足りないモノ2
一週間が物凄く長い気がする。
今日は◯日だから、あと4日。
今日は火曜日だから、あと4日。
今日はゴミ収集が無い日だから、あと4日。
そういったように、何かにつけて何度も日にちを確認してしまう。
答えの在りかが分かっているのに、それを知る事が出来ない、なんとモヤモヤが膨らんでいくことだろうか。
《ちゃんと"準備"しておきますからね》
準備とはそれだけ"昔"の事はおおごとなのだろうか。ただでさえ"桜さん"絡みで広がる資料。
青い彼岸花の手掛かりはまだ見つかっていない。一番手掛かりになりそうなのは手記ではあるが、あの夢を見てしまう気がして、おいそれと手が出ない。
医療的な冊子は昨日なんとか確認を終えた……筈なので、もう段ボールも手記を除いて1箱位になった。
「…桜、、さん、か…
……ん?、、あれ…」
《桜、、会いたかった。》
《桜!やはり儂は桜が好きじゃ》
《…桜…?》
ーー人では無い、、鬼…?。3人…
違う…
《彼奴(あやつ)は
へそを曲げるじゃろうなぁ。》
ーー4人、、4人…。
手記だ。
「名前、、名前、、あった。
空喜、哀絶、可楽、積怒。
……これが、あの人達の名前、、」
ーー私の見ている夢は"桜さん"に向けられたモノ…
胸の奥にチクッと痛みが走る。湧き上がるモヤモヤがある。でも、そのモヤモヤには名前がない。わからない事は知りたい性分の筈なのに、その名前は知りたいと思えなかった。
消えてくれないモヤモヤを気付かなかった事にしたくて手記を閉じると、段ボールの中に入れて、更にもう一つの段ボールを乗せて蓋をしてしまった。
「……。私は、、"桜さん"じゃないもの…」
そのまま布団に潜り込むと、段ボールに背を向けて丸くなる。きっとこれが精一杯の拒絶。
ーーーーーー
ハラハラとピンク色の花びらが舞う。
半分だけ花を咲かせた桃の木を見上げていた。
ーーどうして半分枯れてしまったのだろう…
桜が考え事をしていると、いつのまにか一人の青年が隣に立っていた。桜と同じく桃の木を見上げて居たが、その瞳は桃の花ではなく別の何かを映しているような気がする。
その色はとても悲しげ…。
桜は無意識に青年に手を伸ばしていた。それに気付いたのは、もう触れてしまう直前の事で、手を引っ込めるような余裕は残されて居なかった。
突然青年が動く。
触れてしまう…
ーー見ず知らずの人にやってしまった。
そう思った。しかしその手は青年の体を通り抜けて、瞬きの間に桜の背後へと移動していた。
夢に振り回されて居る気がして、溜め息が出る。
それでも桜は青年に目を向けると、その背を追いかけた。
獣道の草を足で掻き分けて、黙々と歩き続ける青年を追う。歩けば歩く程、山の季節が進んで桃の春から、初夏の黒百合、夏の薊(あざみ)。女郎花(おみなえし)の咲く秋が来て、青年の足が止まる頃には木の葉が色を変えていた。
桜は立ち止まった青年の隣に並ぶと、同じ景色を目に映す。
まるで赤の絨毯。
彼岸花が揺れて居る。
「…桜先生。貴女が大好きだったこの場所は、
俺が守って行きますから。」
呟くような言葉に、桜が視線を向けると、その青年は泣きそうな顔をして笑って居る。
「志貴(しき)と名前を呼びながら、天狗様を
思っていたでしょう?
それでも桜先生の事、大好きだった。」
「年も離れてるし、別に結ばれたいとかそんなじゃない
ただ、先生には笑っていて欲しい。
だから、守ります。
あの、青い彼岸花を。」
ーー…え、、?
慌てて目を彼岸花ヘ向け直す。
しかし、桜は動いていないのに、見える景色は四角く切り取られて遠ざかり、あっという間に暗闇という幕が降ろされた。
ーーーーーー
「青い…彼岸花…。」
桜は居ても立っても居られず、翌日再びあの診療所を訪れた。アポも取らずにやってきたのだから、誰かと落ち合う約束もない。
ただこの診療所の遠くない場所に、半分だけ生きて居る桃の木があって、昨夜の夢を辿るように進めば、あの場所に辿り着ける筈なのだ。
道順は起きて直ぐ記憶の限り書き留めた。それも忘れずに持ってきている。
夢では季節が巡っていったことから、距離感は実際行って見ないと分からないと思っているが、期待値は高い。
夢を頼りにするなど、おかしな話なのは分かって居る。だって、今まで疑問に思った事の答えは大体、本とネットが教えてくれた。
きっと学者先生達には馬鹿にされるだろう。
根拠なんて何もないのに、無駄足だろうと。
それでも、好奇心が、知識欲が私を呼ぶ。
鬼さんこちら、手の鳴る方にと。子どものむかし遊びのように。
ーー私は、鬼ではありませんけどね。
それでも、ワクワクは止まらない。
ーーーーーー
半分だけ生き続けている桃の木なんて、珍しいモノだから、人に聞けば直ぐに見つかると思っていた。
人が居れば…。
「……、、流石に無計画過ぎだった、かな…。
そもそも、半分死んでしまった木を残しておくなんて
無い話だったかなぁ…」
ぐぅーとお腹の虫が存在をアピールするものだから、桜は折り畳みの小さなクッションシートを広げて、向かう途中に仕入れたサンドイッチを口に運び始めた。念の為にと出掛けに慌てて印刷して荷物に突っ込んできた航空写真を取り出して眺める。
ーーこれが、、診療所で、、。
こっちの方に移動してる筈だから…。
「……ん?、、建物がある、、?」
ーーこれは、若しかしたら人が居るのではないですか?
話が聞けたらきっと、直ぐに見つかるわ!
サンドイッチを急いで食べ終えて、再び動き始める。目指す先が出来たとあれば、その足取りは軽く、迷いはなくなった。
ーーーーーー
「あれ?桜さん出ませんね…」
青葉はスマホを見つめて首を傾げた。
「まぁ、いっかー。この間桜さんは一人で山に…
いやいや、あの診療所に行ったわけだし、
一人で行っても、問題ないですよねっ!」
青葉も荷物の準備始めたのは桜が家を出た頃の話。
ーーーーーー
「これは、、」
桜の言葉が続かないのも無理はない。あまりにもその建物はボロボロで、とても人が住んでいるようには見えない。
どうやらアテは外れてしまったようだ。
もしもこれが大正時代から残っている建物だとしたら、手入れも何もないのによく形を留めていたなとおもうし、壊されなかった事が不思議に思ってしまう。
「……"桜さん"もここへ来たのかな…」
診療所から近くはないと言っても、それ程遠くもない距離のこの建物。そんな縁を思い描く。
「…少しだけ、、少しだけなら、入っても、、
大丈夫、ですよね…」
桜の原動力は"好奇心"であると言っても過言ではない。そんな桜に好奇心という名の動力が注がれた。ならばその足が向かうのは、ボロボロの建物の中以外に無かった。
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