求めるモノ5
パンケーキに巣蜜とクリーム、そしてミントの葉まで乗せて、更に紅茶を添えて目の前に出された時には、ここは何処のカフェですか?と思ったものだが、後ろを振り返れば竹と笹が床に転がる作業場で少しホッとしていた。
キラキラとした目で、パンケーキを見ていた拍天に蜜璃が「どうぞ」と笑いかけると、拍天の頬がほんのり赤く染まり、桜は「これはもしや…」なんて思ってしまう。
「うまい!桜の弁当も美味しかったが、
三つ編みも凄い女子(おなご)じゃ。
…そ、その、、こんなに美味いものが作れるなら
儂の嫁にしてやってもいい」
桜は驚いて危なく紅茶を溢しそうになったが、子どもの純粋さに勝手に姉のような気持ちになって、黙って行方を見守ることにする。
「その言葉は嬉しいけど、ごめんね。
実は先日、、その、入籍しちゃったの」
「は、、、。え、、、?
えーーーーーーっ!!!!」
フォークに刺さっていたパンケーキが、コロンと皿の上に逃げていく。
蜜璃は桜と目が合うと、頬を隠して上目遣いに桜を見る。
「恥ずかしくって、言うに言えなくて、
教えるのが遅くなってごめんなさい!」
「え?!そもそもいつですか!」
「えっと、桜ちゃんに《進展は?》とか聞かれた頃…?」
「それは、結構前ですよね…。
もう。私にもお祝いさせて下さいよ」
頬をほんのり染めて笑う蜜璃と打って変わり、目を向けた先で拍天は固まっていた。
どうやら彼は彼で、一世一代の告白だったのかもしれない。
「拍天くん…」
小さく呼ばれた名前に、桜を見てハッとした。
「あ、、愛想振り撒き居って!このアバズレが!」
「あ、あばっ?!」
「こら!拍天くん?!」
「桜ちゃん!大丈夫よ!
そう見えちゃったなら、それは私が改めないと
いけない所だわ。
だって、旦那さんがとっても大好きなんですもの」
蜜璃は照れながら笑った。
「、、、、。ご、めん、、な、さい」
「うん。ありがとう。」
拍天は視線を逸らして、目の前のパンケーキを頬張り始めた。あっという間に消えて行くそれに、桜が「これも食べる?」と皿を差し出すと、頷いて皿を受け取った。
「あっ!待って待って!
桜ちゃん!おかわりもあるから大丈夫よ!」
三つ編みを揺らしてテーブルを離れていったかと思うと、皿にパンケーキを10枚ほど重ねて戻って来た。「いつもよりは控えめ」なんて桜は思っていたのだが、それは置いておく事にしよう。
カラーンとフォークが皿に落ちる音。
山盛りのパンケーキに拍天の目が輝いている。
確かに子供は憧れの光景かもしれない。コレを蜜璃が一人でペロリと平らげられると知ったら拍天はどんな顔をするのだろうと想像すると少し面白く思ってしまう。
「食べますか?」
元気よく上下する顔に、彼の機嫌はもう元通りになったと安心した。
ーーーーーー
ほぼ竹そのままは流石に持って帰るに困難なので、都合の良い長さで切り落とした。
それでも、立派な笹の枝は、きっと素敵な七夕飾りになるだろう。
帰り道、怪我をしない様にビニールを巻いて抱えて歩く。拍天は拍天で、小ぶりなひとえだを。
「なぁ、桜。
織女と牽牛は何故一年に一度会えるんじゃ?」
「一緒にいる事が楽しくなり過ぎて、怠け者に
なってしまった二人を神様が怒って引き離して…」
「それは知って居る。学校でも言うて居った。
悲しくてすごく元気を無くしてしまったから
一年に一度会って良いと言うことに
なったんじゃろう?」
「ええ。そう言う話ですよ。」
「じゃが、川があるじゃろ」
「天の川ですよね」
「うむ。七夕に川が消えるわけではなかろう?」
「…確かに。地上からは、寧ろ目立って見える?」
「川が割れるんじゃろうか?」
「それは勇者の剣とか手に入りそうです」
「橋を建設するんかのぅ?」
「せっかく作るのに、一日で壊してしまうのは
なんだか勿体無いですね。
木材も無限では有りませんし。
「じゃから"竹"なのではないか?!
実は橋を作るためのものであったとか?」
「うーん。
竹を飾るきっかけとしては成り立つかもですが、
物語として綺羅に纏まって居ませんね。
それに、毎年七夕の翌日は下流には竹の廃材が
流れ着きます。なんてロマンが無いかと。」
2人は並んで唸る。
きっとスマホで調べれば今すぐ答えが出る話なのだろうが、生憎笹の枝で両手が塞がっていることにする。簡単に出る答えより色々思案して答えを見つけることは楽しいのである。
その後も、ファンタジーチックな天の川攻略法を話のネタに歩き、気付けば拍天の足が止まる。
「面白かったんじゃが、着いてしまった」
少し大きめな、庭付きの和風建築。口調が変わっているなぁと思っていたが、由緒がありそうなその雰囲気に驚いた。
「ああ、婆様が少し立派な人だっただけじゃ」
「へぇ…」
「親たちは、ちと、家を空けて居ってな、今は
兄と家を守って居る」
「へぇー。仲良しなんですね」
「ばっ!馬鹿!な、仲良しなどでは無いわ!
いつも喧嘩ばかりで騒々しい」
拍天が笹の置き場所指定して、手が空くと、桜は荷物の中から、あるモノを取り出して拍天に差し出した。
「、、折り紙?」
「はい。今日、私に付き合ってくれたお礼です。
コレを使って賑やかな七夕にして下さい」
「そうじゃ!桜!ならばコレを使って
見事な七夕飾りを作っておく故、七夕に
見に来い!勿論、桜の短冊も飾らせてやるぞ!」
渡した折り紙を握り、詰め寄る姿がなんだかホッコリしてしまう。歳の離れた弟みたいで、つい甘やかしてあげたくなる。
「分かりました。では、その時までに私は
どうやって織姫と彦星が天の川を攻略するのか
調べておきますね」
「うむ。約束じゃ!」
「「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます
指切った!」」
ーーーーーー
翌日、桜は図書館を訪れる。
せっかくだから文明の力には頼らない。
ーーへぇ。そうだったんですね。
答えは時間をかけるまでもなく見つかった。それは勇者の剣は見つからなくて、翌日は下流も安全で、ロマンもある。
ーー"一年に一度会えるのです"の記憶だけでは
勿体無い。早く拍天くんに教えたいな。
《桜の短冊も飾らせてやるぞ!》
ーーさて、何と書きましょうかね?
《ただ一つ願うなら、何を願いますか?
ただ一つ叶うなら、何を祈りますか?》
ーー…私は、、、
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