郎は思わず見惚れてしまった。
上機嫌の柚充は千寿郎へ抱きついた。蜜璃が愛でる時の様に頬擦りする勢いである。
「千寿郎くん!!ありがとう!!」
「柚充さん!?……ちょっっと!!」

はわわわわわ




「おい。そろそろ離してやれ
 煉獄弟が茹で上がるぞ。」

千寿郎に助け舟を出したのは実弥。
「あ、ごめん。あまりに嬉しくて、、」
そんなにきつく締めてしまっただろうか?と真っ赤な千寿郎の顔を見て思ってしまった。


「あの羽織か?」
「はいっ!!」
「良い色になったな」
「染め屋さんも最初はぎょっとはしていましたけど、
 これだけ万遍なく変色していれば、
 かえって下地色になって深みが出るかもと
 すごくやる気を出してくださって」

例えば真っ黒に反物(着物の布地)を染める際は、一度青や赤、紫に染めてから黒に染めるのだという。
そうする事で、黒だけで染めた時よりも色に深みが増す。と千寿郎は柚充に話した。

染め直すと言っても簡単な話ではなくて職人の心が詰まっていることを改めて感じ背筋が伸びる。

「…私、、これからも頑張る!
 皆が笑って居られるように」


千寿郎は思う。
君が笑うから、寂しいけど、まだ笑っていたい。
兄上、世の中はまだ綺麗です。

「はい!」




ーーーーーー

しのぶの手から悲鳴嶼へ10程の小瓶が渡される。小瓶の中には紅い液体。

「あの娘もまた被害者であるのだろうか。
 であれば御労しい…」
「正直そこまではよくわかりませんが、常とは違うと、
 それだけははっきりしています。」
「なれど、風柱は知らされていないのだろう?」
「お館様も不確かなままでは…
 と思っているのだと思いますよ」
「しかし、コレに関しては本人には伝えるべきであろう」
「そうですね、、」
「折を見て…だな。」
 




ページ: