昔の話2


『オイ。何故まだ生きている人間が居る?
 泣き喚く人間など腹立たしさを増幅させる。
 早く殺さぬか』
『まてまて積怒よ。
 泣き喚く事すら出来ずに居るのだから、
 そう腹を立てるな。
 此奴、下に居ったあの男と同じで稀血じゃ。
 更にあの男より上物よ。
 散々喰ろうたこの腹具合で
 更に稀血を喰らうには少々もったいなくはないか?』
『可楽は稀血の男をほとんど喰ろうたから
 そんな事が言えるのじゃろうが!
 1人良い思いをしおって!つくづく腹立たしい』

桜を挟む様に3人の鬼が話をしている。
あの男というのが父であるならば、
両親はもう生きてはいない事になる、、
何故こんな事になってしまったのだろうか、、
稀血とは一体なんの話なのだろうか、、
先程から母だった骸が
目の前で羽の鬼と扇の鬼の口へ消えている。
あまりにも信じられない光景に
先程胃の中をひっくり返ってしまった。

憐れみの声をかけた哀絶と呼ばれた鬼は
まだその場に戻って来て居ない。

『のう?この娘よく見ると愛らしい顔をしておらんか?』
可楽は手にしていた最後の母の指を口に放り込むと。
桜へと歩み寄りしゃがみ込む。
扇を持つのと反対の手が桜の顔に掛かる前髪を
顔の端へとすいて避ける。


『可楽よ、この娘の事は先程皆で話し合ってからだと
 申したはず。
 儂が居らぬ間に話を進めるとは哀しい事ぞ』
その声は"別れを"と言った鬼。
どうやら自分抜きで娘の処遇が話し合われていると思った
ようだ。少しでも向けられた優しさは絶望の中で、例え同じ鬼という生き物であると分かっていても縋りつきたいと
思ってしまった。
桜の体は可楽に目を向けたまま、
その声のした方へ後退り、声にならない"タスケテ"と共に
視線を哀絶へと向ける。

ーーひっ!!!

しかし、縋ろうとした哀絶は、
手の上に赤い塊を乗せ、口端を赤く染めていた。
恐怖で今度は身体中が震えだし、
奥歯がカチカチと細かく音を刻む。
今度は哀絶から距離を取ろうと
必死で絨毯を掴む様に体を後方へと運ぶ。

何かにぶつかったと思うと同時にシャンと金属の音が鳴る。

ーーこんな所に壁はない。ましてや金属の音なんて、、

目をキュッと瞑って、乱れる呼吸に"吸って、吐け"と
自らに言い聞かせながらゆっくりと視線を上へと向けた。

「あっ、、あ、、、」

目に映ったのは怒りに満ちた相貌。
二つの目玉が桜を睨み下ろしていた。
その目の鋭さに飛び退くと、
震える体を自ら抱きしめる様に体を縮こませた。

『カカカっ!
 睨みつけたせいで積怒が嫌われたぞ。
 それにしても、この娘が逃げ回る様、
 小動物のようで見ていて飽きぬのう』
積怒は舌打ちをし今度は空喜を睨みつけた。

『結局のところ、此奴 如何する?
 女子(おなご)の喰いどきは16と言ったか?』
『そんなモノあの変欲がふれまわってるだけぞ』
『一概に歳で区別などできぬのではないか?』
『それより。
 あの愛らしい顔がどのように成長するのか
 儂は興味があるぞ』

積怒は腕を組み可楽、空喜、哀絶の話し合いの行方を
眺めていたが、自らを含む4人共通解を見つけ出すと
錫杖で床を突き、シャンと音を鳴らす。

その場は一気に空気が変わった。

『オイ小娘』

ずっと黙っていた積怒が震える背に声をかける。
しかし、恐怖と絶望でますます体を小さくするばかりで、
積怒の声に答える動作もない。

積怒は少女の正面に立つと、
錫杖の先を顎に当てがい上を向かせた。
声を立てずに泣いていたのか瞳は涙に濡れ、
頬には髪の毛が張り付いている。
驚きを含んだ目と視線が交わる。
『小娘。名は。』

「、、ぃ、、ゃ」
魚のように口をぱくぱく動かして、
やっと絞り出した言葉は拒絶の言葉だった。
瞳から大粒の涙が溢れて消え、
顎が乗る錫杖から逃げるように後退りながら顔を背けた。
 


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