風の吹く夜
《柚充。母様は悲しいわ、、、
だってあなたに殺されたんですもの》
柚充の首に手がまわり、その手がきゅっと締まっていく…
ーー息が、、できない……、、
「っ!、、、。はぁ、はぁ、はぁ」
苦しさから解放された後、ぼんやりと見えたのは自室の天井。
部屋の中はまだ暗く日はまだ登っていないらしい。
ーー夢、、。
もしも見せられているとするならば、本当に悪趣味な夢だ。汗もかいてしまい気持ちが悪い。
ーー風にでもあたりにいこう、、
部屋を出て、縁側の屋根にぶら下がると、体を振り子の様に揺らし、屋根の上にあがった。
屋根の上が一番風を感じられる場所。
しかし今日はあまり風が吹いていなかった。
「よくない事は続くものか、、」
膝を抱えて座っていた。
ーーーーーー
「ったく。居ねーと思ったらここか」
そういえば実弥は今夜は見回りの任務と言っていた気がする。屋敷に戻って来たらしい。
「……寝る子の部屋を覗くのは悪趣味かと」
「アホか。襖開けたままにしたのはお前だろ」
「あーそうでしたか。それは失礼しました」
「悪りぃとおもってねーだろ
……何をそんなに不貞腐れてんだ」
実弥は柚充の隣に腰を下ろした。しかし柚充は体ごと横を向き実弥に背中を向ける。
膝に顔を埋めてむくれていた。
しかし実弥の去って行く気配はない。
観念したように柚充は口を開く。
「煉獄様が亡くなるとか、
足の事とか色々重なったのは分かってますけど、
どうして実弥様は母様の事聞かないんですか……
私は母様を斬ってきたんですよ?
実弥様が隠の人に言ったじゃないですか。
《親殺しをさせるのか》って。そうですよ。
殺してきたんですよ、、
いっそ人殺しと罵られた方が自分可愛さに私は不幸だと
思えるのに、まるで何もなかった様に接せられて、
いったい私のこのモヤモヤした気持ちは
どうしたらいいんですか!
夢に母様が出て言うんですよ。
《貴方に殺された。悲しい》って!わたしだって、、
斬りたくて斬った訳じゃないのに!」
もう八つ当たりでしか無い事も柚充は分かっているが、だんだんと口調も語尾も強くなって、ポロポロポロポロと涙を零す。
柚充は泣き虫だと実弥は思う。
実弥は座る向きを変えて、柚充の背中に軽く寄りかかった。
声を殺して泣いているのだろうか、嗚咽に合わせて背が揺れる。
「………俺も母さんを切った。
弟達を"狼"から護ったつもりが、"狼"じゃなくて
鬼になった母さんだった、、、。
鬼も、日輪刀のことも知らない子どもだったから、
簡単には死ねずに母さんは苦しかっただろうよ。
、、、だからお前だけじゃねーんだよ。
そして、自分でも何が起きたのか理解できてねーうちに
弟から"人殺し"と言われた……。
今では分かってんだよ。
弟だって混乱して言っちまったって事も。
でも、やっぱり、
言われて気持ちいい言葉ではねぇだろ。そんな言葉」
「弟?」
「……ああ。
鬼殺の資質も無いのに追いかけて来やがって、、
ってか、お前の話の筈だろ。
言いたいことあるなら言え。
………今日は聞いてやるから」
ーーーーーー
「でもよ、悪夢は目覚めた時ホッとしねーか?」
「、、何がですか……」
「"夢だった"からだ。
現実じゃねーなら
本物の姿は自分の頭ん中にあるってことだろ」
「頭、の中、、」
ーー体が崩れゆく中、母様は何と言った?
《貴方は鬼殺の隊士。走りなさい!》
ーー私は唇を噛んで走り出した。
その時聞こえた言葉は、、
母様が紡いだ最期の言葉は?
《……立派になりましたね。
私の愛し子》
ーー色々ありすぎて忘れていたのは自分のほうだ。
夢は母様じゃない…。
背中の重みが消えたと思うと、再び温もりに包まれた。実弥が柚充を後ろから抱きしめていた。頭を撫でているのだろう
とても心地よかった。
本当は罵られたいわけじゃなくて
ただ立ち上がる力が欲しかった
「柚充が努力してきたこと、ちゃんと分かってる。
だから、下を向くな」
柚充は気づく。
風はあまり吹いていなかったのではなく
優しい風が吹いていた。と。
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