昔の話3


錫杖で上を向かされた桜は
せめてもの抵抗に後退りながら顔を背けようと試みたが、
彼女が積怒から逃れる事は叶わなかった。
積怒の手は桜の腕を掴み、
後ろに下がらせるどころか、しゃがんだ積怒の顔前へ
引きずり寄せる。
その力の強さにギリギリと骨が悲鳴を上げた。
「、痛ぃ、、、、」
『名は。』

先程より低い声に血がサーッと引いていくような気がした。
「……っ、、…桜…。」

怒りに染った顔に僅か柔らかさが浮かぶ。
それは眉間の皺が1、2本減る程度のもの。
桜がそれに気づいたのも、
離されないながらも、
掴んでいた手の力が緩んだからだった。

『桜、歳の頃はいくつかのう?』
横から口を挟んだのは可楽。
積怒と違って明るい声色に、
躊躇いながらも10歳と答えると、
可楽は涙で頬張り付いた髪の毛を再び顔の端へと避け、
満足そうに離れて行った。

『ならば桜。今はお前を見逃す。
 8年。8年だ。
 良いか。8年後儂らはお前を手に入れる。
 せいぜい儂らの興が冷めぬよう、我らの為に育て』


   頭の上から、指先、足の先に至るまで、
   そして、流す涙、その声でさえ。
   全て我らのモノ。

   よくよく覚えておけ
   桜は、儂等のものだ。


掴まれていた手が振り払われ、
桜は絨毯の上に小さな悲鳴をあげて倒れ込んだ。
そんな桜にブンと振り下ろされた積怒の錫杖は
首元を絨毯に押し付けるよう当てがわれ、
錫杖が当たる肌にビリビリと刺すような痛みが走る。
桜の意識はだんだんと薄れ、
瞼が下がると共に大きな涙が一つ溢れて消えた。

『積怒よ。鬼狩りじゃ』
『言わずとも分かっておるわ
 腹立たしい』
可楽の言葉に桜から錫杖を引くと、
窓の方へと進んでいく。

別れを惜しんだわけでは無い。
ただ一人足りない哀絶を急かす為に振り向くと、
彼は桜の前に膝をつきその顔に触れていた。
『行くぞ哀絶』
『ああ』

哀絶が立ち上がるとともに廊下から
冷気を纏った斬撃が飛んだ、、


それは凍柱の到着だった。
 


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