求めるモノ3
重機によって、目の前でバキバキと音を立てて建物が崩されて行く。
埃が舞わないように撒かれている水は、時々虹を浮かび上がらせるので、なんとなく"寂しい"とか"悲しい"とかそういう感情は浮かばなくて、強いて言葉にするならば"お疲れ様でした"という感じがする。
「付き合わせてごめんなさいね。
面白くもなんとも無いでしょう?」
「いや!あの機械!トカゲの頭の様なのが動く様が
すごく強くて格好いい!」
「トカゲ、、、拍天くんにはトカゲに見えるんですね。
面白い見解です」
目をキラキラさせて、飛び跳ねたりしている様子は小学生の男の子らしくて、こちらまで楽しくなってくる。
「しかし、あっという間に無うなってしまうんじゃな…」
「……そうですね…」
殆どが木や、土壁などを使った昔ながらの工法であった事もあり、始まってから1時間半後にはもう大体が無くなってしまった。大きくないとは思っていたが、こんなに呆気ないとも思っていなかった。不思議なモノである。
「そうじゃ、桜。もう一つ建物があるんじゃろ?」
「ええ。そちらは昼前後に始めると聞きましたよ」
「壊される前に見ておきたい!
その方がビフォーアフターが興味深い」
「ビフォーアフターも何も、
全て無くしてしまうんですよ?
「それでも、儂は見ておきたいんじゃ!」
拍天が差し出してきた手に、桜がポカンと頭にクエッションマークを浮かべていた。
「早う連れてけ」
ーー…手。繋ぐんだ。
意味は理解したもののやる事がどこか可愛い。
思わずほころんだ桜の顔に、自分が差し出した手を見つめて、意味を察すると"かぁー"と頬を染めて拍天は桜を置いて歩き出す。
「…ふふっ。そっちじゃ無いですよー」
「なっ!!だから早う案内せぇ!」
拍天は桜を追いかけて隣に並ぶ。
ムスッとしての照れ隠し顔。
「手?繋ぎましょうか?」
「いっ、要らんっ!この悪人が!」
ーーーーーー
「中には入れませんよ。私も怒られてしまったので」
「…大人なのにか?」
「大人でも、間違える事はあるんですよ。」
「埃が舞い始める前に、
お昼ご飯食べてしまいましょうか」
「……」
驚いた顔で桜を見たあと、なにやらモゴモゴと呟きながらリュックを漁る拍天に、やっぱりお昼ご飯のこと考えていなかった様だと、笑ってしまう。
「どうしましょう。
今日は頑張って作り過ぎちゃったんですよねー
誰か一緒に食べてくれる元気な子は居ませんかねぇ?」
パァっと明るくなる顔に、桜は嬉しくなった。
昼食を終えて片付けていた時、スマホが着信を告げる。表示された名前は嘴平青葉。
「桜っ!儂はその辺散策しておるからなっ!」
「あ!くれぐれも怪我をする様な事は駄目ですからね」
「分かって居る!」
拍天の後ろ姿を見送りながら桜は通話ボタンを押した。
ーーーーーー
青葉は要件が明確にある訳でもなく、なんというか桜と一緒に居るはずの少年の安否確認で、そんな心配しなくても…と思いながらも、そう言えば彼は"お兄ちゃん"だったとほっこりしてしまう。
しかし、少年が一人で散策に出ている事を知ると、青葉は慌てて通話を締めくくり、少年の所に行くように桜を急かした。
桜は荷物を纏めると、建物の周りを拍天を探して歩き始めた。
ーーあ、いた。
それは建物の裏手。あの桃の木に面した出窓の所。
拍天はどこか物憂げに建物を見つめていた。声を掛けようとして桜は止まった。
拍天の目が赤く染まって見えたから…。
「どうするのかは桜が決める事じゃ。
儂は桜に嫌われたくは無いからの。
ただ、ーーーーーーーー、
大切にしたいと、それだけは本物じゃ」
小さく聞こえた声は落ち着いていて、本当に拍天が発した言葉なのか自信が持てない。疑問に思った直後に眩暈がして目元を抑えた。
この後も予定が詰まっているのに…と、少し立ち尽くしていると、足音が近づいて目の前で止まった。
「桜、具合が良くないのか?」
拍天の声を聞いて、不思議と眩暈はひいていく。ゆっくりと顔を上げると、心配そうな拍天の顔があった。
ーー……あれ?
…目が、、赤くない。…見間違い…?
「もう大丈夫みたいです。
心配させてごめんなさい」
「なっ!何を?!心配などして居らんわ!
したと言えば、それは笹が手に入らなくなるかも
という事に対してじゃからな!」
風が吹いて桃の葉が揺れると、二人は揃って桃の木に視線を向けた。
「探しに来るとは、もう建物を壊す準備が
始まってしまったか?」
「あ、いえ…1人にしてはいけないと
先輩に怒られた所です」
「儂はそこまで子供では無いわ!」
どうやら口癖らしい「憎らしい」はギリギリ発さずに堪えたらしい。苦々しい顔をしている。
その気遣いみたいなものが面白くて笑ってしまいそうになった。
その後、間をおかずに、人と重機がだんだんとやって来て、解体の準備が進み始めた。
桜と拍天は作業の邪魔にならない場所まで離れるとシートを広げ、その光景を静かに眺めていた。
「のう、桜、、、」
拍天が視線を向けると、座ったまま首をカクカクと揺らして、桜は居眠りをしている。
ーー沢山おかずの入った弁当に、
移動も何の不便も無い。
桜は、たくさんがんばって居ったんじゃな…
拍天は少し座る位置を移動すると、桜の肩をちょんと触った。ゆっくり傾きが大きくなった頭は拍天の肩の上で落ち着いた。
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