心の在りか5


「あ、、ありがとう、ございます」
『何故そんなに離れて居る?
 捕まえた故、怖くは無かろう?』
「、、確かにそうなんですけど、、、」
可楽の手の中からみょんみょん触角がのぞいていた。不思議そうな顔をして可楽は虫と桜を交互に見る。

「早く、、、早く外にポイして下さいっ!!」

・・・・・・・・。

ーーポイって。


言った桜も、言われた可楽も一瞬動きを止めた。桜の顔は羞恥心で真っ赤に染まった。

『ほんに、愛いて、桜は楽しいのぉ』

可楽の顔に意地悪な笑みが広がってゆっくりと桜へ一歩進む。真っ赤だった桜の顔はだんだん赤みが引き、寧ろ血の気が引いて青くなって行く。
「、、あの、、それ、、
 虫がまだ、、手の中に居りますが、、、」
桜は小さく2歩後退る。

『んー?これかえ?』
「っ!!!!!」

直接見せないながらも、やはり触角がみょんみょんしているのが分かり、桜は小さく悲鳴を上げた。ゆっくりと可楽が近づいた分だけ、桜は距離を取って下がっていく。

にじり、にじりと平行線が続く。
『何故逃げるんじゃ?
 虫を捕まえてやったのじゃから誉めても良かろーー?』
「そ、、それ、分かってやってますよね?!」
『何の話じゃろうのぅ?
 追いかけして遊ぶかの??
 楽しい事は好きじゃから、望むところぞ!』

ニコリと笑って走り出す可楽に、桜もまた走り出した。本気を出せば秒で桜を捕まえる事が出来る可楽ではあるが、桜を少し困らせてやりたいだけの彼はカカッと笑いながら追いかけ続けていた。


『騒がしいぞ可楽!!腹立たしい!!』
ぐるぐる猫とネズミのように走り続けていたが、それは突如終わりを迎える。
『げっ、、、』

可楽が桜を追い回していた部屋に積怒と哀絶が現れたからだった。

桜は姿を見るなり、二人の後ろへと逃げ込み積怒の着物の袖にしがみついた。可楽から背けた顔にはポロポロと涙がこぼれ落ちていく。

完全に可楽はやり過ぎてしまったという事だ。

『桜泣いてる。』
『ほぅ、、、可楽、、
 己が楽しさに、泣かせた…とな?』

積怒は袖を掴む桜を哀絶の方へ押しやると、可楽をギリッと睨みつけ距離を詰めていく。
引きつった笑い顔で、今度は可楽が二、三と積怒から距離を取るために離れる。

『せ、、積怒よ、そ、そんなに怒らんでも、、
 ほらの、、ちょーっとふざけ過ぎたかのぉとは、
 儂も、その、、思っているわけで、、』
『ちょっと、、。か?』
『すまん!すまん!儂が悪かった!!
 謝る!謝る故!!だからっ』
『ならば撃たれて考え改めぇ馬鹿者が!!』
錫杖を振り上げ、床へと振り下ろされた瞬間、シャンという音と共に雷が可楽を包んだ。

ーーカカッ。
  確かに少しふざけ過ぎてしもうたわ。
  これでは桜に嫌われてしまうのぉ、、、

「も、、もう良いです!
 わ、私が怖がり過ぎただけですっ!」
ーー桜?
  同じ細胞の儂らに積怒の雷は大した
  威力は無いというんに、
  心を砕いてくれるか?

『安心せい。こんなで奴は死なん
 、、腹立たしいがな』

「それでも、もう大丈夫ですから!!」
フンッと鼻を鳴らし機嫌が悪いながらも積怒は雷を止め、腕を組んで可楽を睨み下ろす。
自分が泣きついたうえ、積怒の機嫌が良くないと思いながらも、桜が哀絶の所から離れようとした所で、可楽はそれを静止すると『"コレ"を掴んでいるからのぅ』と苦笑を見せた。
それでも心配そうな桜の顔に可楽は嬉しい気持ちが込み上げて頬が緩む。
『やはり、桜は笑って居った方が愛い。
 意地の悪い事は、、せんよう気を付けよう』

『"気を付ける"でのうて、やめんか腹立たしい!』
 
積怒は雷をくらって動きの鈍くなっている可楽の腕を掴むとずるずる引き摺って桜の前から遠ざけて行く。

『着物を着ぬか馬鹿者が!
 掴む所が無いではないか!
 次は、その髪掴んで引き摺るからな!』
『空喜と違ってちゃんと羽織っておろう?』
『そんな布切れ羽織ってる内に入らんわ
 腹立たしい!』
『怒り過ぎじゃ積怒。
 笑って居った方が楽しいぞ。カカカッ』



やめる事は出来そうに無いのぅ、、
儂は桜の笑った顔も愛いが、
泣き顔も好きじゃからの。

多少の意地の悪さは許してくりゃれ。


【心の在りか/可楽の場合】
 


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