最終話
約一ヶ月後。今日は旧暦の七夕。
「桜!早う!早う!」
拍天に手を引いて導かれる先は、笹が揺れていたあの縁側。何度かあの公園で会う事が有り、浴衣を返して、服を返してもらったりはしていたが、再び彼等の家を訪ねるのは七夕以来であった。
手を引かれて進んだ先では、浴衣姿の女性が、今も飾られていた七夕飾りの隣に座っていた。
「あら、いらっしゃいませ。噂に聞いていた桜さんね。
何のお構いできないけれどゆっくりしていらして」
その腕に抱かれていたのは…
「、、、赤ちゃん…。私何も知らずに…
大変な時にすいません。」
「あー。いいのよ。
双子より全然楽だし、もう慣れっ子だから」
ニコニコ笑う女性は本当にあの人達の母親なのかと思うほど華奢で若く見える。桜の中でこの家の七不思議の一つに数える事だろう。
「桜!儂な!お兄ちゃんになったんじゃ!」
《カッコイイ兄になれますように》
「儂、半(はした)の事、悪人から守る兄となるぞ」
母の腕の中の小さな命が、拍天の差し出す指を握る。拍天が嬉しそうな顔をして笑っていた。
「只今帰りました。
母上、拍、桜はもう来て居るのか?」
居間に顔を出した積と可楽は、食材が沢山入っているであろう買い物袋を提げている。
「聞かずとも、玄関に見慣れぬ靴が有ったじゃろうが」
「五月蝿い可楽、お前と違って持って居る荷物の量が
違うんじゃ!早く運べ腹立たしい!」
「あ、私も手伝います」
「あー良い良い!桜は待って居れ。
この後たっぷり働いて貰うからな」
ニカっと笑った可楽は次の荷物を運びに戻って行く。
『この後たっぷり働いて貰う』可楽が発した言葉はそのままの意味で、この後桜は料理をする。拍天が『弁当が美味かった』と話をしたらしく、手料理を食べたい!と言う話になったらしい。
ーーきっと数日分の買い物なんだろうけど、
凄くいっぱいある……。
再び玄関がカラカラと音を立ててパタパタ足音。
「空喜と藍、帰りました!半!兄者が帰ったぞ!
喜ばしかろぅ!」
「待て。先ずは手を洗え。そして着替えろ。
病気を持ち込んでは哀しい。話はそれからじゃ」
「お、桜ももう居るではないか!
藍、今日は喜ばしい事がいっぱいぞ!」
「分かった。分かったから、
やらねばならぬ事が先じゃ。」
飛んで行きそうな空喜を捕まえて、藍は奥へ去って行った。
ーー今日もこの家は賑やかなようです。
ーーーーーー
買い物の荷物が兄弟達の手で片付いていくのを眺めている。感情に偏りのある彼等だが、"大切な人のために動く"この一点においては力を発揮する性分らしい。
そして"きょうの料理"の開始である。
食べる人数も量も多いので、兄4人と協力して。
「人参などいつ振りに買ったかのう?」
「色合いなど考えもせんかったから、長らく
気にも留めなかった野菜じゃな」
「カレーの時は使った!」
「好きじゃない奴が居るとますます使わんでなぁ」
「苦手な方が居るんですか?
使わない方が良ければ避けますが…」
手にした人参から顔を上げると、三つの視線はゆっくりと積の方へ集まって行く、、
ーーあ、苦手な人は積さん。
「だあぁぁああ!!別に食えん訳でもなければ
食わん訳でもないわっ!!話題にするな!
腹立たしい!!」
「桜ー。儂ピーマン好きではないぞ!」
「儂はアスパラ…」
下の双子が恥ずかしげも無く野菜の好みを口にすると、そのラインナップが子どものようで笑えてくる。
話をしながらもそれぞれ野菜の下拵えは進む。
「桜は何か苦手なモノは無いのか?」
「え?…私ですか?うーん…あ。グリンピース?」
・・・・・・・・・・・。
無言の後、笑い声が上がる。
可楽は声を上げて豪快に。
藍は口元を隠して小さく笑い、
積は顔を背けているが、肩が揺れている。
空喜は頬を膨らまして堪えていたが結局笑い声を吐き出した。
「何なんですか!
皆さんの方が子供っぽいじゃないですか」
「有るか無いか探す程度の豆じゃぞ」
「味なんてほとんど無いではないか」
「他の物と一緒に食べればきっと平気」
「色味の為、程度の野菜なのにっ、、カカッ」
「予定変更です…。
皆さんの嫌いな野菜をメインに料理します!」
「なっ!」
「桜が極悪人になってしもうた、、」
「…誰じゃ。アスパラ買ってきた奴は…」
「母上の好物じゃから仕方ないじゃろう」
「で?可楽さんの嫌いな野菜は?」
「桜?!目が座って居るぞ?!!」
「のう桜!儂、楽兄の嫌いな野菜
知って居るぞ!」
「本当?拍天くん。教えて下さいな」
「それはな!」
「拍の裏切り者っ!!」
ーーーーーー
今日は皿の上が彩り豊か。しかし兄弟達のの顔色は土気色(つちけいろ)に沈んでいる。
食卓には兄弟達が嫌いな野菜をメイン使った料理が並ぶ。人参、ピーマン、アスパラにナス。そしてトマト。
「さぁ、どうぞ。召し上がれ」
終始息子達と桜の様子をニコニコ見ている母は、今も尚その様子を眺めている。
「兄達が食わぬなら儂が全て食ろうてやるわ!」
「拍っ、貴様は…」
「桜の作ったものが食えんなど、
兄達は可哀想じゃのう。のぅ母上。」
「グリンピースは怖ろしい…」
「言うな、、」
四人の兄弟達は顔を見合わせ、誰が先に…と、牽制しあっていたが、最終的にはみんな一斉にそれぞれの苦手な野菜が使われた料理を口に運んだ。
「「「「・・・・・・・・・・・」」」」
眉間に寄っていた皺が消えて、箸が忙しなく動き出す。
「わ、儂の分も残しておいてくりゃれー」
涙声の拍天の声がするが、兄達の手は止まらない。
「拍天くんコレどうぞ」
乗り切らなかったおかずを集めていた皿を拍天の前に置くと、キラキラした目が桜を見る
「桜!大好きじゃ!!」
「ありがとうございます」
ーーーーーはっ!!!!ーーーーー
四人の動きが一斉に止まったのを目撃した母は、1人クスクスと笑っていた。
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