四の鬼2
ピタリと動かなくなった桜の足。
開いた襖の先には二体の鬼がいた。
錫杖の鬼と槍の鬼。
駄目だと思ったのと同時に目に溜まっていた涙がこぼれ落ちた。
『捕まえたっ』
背後から伸びる腕は動けずに居た桜の体を強く抱きしめた。頬に弾む呼吸が掠めビクッと桜の肩が揺れる。
『何をしておる!可楽!抜け駆けは許さんっ!』
『空喜っ!危なかろう!羽をたたまぬか!!』
室内で羽ばたかれては堪らず、可楽の桜を抱く腕が緩むと、その体は糸が切れた人形の様に力なく可楽の腕から滑り落ちて行く。
膝が畳に着くかと言うところで桜はまた別の力に腕を掴まれ引き寄せられた。
想像した痛みが訪れなかった事にほっとした反面、捕まれたままの腕は目線の高さに上げられた。そこには擦り傷がつき血が滲む。その赤に"稀血"と言う言葉が思い出された。
『傷口が開いたか……』
哀しげに傷を見つめていた鬼の目が細くなったと思うと、その腕は口元へ引き寄せられ、滲んでいた血が舐めとられた。
「っ!!」
ーー喰べ、、られる、、
『……あまい』
ペロと唇を舌がなぞり、桜は血の気が引いていく思いがした。鬼から逃げるべく体を離そうと腕に力を入れるが、腰にまわされた腕がびくともせず、反対に離れた隙間を詰める様に掴んでいた腕は背に回されぎゅっと抱き寄せられていた。
一番大人しそうに映っていた鬼でも跳ね除けられない力が有り、桜の中に絶望が湧き上がる。
ーー家族を奪われて、
鬼殺隊に引き取られた後も
次々に別れを繰り返して、、
こうして結局は私も鬼に喰われて死んでいくの?
どうしてこんなにも悲しい人生を
送らなければ行けないの?
私は前世に何か取り返しのつかない様な
罪を犯してしまったとでもいうのですか?
『……もう少し早く辿り着けていれば、
怪我などさせなかったものを、、』
「……………」
ーー意味が分からない、、
理解の追いつかない頭は考える事すら拒否反応を示し全てを恐怖が塗りつぶしていた。
鋭い視線を感じ、鬼の腕の中から恐る恐るそちらに目を向けると冷たい目が桜の目と交わる。寒くもないのに体は震え始めた。
「、、、こないで」
ーーこの目は怖い。
口が動き、名を呼ぶ。
桜と。
まるで何か暗示をかけられたかのように、錫杖の鬼から目が離せなくなっていた。
一歩、一歩と、近づいて膝を折る。
伸びた手は桜の頬に触れた。
「8年待った。、、約束ぞ。
桜は、儂等のものだ」
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