七夕
笹の葉さらさら軒端に揺れる
お星様きらきら金銀砂子
五色の短冊私が書いた
お星様きらきら空から見てる
それはひと昔、前の話。
一人の女性の人生が幕を下ろそうとしていた。
別れの挨拶に代わる代わる人がやって来て、手を取っては涙ながらに感謝の言葉を残していく。
しかし、女性が本当に枕元に来て欲しいは人達はやって来ない。最後まで、女性を認識してはくれなかったから。
でも、心のどこかで、枕元(ここ)に来ない事をホッとしている。
なぜなら、歳を取ってしまったから。手も顔も皺ができて、髪も白髪が混じって、もう彼らが愛してくれたあの時の姿ではない。
時の流れとは切ないものだ。
ーー私、、がんばりましたよ、、
最期まで生きましたよ。
次生まれても、運命の行き着く先は
皆のところが良いなぁ…
言葉を交わせるかなぁ…
目を合わせられるかなぁ…
触れる事が出来るかなぁ…
私はきっと、また好きになる。
また、好きになってもらえるかなぁ…
遠くで子供たちが歌っている。今日は七夕らしい。空は快晴。きっと夜には天の川が綺麗に見れる事だろう。
目を瞑ると、七夕飾りが目の裏に浮かんだ。
毎年子供達は夢中で飾りを作って、ひとり一枚と言っても、いくつも願い事を書いて飾っていた。
おかげで色鮮やかな願い事が溢れた七夕を迎えて居たのだから、有難い話だったのかもしれない。
ーー私は去年何と短冊に書いただろうか?
いつもは皆と自分の健康を祈っていた。しかし、去年は別の事を書いた気がする。
ーーああ、違う。あれは短冊に書いたのではないわ
お手紙を書いたのだわ。
それも去年の話じゃないわね…
戻って来ないと分かっていても、願いを書きたくなった。未来を願ってみたくなった。
すうっと、夢の中に落ちていく様に意識は体を離れて旅に出る。行き先など分からない。それでも、足を進める。
だって、来世に行けば、彼らに逢えるのだと思うから。
「笹の葉さらさら軒端に揺れる
お星様きらきら金銀砂子」
「桜さん、お疲れ様でした。」
「……櫻さん?…そうでしたね、私の中で眠って
いらしたんでしたね。」
「一緒に参りましょうか。
二度目ですから、案内致しますわ」
死後の道のりが二度目と言えるのはすごい話で、でも、悪戯っぽく笑う櫻の笑顔に、何も違和感なく受け取る事ができてしまう。
「でも、良いのですか?少しでも早く半さんに
会いたいのでは無いですか?」
「少しくらいは待たせる方が、殿方の顔が立つ
というものですわ。
それに、少しくらい恩返しをしなければ、
胸を張って半様のところに行けませんから」
櫻は手を差し出す。
好き好んで人の命を奪っていたわけでは無いにしても、きっと彼らがその身に背負う業は深い。ならば少しくらいゆっくり向かった方が、確かに丁度いいのかもしれない。
桜は手を取って並んで歩き始めた。
ーーーーーー
7月7日。
テレビの天気予報は、今日は終日晴れであることを告げていた。空には天の川が綺麗に見る事が出来るでしょう。と。
一応"お呼ばれ"なのだから、手土産を用意しようと思うのだが、拍天の家族構成を聞いていなかった事を思い出す。
彼が話していたのは、両親が今は不在で、お兄さんと家を守ってると言う話のみ。お婆さんの話が出てきたが、ご健在なのか、同居しているのかは知らない。
というわけでロールケーキなど、手間ではあるが切り分ける物を選ぶのが良さそうな気がする。
思いの外わくわくしていた。
不思議な縁だとは思う。それでも、この歳になって七夕を楽しもうなど、幸せなことに思えた。
ーー夢の彼らに逢えますように…なんて書いたら
流石に夢見過ぎよね…
彼らを探すと約束したものの、手がかりが見つかっていなかった。
現実では、夢での事を忘れていると言うのなら何をどうすればいいのか、ある意味"迷子"になっている。
「あっ!時間っ。そろそろ出ないと。」
桜もまた青空の下を歩き出した。
ーーーーーー
人は死ぬと三途の川を渡るらしい。
その川辺は色とりどりの花が咲き、花畑となっている。そう聞いた気がする。
そして川を渡るのは、なにも川の中を歩いたり、泳いで渡れという訳では無いらしい。
ちゃんと渡し船と言うものがあって、それに乗って向こう側に逝く。
じつは、その渡し船は有料なんですって。
その金額、6文(180から300円位)だそうです。どうにもならないような金額では無くて安心します。
でも私にとっての問題は、そもそもそこではありませんでした。
目の前の川には渡し船も、船頭さんも居ないのです。
花畑もありませんでした。
櫻さんは何度も空を見て、方向を確認するように私をここまで導いていました。
今もまた私には見えない何かをその目は追っている様なのです。
櫻さんは何を見ているのでしょう?
「桜さん。七夕の織姫様はとても淑やかな女性
だったのでしょうね。
だって私は泳いでだって半様の所へ行きたくなって
しまいますもの」
体が弱かったからそんな事は出来なかったけれど…と櫻は付け足す。
「・・・・・」
「さあ、行きましょうか」
「…行くって、、何処へですか…」
「この先へ」
櫻は手を引いて何の躊躇いもなく目の前の川に進んで行く。
「えっ!?ちょっと櫻さん、川ですよ」
「大丈夫、大丈夫。魂取られたりしませんから」
ぴちょん、ぴちょんと水音を立てて足は水面を進む。川であるはずなのに、流れている水が見えるのに、川底はもっと奥なはずなのに、まるで水溜りの上を歩いているよう。
足の下を魚が泳いで通り過ぎて行くのが見えた。
ーー死んでしまった後なのに、わくわくする。
水の上も間も無く終わる。対岸に近づき流れが穏やかになった時、水面に写る自分の姿が若返っている事に気づいた。
それは彼等と共に過ごした時間の自分。
水鏡が望む姿を映しただけかとも思ったが、櫻が握る手に皺は無い。
川を渡りきり、もう三途の川の向こう側に着いてしまったと、桜はわくわくが萎んでいくのを感じていた。きっとこの後、今世で犯した罪の分だけ禊をするのだろう。
人は生きている限り大なり小なり罪を犯してしまうものなのだから、それに見合う位は覚悟しなければいけない。と思っている。
「私ね、桜さんに謝らなきゃいけない事があるの」
「…謝る、、ですか?」
櫻は繋いだ手を離して、桜を振り返る事なく、一歩一歩確実に体重をかけながら、ゆっくりと歩き出す。
「本当はね…」
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