求めるモノ4


夜の帳が下りた屋敷の中は静かに時間が過ぎている。
見覚えのあるその景色はやはり夢の中。それも、まもなく壊される屋敷の、家としての仕事を真っ当していた頃だと思われる。
しかし、そこに誰かがやってくる様子はなかった。

少し、いや、そこそこに寂しいと思ってしまうのは今まで必ず誰かがやって来ていたからなのだろう。

会いたいと思ってしまう。
愛しいと思ってしまう。

ーー違うと言っても、
  違わないと言ってくれたから。
  その言葉を信じたい…。

桜は屋敷内を歩き始めた。産屋敷輝利哉の話では鬼は太陽に当たれないという。ならば、日が昇っても左右されない奥の部屋が目的地となる。
現実では建物が歪んだらしく、建て付けの悪くなっていた襖の前、もしも彼らが居るなら此処なのだろうと「失礼します」と声をかけた後に襖を開くと、敷かれた布団に羽を髪にあしらった一人の女性が眠っていた。

枕元に置いてある白いぼんぼりとアンティークゴールドの輪の方へ体を向けていて、その姿は、それらを見つめていてそしてそのまま眠りについたように見える。小さな寝息はとても穏やか。

ーー眠り姫、、
和製の物語だったら、挿絵はこういう姿が合うだろう。なんて自分でもよく分からない思考にたどり着いていた。

「あら、こんな時間にお客様とは驚きですね」

突然の声に驚き目を向けると、女性を挟んだ向こう側に少女と呼ぶには大人で、女性と言うにはまだ幼い、そんな娘が座っていた。

明らかに、声をかけられる前には居なかった。
それでも、これが夢だと認識しているし、娘からは嫌な雰囲気は全く無いため、ニコニコと女性を挟んだ向かい側に座るよう促す娘の意を汲んで桜は腰を据えた。

ふと、娘の背後に目が行くと、床の間の隣には奥へと続く廊下が見える。
「あちらは、無限城に続いておりますから、貴女は
 行く事はできませんよ」
「…無限城…?」
「えーと、鬼の本拠地とでも言うのでしょうか?
 …そういう場所です」

桜の記憶は産屋敷で見た鬼殺隊の最後の記録を思い出していた。そう、無限城は鬼殺隊と上弦と呼ばれる強い鬼、そして鬼の始祖が死闘を繰り広げた場所の名前だった筈だと。

「私は櫻と申します。私の生まれ変わりが
 今、そこで寝てみえる"桜さん"なの。
 貴女はどちら様?"桜さん"の縁者さんかしら?」

さらっと信じがたい言葉を発した様な気がするのだが、娘の目に嘘偽りの色は無く、至って真面目な表情に、不思議とすんなり受け入れられてしまった。

「貴女が"桜さん"の前世と言うなら、
 私は来世というモノに当たるのだと思います」

「まぁ!!それは素敵な話ですわ!
 …でも、未来の事は聞いちゃいけないのよね」
「えーと…多分?」

「やっぱりそうよね」と苦々しく笑った櫻だったが、表情を変えて、桜を真っ直ぐに見つめた。
「でも、、これだけは教えてくださいませ。
 貴女は"あの子達"と逢えましたか?」

ーーあの子達…

その言葉で、桜の頭に思い浮かぶ人は彼等しか居なかった。
それは、四人の鬼達。

「現実ではまだ会えてませんが、
 夢の中で何度かお会いしました。」
「…貴女は、好き?」

ストレートな物言いに、一瞬たじろいでしまったが、桜は櫻を見て頷いた。

櫻のホッとした顔が目に映った。しかし、段々と桜の視界は色を無くしていき、読み込みがうまくいかない動画の様に動きが飛び飛びになってしまう。

ーー目覚めが近いんだわ、、、

櫻の口元が動いて見えるのに、声が聞こえない。そして、そんな状態な事を彼女に伝えようとしても声が出ない。

ーーもうだめなの…?

どんどん画質が荒くなって、最後に何かが触れた様な感触を残して、目の前は真っ白に変わってしまった。

ーーーーーー

「…ん、、拍天くん?!!」
覚醒するなり、何かにもたれかかっていたと気付いたが、それが彼の肩だと気付いて、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで、涙が出そうになった。
「そんな長くは寝て居らんし儂は平気じゃ」
「…で、ですが……」
「それより、桜が、色々気を回して疲れて居ったじゃろ
 気付くのが遅くて、、その、、ぁり…」
「……?そんなの当たり前ですよ?
 だって私が付き合わせた話なんですから」
建物の方からバリバリと建物を崩していく音が聞こえてきた。どうやら解体が始まったらしい。
「肩を貸してくれてありがとうございます。
 おかげで、回復しました。
 ささっ。トカゲさんの活躍を見に行きましょう!」
「…う……うむ!」

ーーーーーー

3時半を過ぎた頃、桜と拍天は笹の枝を目の前にしていた。しかし、イメージしていたより明らかに大振りの枝に言葉をなくしている。
本当は最後まで屋敷の解体を見届けようと思って居たのだが、解体の予定時間が押して、蜜璃との約束の関係で6割ほどを見届けて移動するに至った。

「君がお兄さんの為に笹が欲しい子ね!
 お兄さんの為だなんて!とっても健気で
 可愛いわぁ!!」
キラキラ笑顔を向ける蜜璃に、拍天は桜の後ろにしがみついたまま、隠れて出てこようとしない。
人見知りをしてしまったと思ったのだが、どうやらそれもどこか違うらしい。

「笹を求める、はくてんくんかぁ。
 ぴったりよね。桜ちゃん!」
「ぴったり?ですか?」
「ええ、だって天の川は空に白く流れているもの。
 ほら、海外でも、天の川をミルキーウェイって
 言うでしょう。白い天、ピッタリでしょう?」

「…成程、、でも蜜璃さん、彼は"白い天"では無く
 "天を拍つ"の方なんだそうですよ」
「……え?」
かぁーっと羞恥で赤く染まる顔は余程自信を持って言った事なんだろうと、微笑ましく思ってしまうのだが、蜜璃の方は桜の背後にずいっと近付いて「私ったら失礼よね。ごめんなさいっ!!」と謝り倒している。
尚も桜の服を掴んだまま蜜璃から隠れようと逃げる拍天のおかげで首が締まり、桜はけっこう苦しい。

「……拍天くん、、ギブ、、ギブです。
 首、、首が、、、」

ゆっくりと片手ずつ桜の服の掴むところを変えて、蜜璃から距離をとりつつ、まだ隠れるつもりらしい。
掴み直してくれたおかげで首の締まりは解消され、ホッとしつつ、拍天はまるで人馴れしていない猫の様。

「そうだわ!お菓子!一緒にお茶にしましょう」
 


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