足りないモノ


「竹林の手入れ??」
「ええそうなの。そのボランティア。」

なんでも、ここ産屋敷邸の手入れで刈り取った竹はボランティアで参加した中で欲しい人は貰って良い事になっており、半年に一度くらいの頻度で人が集まっているのだという。
蜜璃も次の課題制作で竹を取り入れたいと思っていて、その材料確保の為もあって桜を呼ぶ事にしたらしい。

ーーこれは、、話を聞くどころでは無い気が…

全員が全員、竹目当てではないと思うのだが、広い竹林とは言え、そこそこの人数が居て、更にガタイの良い人が結構居る。

「蜜璃さん、、私には荷が重いのでは…、、」
「大丈夫よ!ささっ、頑張りましょ!」

青褪める桜は、蜜璃が重い画材を軽々と運んでいた姿を思い出す。

ーーコレはヤバいやつデス…

「ちょっと良いですかな?」
振り返ると、そこには波と雲の柄着物を着た優しげな顔をした老人が立っていた。着物と言っても上衣だけなので、作務衣に帯をしめたような格好である。
「…わ、私ですか?」
「お嬢さんはこちらで、後ほど振舞う豚汁の手伝いを
 お願い出来ますか?その細腕では、
 こちらが心配になってしまいますから」

「あ、、えっと、、」
「もちろん、竹が入り用なら用意致しますので」

「桜ちゃん!!私は大丈夫だから、美味しい豚汁
 用意しておいてちょうだい!」

言い残すと蜜璃はあっという間に男性ボランティアの輪に向かって行ってしまった。


ーーーーーー

「やっぱり体を動かすのって良いわ!
 豚汁も美味しい!!」
「沢山ありますから、お代わりも出来ますよ」

ボランティアに参加していた人たちが、庭のあちこちで豚汁で疲れを癒していた。

蜜璃の話だと、参加者は産屋敷との縁のある人が多く、半数ほどは竹目的では無かったらしい。
目つき鋭い髪が白鼠色の青年は今年度末に警察官の採用試験を受験するという、竹目的ではない人。
炎の様な派手な髪色の人は道場を開いているそうで、小学6年生の目のパッチリした子供を連れて、竹刀の材料や、稽古道具に使う為に竹を分けて貰いに来た人。
やけにキラキラして見える青年は高校3年で長く続く縁者。似た顔立ちの人も一緒にいた為、兄弟も数人来ているようだ。
黒い鱗柄の服を着た老人は、先程声をかけてきた波と雲柄が入った着物の老人の将棋仲間だったり、髪がサラサラなびく青年は着任したばかりの近くの中高一貫校の先生らしい。
「あっちの体の大きな人は幼稚園の先生で
 去年七夕で大きな竹にみんなで飾り付けして、
 子供達大喜びだったんですって。
 最後は小さく切って、全園児がお家に飾れる様に
 お持ち帰りするって言ってたの!素敵よね!」
そう言えば最近あちこちで七夕の装飾が始まっていた気がする。
「へー。本当に様々な方たちですね。
 どうやって繋がった縁なのか気になりそうです。
 …それにしても、、皆さん仲が良さそうですよね。」

「参加してみて思ったのだけれど、なんとなく、
 居心地が良いのよね。また来たくなっちゃうわ。
 あと、ほら、アレじゃないかしら?
 "同じ釜の飯を食った仲"っていう…」

蜜璃の言葉が終わる前に、お代わりを求めて桜のところへポツポツと人がやってくる。
美味しいと何度も声をかけられ、少しくすぐったくて、でも、嬉しくて仕方がなかった。

笑顔の桜を見て、一人蜜璃は続きを口にする。
聞こえていなくても気にしない。だってこれはただの独り言なのだから。

「だから、桜ちゃんも輪の中の人なのよ」

ーーーーーー

「皆さん今日はありがとうございました。
 そして、お疲れ様です」

そろそろお開きの雰囲気が現れ始めた頃、女性の声で皆の視線が屋敷の縁側に集まった。すると、着物姿女性に連れられて、長寿記録更新中の産屋敷輝利哉も姿を見せた。
女性に腕を借り、反対の手は杖をつきながらも、自らの足でゆっくり進むその姿に頭が下がるような気がしてしまう。

それまでざわざわと話し込んでいた人も、言葉を切って輝利哉へ当たり前のように姿勢を正して視線を向けた。
輝利哉は一同を見まわして、ほほえむ。

「今日は、ありがとう。
 また、会えるのを、楽しみにしていますよ」


その声は全ての疲れを癒すようなとても暖かく、優しいものだった。
皆がその雰囲気に惚けている間に輝利哉は来た時と同じように女性の腕を借りて戻っていく。
一歩一歩確実に。



    鬼殺隊 鬼 痣 産屋敷



「…あっ!あのっ…輝利哉さん!

 私、桜と言います。
 私に"昔"の事を教えて頂けませんかっ!」

輝利哉の足が止まると、彼はなにか考える仕草をした後、ゆっくりと桜に向き直り微笑んだ。

「桜、さん。懐かしい名前です。

 そうですね。…来週にまた、いらして下さい。
 ちゃんと"準備"をして、おきますからね」

そうして、輝利哉は再び笑みを残して奥へと戻って行った。

その存在感たるいなや、蜜璃に肩を叩かれるまで輝利哉が出て行った襖から目を離す事出来なかった。
 


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