求めるモノ2


「離せ!コレは儂のじゃ!お前のモノでは無い!
 欲しいなら先生に言えば良かったろうが!
 憎たらしい」
「五月蝿いっ!お前はいつも生意気だな!」
公園を横切ろうとした時、先日"アバズレ"と桜に言い放った少年を見た。
少年が手に持っていた笹の一枝は、彼より体格の大きい少年に奪われ、突き飛ばされると、地面に尻もちをついた。
「返せっ!それはっ!」

一枝が地面に落ちる。

続いたのは靴。

何度も、何度も落ちた、、
体の大きな少年は嫌な顔で笑っていた。


「やめなさいっ!」
桜は思わず声を上げ、急いで公園の中へ走り込むも、大きい方の少年はもう逃げてしまった後で、砂まみれで傷んだ葉の並ぶ笹と、俯く少年だけが残されていた。

拾い上げて砂を払っても、笹はぐったりして戻ることは無い。

「ごめんね。もっと早く気付いてあげられたら…」
「何故じゃ、、儂が何をした?
 間違った事をしたか?
 これを持つことは悪い事なのか?
 憎らしい、、憎らしい、、憎らしい、、」
拳を握りしめて、小刻みに肩が揺れている。
桜は少年の正面にしゃがむと、握った拳を掬い上げる様に手に乗せ、労るように握る。

「君は間違ってないよ。
 悪い事なんてしてないよ。
 でもね、最後のは良くないかな…
 "人を呪わば穴二つ"って言葉があってね、
 君まで悪い事が起きてしまう。
 そうしたら私、悲しいな」
「何を言うとる、、アバズレが…
 儂の事など知らんだろうが…」
「また言いましたね?せっかく笹の心当たりが
 あるのに、教えるの辞めてしまおうかしら?」

下を向いていた顔は一気に持ち上がり、桜と視線が交わった。
泣いていたのかと思っていたが、頬に涙の跡は無かった。
「っ!!ず、、ずるいではないか!
 弱いモノいじめするなど、極悪人!鬼畜!
 知ってるなら、教えたって良かろうが!」

「…流石にあまりの言いようなのでは?
 そんな言い方をされて教えたいと思いますか?
 それと、桜。私の名前、覚えて下さいね」
「………桜……ごめん、、なさい…」
すごく気まずそうにモゴモゴと動いた口は、それでも桜の名前を音に乗せた。

青葉の所に行くのが少々遅くなっても問題はないと、桜は公園のベンチに少年を誘う。
「名前聞いても良いですか?」
少し恥ずかしそうに隣に座った少年はぐったりとした笹をつついている。
「……はく、てん…。」
ーー天(そら)を拍(う)つかな?
  この子が生まれてとても喜んだのでしょうね

「その笹はどうしたの?」
「手習いの先生に貰ったんじゃ…
 もうすぐ七夕じゃから…と…」
「風流ですねー。私はつい先日まで七夕の事
 すっかり忘れてしまっていましたよ」

「……その、七夕は、願い事が叶うのじゃろ?」
「…願い事?、、ああ、短冊を飾りますね。
 お願い事をしたかったのですか?」

「…。織女と牽牛だって1年に一度会えるのに
 兄者がいつまでも独り身なのはおかしいじゃろ…」

ーーお兄さんの為…?
最初は変にませた口の悪い子だと思った。

「…そっか。拍天くんは優しいね。」
「なっ!そんな事ある訳なかろうがっ!桜の目は
 節穴と言うやつではないのか?!!」

ぐるるるるっとまるで噛みつきそうな顔をして睨んで居るのに明らかな照れ隠しで可愛いらしく見えてしまう。

「それでっ!本当に笹に心当たりが有るんじゃろうな!
 騙して居たりすれば許さんからな!」
「それは大丈夫ですよ。大学の友達が先週もっさりと
 入手していましたから」

スマホが二つ鳴り、一方は蜜璃で笹の確保が完了し、もう一方は青葉だった。

「拍天くん。次の土曜日時間ありますか?
 良かったら、
 私のお出かけに付き合って下さいな?」
蜜璃から送られてきたもっさりとした笹の写真を見せながら、笑って見せると、拍天は一瞬目を輝かせたものの、すぐにキリッと表情を直して、目を逸らしながら「取れない事もない」と口にした。

「あ、でも、知らない人と出かけるなんて、お家の人
 心配しますよね…」
「ウチは放任主義じゃし、桜は人畜無害の様じゃから
 大丈夫じゃろ。……人タラシじゃが、、」
「君は一体どこでそんな言葉を覚えてくるのですか…」
「悪い意味では無いぞ!」
「それを言えば許されると思ってる辺りが、
 末恐ろしいと言いますか…」

その後次の土曜の約束をすると、安心したのか、年相応に表情が柔らかくほころび「これで七夕に間に合う。」と言葉が溢れた。

拍天はベンチから立ち上がると、少し桜から離れて振り返る。

「桜!お前はヘラヘラと憎らしいが!
 嫌いでは無い!
 だがな!週末の約束を違えたら許さんからな!!」
「大人は寝坊をしないのです」
「それは嘘じゃ!兄者は良く寝坊をして居る故な」

拍天を追って桜も立ち上がると、彼が振り回していたクタクタの笹を桜は受け取った。綺麗な笹が手に入るまで、せっかくならお兄さんに内緒にしておいた方が良いだろうと。

公園の入り口で別れた少年は走って帰っていく。
曲がり角で桜を振り返り「9時!9時だからな!」と大声で念を押して。
初めて会った時のような不満そうな顔ではなく、キラキラと楽しげな顔をしていた。


ーーーーーー

公園から桜は青葉の所にやって来ていた。
「本当に似た懐刀ですね」
「実際に、同じものなんだそうですよ。
 その前に、青葉先輩。
 曾お爺さんと曾お婆さんが鬼殺隊に縁があると
 知っていましたか?」

「・・・・・・誰の?」
「………ですから、、先輩の。」
「……はぁ。そうなんですか?」
「、、ご存知でなかったのですね」

産屋敷で見た記録には、神崎アオイという人が柱だった胡蝶しのぶの遺品の一つとして"桜さん"が持っていた懐刀の片割れを受けとった事、そして、嘴平伊之助の元へ嫁いだ事が記されていた。

「青葉先輩。この懐刀、先輩に託します。
 元が一本なら一緒の場所に置いておくべきですし、
 嘴平伊之助という剣士は二刀流だったそうですから
 きっと丁度いいんです」

「こちらの返事を聞く前に、
 置いて行く気満々じゃ無いですか」
フッと笑いながら青葉は桜から懐刀を受け取った。
長い付き合いで、桜が心変わりする様子がない事を察して青葉は早々に諦めていた。

「それで、土曜日の診療所解体ですが、私は
 行けそうに無いです…
 ここまで首を突っ込んだのなら、、と思ったの
 ですが…」
「大丈夫ですよ。私が行って見届けて来ますから
 まだ学生で様々です!」

そう。土曜は診療所解体を見届けた後、蜜璃の所に笹をもらいに行く予定なのだ。
土地柄、行ったり来たりも大変で、慣れない場所に小学生を呼びつけるのも、どうかと思う為拍天も朝から一緒に行く計画にした。

「学生と言えど、人を、それも年下の子連れて行くなら
 ちゃんと大人として振る舞わなきゃいけませんよ!
 桜さんはいつもどこか必ず抜けてるんですから。」
「それはちゃんと心得ていますよ」


そうして今度はあっという間に日々は過ぎていく。
 


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