心の在りか4


我ながら少しやりすぎたとも思う。
でも、仕方がない。

泣き顔も愛おしいのだから。


『ん?桜?何をしておるのじゃ?』
桜は空喜が親鳥の如く運んできた"食べられそうな食材"の中から"食べられるもの"を食べられる様に調理する様になっていた。
たまに一緒に食材集めに出かけてもいるようだ。
あの無邪気さは一足早く、胃袋を掴むではないが、
桜との距離を縮める事に成功していた。

しかし今日は調理場で、何やら固まっている。

「…か、可楽さん、、」
突然調理場の隅で何かが跳ねると、桜の肩もビクッと跳ね、可楽の目の前に膝を抱えてしゃがみ込んだ。
『何の遊びかえ?
 儂にも教えてくりゃれ?』

のぉ、のぉ、と言いながらどさくさに紛れて可楽は桜に抱きついていると、桜の口から小さく「、、むしです」と一言。
『むっ!無視とな?!無視は嫌じゃ!
 桜ー。構ってくりゃれー
 哀絶じゃのうても、哀しいぞー』
桜が離してとばかりに、可楽を押し返すが
可楽にその手を離す気はない。

「、、違っ!、、虫、です
 大きいのが跳ねて、、」

再び隅の方でぴょんと虫が跳ねた。
それに合わせ再び桜の背中は小さく丸くなる。

『虫?おお。"いとど(※カマドウマ)"ではないか?
 桜…儂らは怖がらぬのに
 そんな虫が怖いのか?
 喰われるわけでもなしに。』

ガバッと桜が顔を上げると、可楽の目の前に半泣きの桜の顔が広がる。
「っ気持ち悪いじゃない!
 何考えてるか分からないし、
 ぴょんぴょん跳ねるし、
 わざとなのか向かってくるし」
あまりに混乱しているのか、いつもの敬語が崩れているのにも、可楽との距離の近さも気付いていない。
言い切ってキュッと目をつむると目尻の涙は溢れそうだ。
『よーし、よーし。
 儂がいとどなど、ちょちょいと片付けてくれよう』
「、、、本当ですか?」
潤んだ目で見つめられて可楽は首を伸ばして桜の目元に口を付けると、溜まる涙をペロリと舐める。

「っ!!!」
桜がその近さを思い出して体を離そうと押し返すが、それをも楽しんでいるかの様に可楽はカカッっと笑い声をあげる。なかなか離そうとせず、結局、反対側の涙も舐めとった後やっと桜を腕から解放した。

ーー愛い。愛い。

虫の出現と、可楽への抵抗ですっかり疲れた桜はへたり込みながらも、視線は虫を探してオドオドしている。
『さーて。何処へ行ったかのぅ?』
虫というものは、嫌いな人ほど直ぐに見つける事が出来るのに、怖くないと思っている人にはなかなか見つけられないのが常で、可楽があたりを見渡してもなかなかその姿を捉えることができない。

「っ!!あそこです、、」

震えながらも指を差した先で桜の天敵は触角をみょんみょん踊らせていた。
『確かによく見ると気持ちの悪い動きをしよる、、』

とは言っても虫が上弦の肆に勝てるはずもなく難なく虫は可楽につかまった。
『桜やったぞ!もう捕まえたわ

 、、、ん?桜?』

近くに居たはずの桜に目をやったつもりが、そこに桜の姿はなく、元いた場所から更に離れた所で肩を丸めてこちらを見ていた。
 


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