邂逅の先に
柚充の鬼殺隊入隊後は落ち着いていた逃走劇が久しぶりに繰り広げられていた。
追っているのはもちろん師である不死川実弥。
たまにかくれんぼの様な柚充の行方不明はあったが、こうして走り回る逃走劇はご無沙汰である。
一つだけ言わせてもらおう。
実弥も柚充も本気であると。
ーーーーーー
実弥を撒くのは柚充にとっては慣れたもの。
にしても今日はなかなか諦めてくれない。
何故?辺りに視線を巡らせ情報をかき集める。ふと視界に黒い鳥の姿。
「ずるい!!爽籟に張らせてるっ!
ひかたっ!行って」
柚充の鎹鴉ひかたが、爽籟の邪魔に入り追跡を阻害する。
ーーこれで今度こそ撒く。
「毎度、毎度逃げられると思うなよ」
突如柚充の進行方向に実弥が現れた。
先回りされてしまった。
「そう簡単に捕まるつもりもありません!!」
柚充は実弥に向かって走り出す。実弥の上を飛び越えるその瞬間に羽織を脱ぎ投げつける。
大事な羽織だけど、実弥なら無下に扱う事はないだろう。
「じゃあまたお会いしましょう」
そうして柚充は実弥の背後の方へ消えていった。
ーーーーーー
ーー蝶屋敷なら匿ってくれる
塀を越えるのはお手の物。慣れたものである。
ひょいと飛べばそこには……
ーー人ぉぉおおー
「うわっっなっ!!。ふがっ!!!」
「ちょっと静かにして」
外の気配に集中しながら落ちた先の人の口を両手で塞いだ。目を閉じ風を聞く。
塀の外、走り去る音が消えると静かになった。
「ふぅ……ごめんなさい…ちょっと追われて、、」
《俺はお前が大嫌いだ!!》
柚充は今しがた口を塞いだ被害者の少年から飛び退き距離を取る。顔から血の気が引いていく、、。
喉の奥がキュと締まる感覚
ーー苦しい、苦しい、、息が、できない、空気が、、、
吸えない、、息の仕方、、わからない、
「お前、大丈夫か!?」
少年は焦る。落ちて来た少女が飛び退いたと思ったら、自分を見るなりペタリと座り込むと突然苦しみ出したのだから、知らないふりをしてどこかにいくこともできない。
「玄弥。どうかしたか?」
「悲鳴嶼さん!コイツ突然苦しみ出して。」
「… …もしや、柚充か?」
状況を聞いて玄弥の中で目の前の隊士が誰であるのか結びついた。
悲鳴嶼は柚充の視界を遮るように手を置くと、前屈みになるように下を向かせる。
「大丈夫だ。ゆっくり吐け。落ちつけばできる。」
背中をさすりながら、悲鳴嶼は柚充に声をかけ続けた。
荒かった呼吸が次第に落ち着いていく。
酸素をうまく取り込めるようになったのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい…ごめん、、なさい…」
呼吸が整って来て柚充の口から出てきたのは謝罪の言葉、、。胸のあたりをぎゅと掴んで震えている。意識がしっかりしていない様でうわ言のように繰り返している。
「悲鳴嶼さん、……こいつなんなんですか?」
「……心当たりは無いか。」
「……でも、、俺は……」
「人の心に何が残ってしまうかは、
その人それぞれにしかわからない。現にいま、
この娘は玄弥の言葉が刺さったまま
苦しんでいるのではないか?
玄弥の姿を見てこうなったのがいい証拠だろう。
大概こういう物事は、言ったものには残らず、
言われたものだけが苦しみ続けるものだ」
玄弥は返す言葉が浮かばなかった。
悲鳴嶼は選別の際の玄弥の行動を知っているから敢えて顧みるように諭すのだ。
悲鳴嶼は柚充を抱き抱えると、門の方へ歩みを進める。
「、、どうするんですか?」
「連れて戻る」
「ここは蝶屋敷ですよ!
ここで見て貰えば良いじゃないですか!」
「、、これは、そういう類のものではない
話さねばならぬ事もある、、」
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