七夕4


何処かの夢の端で2人は並んで笑みを浮かべている。
2人の視線の先は川があった。確かに川なのではあるが、その2人は何も川を泳ぐ魚を眺めて微笑んでいるわけではない。

水面は水鏡になっていて、ここではない何処かを映し出す。先程から2人の青年、2人の男子、1人の男の子に囲まれて、1人の女性が顔を赤くしたり、青くしたり、表情忙しく、それでも笑っている。

その光景を見ていた女性は笑った。

     「ありがとう」と呟いて。


ーーーーーー


桜のお風呂が終わると同じ頃、銭湯組が帰宅し、再会した拍天に手を引かれ七夕飾りに案内された。

笹には短冊だけでなく、折り紙のカブトや手裏剣、カメラなど七夕に関係のない物も沢山飾られて、とても賑やかだった。
「ほれ、凄くかっこいいじゃろ!」
「これは驚きです、見事ですね」
ちゃんと願い事の書いた紙も吊るしてある。元気のいい字で「足が早くなりますように」「兄たちより頭が良くなりますように」「カッコいい兄になれますように」などなど、拍天の願い事は沢山あるらしい。
「桜の短冊も用意してある!何枚でも書くが良い」

「おーい拍。夕飯じゃて。桜さんも一緒に来いと。」
あたふたしている間にどんどん話が進んでしまう。いつの間にか至れり尽くせり状態で、食卓に座っていた。

賑やかに夕食が始まる。拍天が言った様に茶色い料理が多い。しかし、勘違いであった訳だが、弟の恋路の為に一生懸命可愛らしい形にしたのだろうハンバーグや、ひよこが生まれた様に見えるゆで卵、お弁当によく刺さっている可愛らしいピンが色んなおかずに刺してあったり、お兄さん達の頑張りが広がっていた。

皆で「頂きます」をして取り合いのような夕食。さり気なく眉の下がったお兄さんが桜の皿におかずを次々と乗せていく。「軽過ぎじゃから食わねばならん」と。
あっという間に大皿で並んだ料理は消えて最後に桜の手土産のロールケーキ。

そっちが大きい。
こっちが大きい。
おい!潰れて中が飛び出て居るぞ!
チョコレートの星が欲しい!
ナイフにクリームがいっぱい付いてる。
じゃんけんで決めるぞ。
最初は"グー"じゃろが!

目の前で繰り広げられる賑わい。
無条件で巻き込まれていく。
夕飯が終わるとまた拍天に腕を引かれて七夕飾りが揺れる縁側へ。空を眺めて、折り紙を折って、短冊を飾って…
そして時間は知らないうちに過ぎていた。

そうそう、生まれ変わりの彼らの名前だが、拍天の話によると、積、可楽、空喜、藍だと言う。"桜さん"の手記と"あい"の字が違ったが、名付けの際に文字の意味で"哀"ではなく"藍"に変わったのだそうだ。女の子だったら"愛"だった可能性もあったんだとかなんとか…。


ーーーーーー

桜は積の運転する車の後部座席に座っていた。
家まで送ってもらっているのだ。

つい先程まで話をしていたはずの拍天が座布団の上で寝息を立てて居ると思った時には驚くほど時間が過ぎていた。
彼らとしては、服と靴を洗っておく為に桜を足止めしていたらしいが、どうにも時間が短過ぎて綺麗にならず、流石に帰らせなければと言う事だったらしい。
結局服は「クリーニングして返す」と返してもらえず、今も浴衣姿のままだったりする。

車で送ると言われた時には、断ろうとしたが「この期に及んで、一人で帰れるとは言うでないぞ。女性が一人で出歩いていい時間を遠に超えて居る」と一蹴されてしまった。

そして現在、出掛(でが)けに、酔っ払っていた可楽が「送るとか言って、積が送り狼なんじゃろが。このむっつりが!」なんて言うものだから、少しだけ気まずい感もあったりもしている。因みにその酔っ払いは積にその場で殴られた為、今頃玄関の隅に転がっているだろう。

「こちらの都合で遅くまで、すまなかった」
「…いえ、最初に拗らせてしまったのは私ですし、、、
 その、、すいませんでした…」

「謝る必要は無い。」
「でも、、」

「錫杖の音が聞こえた。
 と言っても、錫杖の音をそれとして聞いたことが
 無いはずじゃから、違うものなのかもしれぬ」
「・・・・・」
「ただ、その音を聞いてから、"手放してはならぬ"
 そんな気がして仕方ない」

"目的地付近に到着しました"とナビが案内終了を告げる。

「あのっ、、浴衣、洗ってお返しします。」
「…ん。そんなに気にする様な品では無い故、
 店に頼む必要は無いからな。」
「私の服もそんな良いものじゃ無いので」
「それは話が別じゃて、気にするな」

車を降りて空を見る。
天の川が見える。でも、街の明かりは星の光を曇らせて、少しだけ悲しい。
「知って居るか?昔の七夕は旧暦じゃから、そちらの
 七夕は約一ヶ月後。更に旧暦は月の満ち欠けで暦を
 作って居る故、そちらの七夕では月が必ず
 半月の形で浮かんで居る。
 察しがいい主なら気づくじゃろう?」
空に視線をむけ、話しながらやってきた積は桜の前で足をとめた。
「…月が、、渡し船。」

「正解じゃ」と桜へ視線を変えて表情を柔らかく変化した。

「梅雨の時期も超えて、さぞ空の具合も良かろう」
「……それは、どう受け取ったら良いのか、、」

「また、懲りずに遊びに来るが良い…
 ……拍も、、喜ぶ。」

「積さんは、、、?喜んで下さいますか?」
積がきょとんとした顔で、桜の頭の上に手を乗せると、撫で撫でと行ったり来たりを繰り返す。桜はその意味を測れずにされるがまま固まっていた。

「色恋沙汰はまだよう分からぬ。しかし、
 桜の事は愛でて居りたい。そう思う」

頭を撫でていた手が、髪の毛をすきながら降りて行く。やはり触れられる事に嫌な気はしない。いつもと違うシャンプーの残香がふわりと香った。
改めて掬い上げられた一房の髪は流れる様な手の動きに合わせて引き寄せられ、積の唇が触れた。

「なっ!!」
時間差で追いかけてくる恥ずかしさに、それ以上の言葉は出ず、そして動けない。

「また。」

頭をポンポンと軽く撫でて車に戻ると、そのまま彼は去って行った。




夢の様で、夢では無くて、人を好きになる事を知ってしまった。この出会いはいつから…
青い彼岸花に一目惚れをしてから……

違う。

この人達のために私の感情は存在していただけ。

それは私に欠けていた大切な"モノ"



風に短冊が揺れる。
《運命の行き着く先が笑顔であります様に》と
願いを乗せて。
 


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