目に浮かぶ


《8年待った。、、約束ぞ。

 桜は、儂等のものだ》

積怒は言葉の後、桜から恐怖の色が消える事がなく機嫌を悪くしたのか早々に桜の頬から手を離し離れて行った。しかし、哀絶は桜を離そうとはしない。


『哀絶よ。そろそろ離してやらんか』

『離れるは哀しい、、』
『次嫌われるのは哀絶かのう』
可楽の言葉に哀絶は無言で積怒へ目を向けるとため息を一つ、諦めた様に桜を抱き締める腕を緩めた。

『なんだその目は!
 腹立たしい!』
積怒の怒鳴り声に放心していた桜の思考は蘇る。
自分の目の前に鬼が居る。
しかも4体も。
そんな状態に改めて手足が動かなかった。


コトッーーー


四鬼が言い合うなか、その音に気付いたものは居なかった。

『そうじゃ桜、主は、、』
『桜?』

力なく座り込んでいた桜の姿が無い。

『ヒョヒョッ
 上弦の肆ともあろう方々が
 格下であるはずの私の侵入に気付かず
 あまつさえ獲物を横取りされているなど
 これはもう、入れ替わりの血戦を申し込めば
 私が勝つと決まった様なものではありませんか!?』

『玉壺、、貴様、、』

その奇妙な笑い声は、宙に浮かぶ金魚が吊り下げている桜を至近距離にうねうねと舐め回す様に見つめていた。
金魚が、一匹、二匹と現れ、四鬼の周りを泳ぎ始める。

『稀血ぃ?
 これはこれは造形も美しい。
 創作意欲が湧き立つというものです
 是非とも私の手で益々の感動を与える
 作品に致しましょう』
 
  血鬼術 "水獄鉢"

みるみる桜の体は水に包まれ、
そしてそのまま水の壺に沈んだ。

    シニ、タクナイ、、


『ヒョヒョッ、ヒョヒョッ!
 これはさながら人魚の様。
 そうです!半身を私の粘魚に喰わせましょう
 さすれば本物の人魚足り得ます。
 揺蕩う尾鰭に、稀血にほの赤く染まる水鉢。
 想像しただけで胸が躍る!
 半天狗!どうですか?
 素晴らしい作品でし、、、ギィィーーーーァァ』

積怒の手には突然現れた鬼、玉壺の首が吊り下がっており、ウネウネと動く体は哀絶の槍によって地面に突き刺された。

『離せ。アレは儂らのものじゃ』
ガシッっと空喜の手が積怒の手に下がっていた玉壺の頭を掴む。既に爪が食い込んでおり、このまま力を入れれば握り潰す事ができるだろう。
可楽の足の下では壺がパキッと音を立てる。

『待て、待て、待て!
 人魚の作品は芸術と思ったまで!
 永遠に美しい作品を作ろうとしていただけではないか!』

『離せ』

その一言は四鬼の声が揃い、まるで1つの声の様だった。身の危険を感じた玉壺が血鬼術を解くと、包む水の鉢はグシャリと姿を変えた後、水は跡形もなく消え去り桜は解放された。

『ヒョヒョッ……
 ちょっとした挨拶ではないか。そう怖い顔せずとも、、』

『去ね』

『半天狗、、』
壁際でガシャンと音が鳴る。そこには可楽に蹴り飛ばされ破片となった壺が転がっていた。

『去ね!!』


ーーーーーー


『、、!!桜っ!!』

喉の奥から水が込み上げ、咳が止まらず目尻に涙が溜まる。
水の中に落ちていたせいで衣服はびたびたで重い。


ーー助かった、、の?
  でも、なんで、、、

鬼は人を、中でも稀血を好んで喰らう存在。桜を生かす理由など彼らにあるはずも無い。

しかし、彼らの目に浮かぶのは安堵。


ーー意味がわからない。
  でも、、生きて、いる

彼らは仇の鬼で、鬼は嫌いで、憎くて、許せないのに
確実な事が一つだけあった。
ただ、今は彼らに伝えたい。

「、、たすけてくれて、、
 、、ありがとう、、ございます、、」


可楽の伸びた手は桜の頬に触れると、目尻に溜まった涙をペロリと舐めとった。

ーー・・・・・?
何が起きたのか理解が追いつかない桜は目尻を触り触れた手を見つめたが、手には血も涙もついていなかった。

『まこと、愛らしいのぉ』
そんな桜を見て可楽は満足そうに笑っていた。

ーーーーーー


『ところで。
 桜の周りで氷の剣士の姿を見ないのは何故じゃ?』

何処からか哀絶が持ってきた着物に袖を通し、
着替えを済ませると桜には思いもしない言葉が
空喜の口から発せられた。
『彼奴(あやつ)の呼吸は面白い
 桜の養い親の様なものならば、
 殺さぬ程度に遊ぶ相手には良かろうと、、

 桜?』

何の気なしに口にした言葉に桜の目に悲しみの色が宿ると積怒の錫杖が空喜の頭に落ちシャンと音を立てた。
『痛っ!!何をしよる!!儂はただっ』
空喜が抗議の言葉をつづけようとするも積怒の鋭い睨みはそれを一切許さず、皆口をつぐむ。静かになったその場に桜の声がした。

「、、詠さん……氷の剣士は自害しました。」
 


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