七夕2
「見て驚くぞ!すっごくかっこいい七夕飾りに
なったからな!!」
家の前で待っていた拍天は、桜の姿を認識するなり、一目散に走ってきて詰め寄った。
よっぽどの自信作が出来上がったのだろう、手土産のロールケーキの入った箱も気になっていないようだ。
荷物のない方の手を握ると、引っ張りながらずんずんと進んで行く。
生憎、本日は平日だった為、時間的には、もうすぐ、夕方の時刻を知らせる鐘が鳴るだろう。日没が遅くなっているので、帰る時間を気を付けなければと自身に言い聞かせる。
「戻った!連れてきたぞ!」
「兄達より先に末弟が女子(おなご)を
連れてくる事になるとは何と複雑で哀しい…」
「小学生の色恋沙汰などとママゴトのような
ものではないか。ようはまだまだ"おこちゃま"
ということじゃ!カカカッ」
ーー…あれ……。
玄関に入り拍天が大きな声を出すと、奥から2人の男子が顔を出す。
「…初めま…」
「・・・・小さくない…」
「らく!せき!!事件じゃ!拍天が連れてきたのは
小娘ではないぞ!」
桜が挨拶をする間も無く、片方の男子が大声を上げながら回れ右をして奥に帰って行ってしまう。もう一人は困った顔をして突っ立ったまま。
「じゃから、姉(あね)さん位の者じゃと言うたぞ」
ーー拍天くん…説明が雑…
「拍天!!大切な事はちゃんと言わぬか!
恥を晒す事になるじゃろうが!
完全に高学年かギリ中学生だろうと、
そのつもりじゃっただろうが!」
「完全に儂らの方が、同年代とは驚きを超えて
なんや笑えてくるぞ」
「…四人のお兄さん…」
「そうじゃ!
兄達は双子かける2でな、男しか居らぬ故、喧嘩は
五月蝿いわ、洗濯物は山盛りじゃし、飯は茶色い
など、良い事ないぞ」
拍天の声を聞きながら、夢の姿が重なっていく。瞳に赤い色はなく、額の角も、浮き出た血管もない。ニカっと笑った顔に八重歯は有っても、牙はない。鬼ではない人の姿として。
「……さ、さぎ」
「?!!詐欺とな?!桜!兄達と面識あったか?!
こ奴らが何か騙したり、迷惑などかけた事でも、
あったのじゃろうか?!!」
「拍天くん!貴方は天の川じゃないです!」
「ん?」
突然に顔を近づけ、発した言葉は桜以外意味が分からない。
蜜璃は拍天の事を"天の川"と称した。
しかし、それは違った。
ーー彼は天の川に掛かる橋。
お兄さん達と"桜さん"を繋ぐ橋。
私と一緒で繋ぐ人。
「織姫と牽牛は一年に一度、何処からともなく
やって来た"カササギ"の群れが集まって出来た
橋で天の川を渡るのです」
「"カササギ"…あの小魚か?」
「………小魚?
、、、あ、それは"わかさぎ"じゃないでしょうか?
"カササギ"は鳥です」
玄関で靴を履いたまま、盛り上がっている桜と拍天にコホンと咳払いが聞こえて来た。
「ちと、意味が分からぬのだが、、、」
「先ずは、入って落ち着いてからにせぬか?」
桜の胸がチクリと痛んだ。
ーー私の役目もカササギ。
夢の彼等を繋ぐ人。望んではいけない…
「初めまして。桜と申します。
見つけました。約束をしたから。」
「……約束…?」
「…初対面なのに…?」
「、、見つける?」
「どういう意味だ…」
四人の顔から疑問の色が消えない。
顔を見たら、分かってもらえると思った。
名前を言ったら、思い出してくれると思った。
ーーじゃあ、どうしたら分かってもらえるの?
「本当はですね、、初めましてでは無いの。
何度か夢の中でお会いしてるんです。
私ではない"桜さん"を探す貴方がたと。
人違いをなさっていて、それで私…」
分かって欲しくて、夢でのやり取りを思い出してほしくて、普通なら夢で会ったなんて信じられる訳ない事など思い浮かびもせずに口に出していた。
「貴方がたが残した想いは、
皆さんが消えてしまう前に前世さんから、
お預かりしたのです。
だから、次はきっと皆さんは本当の
"桜さん"に再会できますって
伝えなきゃって、思ってて…」
屋敷解体の時、眠りから醒める直前に櫻から羽と、ぼんぼりとアンティークゴールドの輪っかを渡されていた。と言っても、その時に認識していたわけでは無く、その晩眠りについた時に、夢の中でそれらを抱えて突っ立って居た時に蘇った記憶とでも言うのだろうか。
《消えてしまう前に、お願い…》
桜の夢からなら"桜さん"は四鬼達に再会できる。何故なら桜の夢に彼らは存在しているのだから。
愛する人同士が再会できる。これで悲しい手記を残した彼女は救われる筈だと。
ーー良かった。よかったのよ。
めでたし、めでたし。
しかし、4人の顔からは疑問の色が消えない。
むしろ不審なものを見る様な顔に見える。
「……私ではカササギにもなれない…」
ーー偽物な上に役不足だなんて…
じゃあ、私は一体なんだっていうの…
「桜…涙が、、」
「っ!……その、、えっと、…ごめんなさいっ……」
心配そうにこちらを見る拍天。しかし、不安な心は拍天の表情まで、桜を訝(いぶか)しんでいる様なものに見えてきてしまう。
桜はロールケーキの箱を拍天に押し付けるように渡すとそのまま玄関を出て走り出した。
ーー偶然が重なっただけだけど、
探し出したの。見つけたの。彼らの事を。
でも、ずっと、驚いた顔のままで、
無理ないのは分かっている。
夢は夢だもの。私の願望、空想、妄想、、
それでも、、願わずには居られなかった
だって、
出会う前から、恋をしているのだから。
彼らが私の初恋なんだから…
黒い雲が立ち込めて、湿った風が吹き始めていた。
ーーーーーー
「天気予報外れてるじゃない…土砂降りよ…」
ーー空も自分も…
突然に降り出した雨粒は大きく、所謂ゲリラ豪雨というやつらしい。先程から音を立てて落下している。桜は公園のトンネルと滑り台が一緒になったような遊具で雨宿りをしていた。
突然降って来た割には時間が遅かったせいか、公園に人影はなく、大学生が遊具で雨宿りをして居ても白い目を向けられるような状況ではない。だんだんと水溜りが出来て、こちらへ侵食してくるのを、膝を抱えて目で追っていた。
心を空(から)にしていないと涙が込み上げて来そうになる。湿ったハンカチを握って、ただ雨が止む事を待ち続ける。
きっと、印象は最悪だろう。
初対面で突然、夢で会ったなど、知ったこっちゃない。
気味が悪いだろう。ストーカーと思われたかもしれない。
「もうダメだ…」
初恋は実らない。そう誰かが言っていた。
ならば仕方ない。そういうものなのだと思うしか無い。
豪雨で暗いのか、日が沈んで暗いのか分からない。
ーー雨が止んだら急いで帰ろう。当分こっちの方に
近付かなければきっと、直ぐに忘れてくれるだろう
膝を抱えて、込み上げてきた涙に押し込めと強く目を瞑る。
床を突く様な"トン"という音と、雷とは違う"シャン"という、金属音が聞こえた気がした。
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