詠
空が白み日が昇った。
天窓から日の光が差し込み、
この部屋は光で満たされている。
鬼が住むには必要ない日の光が差す部屋がなぜあるのか
不思議にも思うが、それに答える者は誰も居ない。
しかし人間は光を浴びない事で体の機能や精神的におかしくなる事があるというのだから、桜としては有難い事なのかもしれない。
四鬼達は光を浴びることはできないためであろう、『好きな様に過ごすが良い』と屋敷の奥へと消えて行った。
逃げるなら今。明るいうちに、蝶屋敷まで辿り着ければこの命は確実に生き果せる。
しかし、命がかかっているはずなのに、寝ていないせいなのか、外へ逃げるという考えは現実的とは思えなかった。
そもそも、空喜、可楽に追い回された時に外へ出られなかったのは実証済みである。
ーー体が重い、、
桜は体を横たえると静かにその瞳を閉じた。
仮眠をとってその後に動き出しても遅くはない。
体力が無ければそもそも動くことも判断力もままならないのだから。
ーー光の中なら大丈夫、、
ーーーーーー
ーーー桜、13歳某日ーーー
どんより曇った空は、時折湿気を孕んだ風を吹かせ、それは体にまとわりつくようだった。
そんな気だるい天気の日はどこか心細くなってしまう。
すっかり蝶屋敷の引き継ぎが済んだ詠はなるべく蝶屋敷の事に手を出さないようにと過ごしていた。そして、柱を辞めたと言いつつも隊士を辞めたわけではない為、日が暮れれば日輪刀を手に任務へと出掛けていく。
そして、昨日の夕方に出立したまま、昨夜は屋敷に戻らなかった。
ーー詠さんの顔が近頃少し暗い、、
ただの思い過ごしなら良いのだけど、、
ポツリ、ポツリと雨音が響き始めた、、
「あ!桜さん!!
洗濯物取り込むの手伝ってください!!」
やっぱり降って来ちゃって!と慌てているのは半月ほど前に蝶屋敷へとやってきたアオイ。
連れて来たのは詠だった。詠と3年一緒に暮らして桜は気づいた事がある。詠は犬猫は拾ってこないがたまに人を拾ってくる。
ほとんどは怪我を手当して帰すのだが、極々稀に鬼殺隊に居着く人がいる。その行きつく先は、育手の元や隠にと様々だった。そして、彼女、アオイはさらに珍しく蝶屋敷に留まる事になった。
ここから育手の元に通い、鬼殺隊入隊を目指すのだということだった。
慌てて取り込んだ洗濯物はまだ湿り気を帯びて仕方ないので、アオイと協力して室内に紐を張って干し直した。
敷布で区切られた部屋は迷路のようでほんの少しだけワクワクするのだった。
「誰かいるか」
表の方から声がし、アオイが桜よりも早く立ち上がると表へと走っていった。桜がアオイの後を追って表玄関へ向かうと、そこには体の大きな人が立っていた。
ーー彼は確か、、音柱の宇髄、、様、、、
彼も雨に降られたのだろう。その体からは水が滴り落ちていた。
しかし、どうにも彼から落ちる水滴は色が違う。
その色はひどく赤かった。
彼の腕には見覚えのある色の羽織が抱かれ、しかしその色も所々赤い。
宇髄に抱き抱えられていたのは、紛う事なく詠、その人だった。
「よ、、み、さん?」
桜は宇髄の顔を見上げると、視線の先で宇髄が首を振る。
「早くっ!早く処置室にっ!
何やってるんですか!急いでくださいよ!」
動き出そうとしない宇髄と桜にアオイは叫びに似た声を上げる。
ーーアオイさん、、、
もう、、間に合わないんですよ
「アオイさん。拭くものをお願いします。
私は部屋を用意して来ます」
ーーーーーー
「意外に落ち着いてんだな」
詠の姿を整えている桜に宇髄が声を掛ける。
「そう見えるのであれば、
頑張ってる甲斐があります、、
…自害ですか、、」
無駄に詠に習って怪我人の手当てをしてきたわけでは無い。刀傷かそうで無いかは簡単に見分けがついてしまう。
「血縁が人を喰らったケジメだとよ…」
「…死ぬ事がケジメですか、、」
ーー怪我人を手当してきた人が、、
私を生かしてきた人が、、
人を生かして、自分は死ぬんですか?
……どうして生きるのことを
選んでくれなかったんですか…
「どうして私を置いて逝ってしまったのですか、、」
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