最終話2
「暗いんじゃから、あまり遠くに行くでないぞ!」
食事が済んだ後、車を出して人工物の少ない河川敷に積、可楽、藍、空喜、拍天、そして桜は来ていた。
走り出した拍天を追って空喜は駆け出す。
彼は弟のことが可愛くて仕方がないのだろう。
星空観察。ここに来た目的はそれ。
夜空には天の川を挟んで二つの星と、月の舟が輝いていた。
レジャーシートを広げて可楽と藍は寝転がっており、桜は端にちょこんと座って、積は折りたたみ式の椅子を組み上げそれに座って空を見ている。
「綺麗ですね」
「…じゃのぅ」
「そういえば桜?
夢で儂らと会ったと申して居ったが、それらと
現実の儂ら。大きな違いは有るのか?」
「えーと、そうですね…。
引かないで下さいよ…えっと、、見た目は鬼…?
その…ツノがあって、目の色が違って、牙と爪が
鋭くて、、服装は着流しや、山伏の様だったり
それぞれ違って、、、ん?…アレは
服とは違う気がしますが…」
桜は走り回る空喜へ視線を向けた。
ーーそれは置いておきましょう。
「性格などは、今よりややそれぞれの感情に
傾いていて、ちょっとスキンシップが…」
《桜》
呼ぶ声と共に、四人それぞれに口付けをされた時の事を頭の中で思い浮かべてしまった。
唇に。目元に。手の甲に。首元に。
「ああぁぁーー…」
ーー違うの。違うの。夢は願望を映すと言うけど
アレは願望じゃ無くて、、
「…桜?」
「あ、えっと、ちょ…ちょっと、拍天くん達の所に
行って来ますね…」
ーー絶対に顔が赤くなってる。
走って向かっては頬の熱が落ち着く前に着いてしまう。だから早足で。
でも、だから、追いつかれてしまうのだ。
気付いた時には背後から抱き止められて。
「カカカッ赤くなって居るのは何故じゃろうなぁ
聞かせて欲しいものよのぅ?」
「えっ!」
ーー見られてたっ!?
「儂は桜が好きじゃ。
正直軽い性分だと思って居るが、こんな事、
他に思った事がない故、きっと今後も桜にしか
惚れぬと思うぞ?」
「あ、あの、、」
「ド!アホ!!」
「ぐはっ!!
…なっ!何をする!人の告白をめちゃめちゃに
する気か!積!藍!」
殴られた可楽は地面に転がり、自由になった桜の元には藍が駆け寄った。
「桜、、楽に近付いては危ない…穢される」
「穢っ?!!」
「女性に突然抱き付く奴が居るか!!たわけが!」
「好きな子には触りたくなってしまうものじゃろが
儂に罪はない!」
「それが罷り通る世の中は犯罪者だらけじゃ!」
「あの、、暴力は無しで大丈夫です…」
「そんなに優しいと、儂は心配になって、
気が気では居れん…。」
「藍さん?」
「桜が傷付くも、哀しむのも見たくない。
…好きじゃから、取られたくない。儂は嫌か?」
「…あっ、、えっと、、」
「何を戯(じゃ)れあって居るのじゃ!
儂と拍も混ぜろー」
そう声を上げて、兄弟の元へ戻って来ていた空喜の耳に、藍の《好き》が聞こえていた。
人にあまり関心を持たない双子の片割れが、桜に想いを寄せている。それは嬉しい。けれど、面白くないとも思ってしまった。
空喜は拍天を追い越して速度を上げて走る。そのまま桜と藍に割り込むように走り抜けながら桜の手を取った。
「桜!走るぞ!」
「う、空喜さん?!」
「鬼ごっこじゃ!」
手を引かれて桜も走る。
空喜の後ろ姿を見ながら、背中の羽を思い出す。あれはとても綺麗だったと。
空喜が走りながら口を開いた。
「藍が他に興味を持ったことは嬉しい。
でも、嬉しくない。」
「…なっ、、何故?」
「兄弟で同じ人を好きになるのは…な。
それでも、、
儂も桜が大好きになってしもうたんじゃ!
仕方無かろう?!」
桜の手を握る空喜の手が力を増した。
「あーあ。空を飛べたら桜を他が手の届かぬ
場所へ連れて行けるのにのぅ…
…ちと、残念じゃ」
「・・・・・・」
返す言葉を探しているうちに、足が降りた場所に違和感を覚えた。体の角度と足裏の角度が違う。すぐ横が坂になっていた事に気付いていなかった。
バランスを崩した桜の体は重量に引っ張られて落ちる。咄嗟に空喜の手を振り払おうとしたが、彼がそれを許してはくれなかった。
繋がれていた手はそのままに二人は坂を転がっていった。
-
ページ: