心の在りか6
ーーえっと、、
私は一体どうすれば良いのでしょうか、、?
先程まで泣きついていたのは桜の方であったはずなのに、何故か今、哀絶が桜の肩越しに頭を乗せ縋りついていた。
『哀しい、、』
「、、?」
何度目か分からない哀しいの声に、なんだか桜まで不安な心が大きくなってくるようだった。
しかしそこで桜はハッとする。
蝶屋敷に治療に訪れた人は殆どが不安な気持ちを抱えていた。それでも、その不安さに共感できたとしても、その不安に呑まれてはいけないと。詠の手伝いをする様になって桜はずっとそのようにしてきた。
縋り付く哀絶の頭を優しく撫でる。
「、、大丈夫ですよ。ここに居ますから。
落ち着いてゆっくり話してみて下さい」
『・・・・・・・。
桜は、、積怒が良いか、、』
「・・・・・?」
『可楽から逃げてきた時、
儂よりも積怒の着物を掴んでおった、、
儂は頼りないか、、?』
ーー、、そういう意味、、
「頼りなくないですよ。
あの時は、、その、
あの着物が掴みやすかっただけで…。
誰とか考えるどころでは、なかった、、です、、。」
『先刻は泣かせた筈の可楽の肩を持ち、
空喜とは共に二人で出掛けて行く、、
何故じゃ?
桜と言葉を交わしたのも、桜の唇に触れたのも
儂が一番初めの筈じゃったのに、、』
縋りついていた手は桜の体を抱きしめる。
『桜がどんどん他にとられていく、、
儂の手から離れていってしまう、、』
《どうして詠さんまで
取り上げられなきゃいけないんですか?》
それは蝶屋敷にしのぶが来た当初に桜自身が抱いた感情に似ている気がした。大切な物がどんどん遠くに行ってしまうようで、必死に「取らないで、行かないで」としがみつこうとしたあの時に。
「私は、、
『桜が欲しい。
何を言われようと腕の中に捕まえて居りたい。
積怒の着物を掴んだ時も、
空喜が触れた時も、
可楽の元へ行こうとした時も、
哀しくて、哀しくて仕方がないのじゃ、、』
『傍に居って欲しい。
笑って欲しい。
触れて欲しい。
儂のための桜で居って欲しい…』
ーー例えそれが
とても醜く、歪んだ気持ちだったとしても…
肩に乗せた頭を桜の方へ傾けると、哀絶には積怒が8年前に付けた首元のアザが目に入った。
ーー積怒のものでは無い、、
哀しいがどんどん膨れ上がってドロドロと自らの首を絞めている様な気がした。痛くて、苦しくて、、この気持ちから救い出して欲しくて
気づいた時には桜の首元のアザに牙を立てていた。
口に広がる甘い血の味。
美味しいと思うのに涙が一つ線を書いた。
ーー何故こんなにも哀しいのじゃろう、、
「あ、哀絶さ、、ん。…痛い、、です…」
桜の声に我に返った哀絶はその血の赤さに驚いた。
噛み跡から白い肌へ血が伝う。
『儂は、、何故、、』
一度は我に返ったものの、その血は哀絶の理性を掻き乱す。
『桜、、すまない…』
「…え?、、ちょっ、、!」
哀絶の顔は桜の肌に沈む。もう牙を立てることはしないが、流れる血に唇を寄せ、舌は何度も行ったり来たりを繰り返す。
その血は甘くて、むしろ血のほうが哀絶を捕まえて離さない様だった。
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