足りないモノ3
外見はボロボロなのに、中は外ほど荒れては居なかった。だからと言ってここに泊まれるかと聞かれれば、遭難でもしない限りNOと答える事だろう。
日がよく差す部屋と、反対の昼間でも薄暗い部屋。少しでも明るいうちに薄暗い部屋を見ておこうと、奥の部屋へと足を進める。
「、、失礼、、しまーす、、」
襖を動かそうと手を掛けたものの、少しだけ動いて、直ぐ何かに引っ掛かって止まってしまった。きっと建物自体がもう歪んでしまっているのだろう。
ーー長居は危ないかもしれない…
開いた隙間から中を覗き込むと、特段荒れた様子は無い。しかし不思議な事に、何も無い壁の前に一輪挿し、そしてその一輪挿しには花が生けられていた形跡があった。
「床の間なら直ぐ隣にあるのに、、
花を飾るなら、床の間でしょう?」
建物の大きさ的に、さらに奥に部屋は無かったと思われるのだが、そこに置いた人にはそれなりの理由があったのかもしれない。
その光景に疑問を持っても、今回は注釈を入れてくれる人などいないため、諦めて覗き込んでいる部屋から視線を離そうとした。
しかし、その目は…視界の端で何かがキラリと光を反射したのを捉える。
ーーん?なんだろう…
気になる、、けど、襖壊すのは良く無いですよね…
諦められずに桜は襖を揺らそうとしてみるが、どうにも動く様子は無さそうだ。ダメ元でと奥側の襖に手を掛けると…
「……開、い、ちゃった…」
開いたと言っても、横歩きをして通れる位の少しの隙間で、よそ行きの服でも着ていたら挑戦しようだなんて思いもしなかっただろう。
奥の部屋に入り込み、そこにあったのは小さな刀。ぽつんと、居心地悪そうにそこに落ちていた。
桜は荷物から白い手袋を取り出しはめた後、その懐刀を拾い上げる。この建物の時代からあったとすれば、かなりの年代物だろう。
傷をつけてしまわないように、ゆっくりと抜いた。きっと錆だらけで残念な事になっているのだろう。なんて、そんな事を思いながら。
「…綺麗……」
そこには、予想に反して、青みがかった白い刀身が自分の顔を写していた。
「・・・・・・・・。」
「誰か中にいるかあー!!」
「っ!!、、はっ!はいっ!ごめんなさい!!」
思わず出た「ごめんなさい」にやっぱり悪い事をしている気はあったのね、なんて事を思いながら、急いで来た道を戻って行くと、初老の男性が、驚いた顔をして立っていた。
「まさか、女の人が居るとは思わなかったけど、
勝手に入っちゃダメだよ。危ねぇんだから。
古くていつ倒れても、おかしく無いんだ」
「立ち入り禁止の札が外れていたようですね。
あっちに落ちてました」
「ありゃ、本当だねぇ。ごめんなぁ。
大声出しちまって。」
「あ、、私も、、良くないかなぁとは
思っていたので、ごめんなさい。」
って、、??!!青葉先輩?!」
「桜さん?!どうしてこんなところに?」
「なんだい?知り合いか?」
「診療所の"桜さん"に興味があって…」
「ああぁ!
"桜先生"の遺品貰ってったってのはあんたらかい?」
「……す、すみません、、」
「謝らないで良い。儂らには大切すぎて手を出せない
モノだから、かえって良かったんだ」
どこか遠くを見上げて、口にする言葉はホッとしたような雰囲気で、"桜さん"は独りでも、孤独ではなかったんだろうなと心が温かくなっていた。
「桜さん」
少々ピリッとした口調で青葉が桜を呼んだ。
「私は、桜さんの友達ですか?」
「…突然、どうしたんですか…」
「良いから答えてください。」
「友達ですし、研究?探求、仲間だと…思って…ます」
真っ直ぐに見つめる目は、昔から知ってる深い青。
「でしたら、少し耳の痛い事を言わせて貰います。
疑問に思うと調べたくなる性格なのは分かります。
でも、貴女は女性です。一人でアポも取らずに
走り出してしまって、何かあった時どうするつもり
なのですか?熊やイノシシだけじゃありません。
貴女は貴女が思っているより見た目も整っててます。
下手すれば変質者に狙われるかもしれないんです。
一緒に来られないにしたって、行き先と帰る予定
くらいの連絡はする様にして下さい。」
まるでお母さんが言うような事を、この歳になって言われるモノだから、桜は目をまんまるにして、言葉を無くしていると、青葉の目がギラっと光る。
「…ご、ごめん、、なさい……」
「分かりましたね?!!」
「…はい……」
下を向いて少し落ち込んでいると、降ってきたのは青葉の笑い声。
「分かったなら良いですよ。それより、
友達じゃないって言われたらどうしようかと
思いました。」
「……?言わないですよ…」
「耳障りの良い事だけを言うは友達でも、仲間でも
無いでしょう?…それに、分かってくれると
思うから言うんですよ。私は。
桜さんとの腐れ縁を大切に思ってますから」
「、、腐れ縁って……」
「不満ですか?」
「…ん"ーー。なんかこう…悔しいなとぉ…」
「なんだい!知り合いどころか、仲が良いんじゃないか!
どうせ、知りたい事も2人同じなんだろう」
男性は大口開けて笑うと、今回の目的を桜に問うた。
「…半分枯れた、桃の木を探しています」
ーーーーーー
思ったよりも簡単に、桃の木にたどり着く。
その木はこのボロボロの建物の裏手にあって、夢で見たのと同じように半分だけ葉を揺らしていた。
「…あった、、」
桜は起きてすぐ書き留めた夢の道標を取り出して、その道を辿ろうとした。
桜が突然に動き出すモノだから、青葉と激突しそうになり、お互いに同じ方向に避けるなど、コントの様な事をしてしまう。
パチンっ!!
「はい。二人とも落ち着いて。
その様子だと、コレは通過点で、目的はもっと他
ってところか?」
男性が叩いた手の音で、桜と青葉は顔を見合わせた。
「それは、、」
桜は夢を思い出して口籠もる。あの青年は青い彼岸花を守ると言った。それを余所者(よそもの)がズケズケとやってきて荒らしてしまっては面白く無い話だろう。
「青い彼岸花を探しているんです。
診療所の桜さんが見た事があるらしいとお聞きして
それで彼女の足跡を辿っていました」
「ちょっ……青葉先輩?!!」
「隠す様な話じゃ無いでしょう?
荒らしたい訳じゃないですし、もし大切にされてる
なら、研究所で保護する事だってできるんです。
知ってるなら考えてもらう意義はあります」
「…でも、、」
「知ってるぞ。青い彼岸花の咲く群生地。」
「「・・・・・・・ええ!!!!」」
「そんな簡単に言っちゃって良いものなのですか?!!」
「簡単じゃないさ。此処は過疎化が進んで、若い者は
殆ど居なくなっちまった。
俺らだって、いつここを離れるかわからねえ。
だから、診療所も取り壊す、この建物も一緒に壊す
もう、桜先生を送り出してやるって決まったんだ」
「送り出す?…もう亡くなって長い話じゃないですか?」
「それでも、俺らが先生の陰だけを思ってちゃ、
先生は優しいから心配させちゃうんだよ」
男性は笑った。まるで少年の様な清々しい笑い顔だった。
「真実はなんでも良い。俺らの気持ちの問題なんだ。
親父も分かってくれるさ…」
桜と青葉はその男性の顔に、深入りする気にはなれなかった。
ーーーーーー
残念ながら、その日はそれ以上、青い彼岸花へ近づく事はできなかった。何せまだ季節は、これから猛暑と闘う日々が始まるところ、いま行ったところで彼岸花の「彼」の字もない。
それに歩いて行くにはその場から遠く、後日車を手配して…と言う話になり、桜と青葉は帰路へ着いた。
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