心の在りか3


『なっ、何故じゃ?』
「、、先程の林檎のやりとりが気になってしまって…
 ずっと笑ってらしたのに、、目に影が差して、、

 食事を集めて頂いたのにお礼も言ってませんでしたし
 私が気分を害させてしまったのかと、、」

桜は胸元にやった自らの手で服をぎゅっと掴んでいた。
《目は口程にものを言う》
だから、自分の為に向けられた善意を顧みられなかった。

それが気になって仕方がない。
仇と言えど、自分が傷つける事には抵抗がある。

「こうして、ウサギは食べないと我儘も言って」
『違う…違うのじゃ、、
 桜は悪くない、、』


《 嫌っ! 》
可楽と共に桜を追いかけたあの時、襖を開くと目の前に桜が居た。8年待ち続けたのは積怒だけではない。空喜もまた心待ちにしていた。
そんな、桜が目の前に現れてあまりの嬉しさに手を伸ばして、、拒絶の言葉。

仕方ないと思った。鬼が人へ手を伸ばせば拒絶されるのは当たり前のこと。しかし可楽が抱きしめた時も、哀絶が離さなかった時も桜の口から拒絶の言葉は無かった。

ーー儂だけが異形の姿じゃ
  この手が、この足が、羽が、、

『、、儂は醜いか?
 桜は、儂が怖いか?』

「、、何故ですか?」
『何故って、、儂は他と違って異形じゃ。
 人の形を取りながら鳥の手足、ましてや羽など……
 怖がられて当然じゃ。
 しかし、寧ろ喜ぶべきなのやもしれぬな
 儂は鬼なのじゃからのう』


無理にでも笑っている。桜にはそう思えて
空喜の頬に手を伸ばしていた。



「、、、怖く、、ないと思います。
 私を助けて下さいました。
 その羽で一番に飛んできて、
 その爪で守ってくれたのです。」

空喜の頬に触れていた手は離れて行くと、
「でも」と言葉は続く。

「分からないです。
 仇なんです。許せないのに、許したくないのに、、
 鬼は嫌いなはずなのに、
 空喜さんの目は
 どうしたら良いのか分からなくなる、、」

はじめての食事で林檎をと言われた事も、
自分の反応を見て喜ぶ目も詠と被る。

空喜の手を取り、桜は自分の頬にその手を導き小首をかしげるように頬を寄せる。
小さく「やっぱり嫌じゃない」と呟いた後、
空喜へと視線を上げた。

「助けてくれた事、、ありがとうございました」

『、、儂は、桜に

 触れて、良いのか?』
「、、嫌では、ないみたいです。」

『それは実に喜ばしい事じゃ』
桜に取られているのとは反対の手が伸びる。
頬に触れるーーー

と思った。


ぐぅーるるる……

「はっ!!!」
一瞬にして顔を覆うとしゃがんで丸くなる桜。
ふわりとした髪の隙間から覗く耳が真っ赤に染まっていた。

『そう言えばウサギの一件で、
 まだ何も食べて居らなんだな

 ぐるる…と。』
「、、忘れて、ください、、」

『カカッ。喜ばしい、喜ばしい。
 愛らしい桜を独り占めじゃ』
「、、、、、忘れて、、。」

ーー触れて、、良い…。

『桜、行くぞ!!』

空喜は桜の手首を掴むと、そのまま振り返らずに歩き出す。

ーーーーーー

連れられた先では、ほの甘い香りがしていた。
「林檎と、、、葡萄?」
『やはりあの丸いのも食べられるのだな!!
 この手では取ろうにも潰れてのぅ』
取りに来た時にベタベタになったのか、両手を桜に向けてぶらぶらとしていた。
その様は小さな子が「手が汚れたー」と見せにくる様子に似て少し可愛らしく見えてしまった。
「葡萄は一粒ずつではなくて、
 実の付き始めのツルの所を切れば、
 手が汚れる事はありませんよ」
桜の言葉に空喜はあっという間に飛んで行く。

『まことじゃった!
 ほれ!桜!沢山食べるが良い』
あっという間に収穫してきた林檎と葡萄がずいと目の前に差し出され、甘い香りが鼻腔をくすぐる。空喜の手に乗る葡萄の房から一粒欠いて口に運ぶと香り以上の甘さが広がり頬が緩む。



「空喜さんは食べないんですか?
 とても甘くて美味しいですよ」
桜ばかりが食べ、並んで座る空喜はしゃがんで、膝の上で組んだ腕に頬を乗せ桜の様子を嬉しそうに眺めているだけだった。
そんな空喜が甘えた様な顔で笑う。
『儂は、、桜の方が喰いたいのぉ…』
思ってもいない言葉に桜の指先で葡萄が一粒皮から顔を出し、果汁がつーっと肘へ向かって走っていく。

「、、、、ぁ…」
『無くなってしまっては勿体無いゆえ
 喰わぬがの。』
空喜は桜の手を取ると、肌を伝った果汁をペロリと舐め指先に残る果肉を口に含み笑った。
『ほんに、甘い』
しかしその顔はこれまでのニコニコとは違って色を含み桜は鼓動が早くなるのを感じた。

「、、そ、そういうのは、、困ります、」
『カカッ。喜ばし、喜ばし
 儂は桜がますます気に入ったぞ』

恨まれていても、嫌われていても、
そんな事は関係ない。

そんなもの塗り替えて行けば良いのだから

【心の在りか/空喜の場合】
 


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